第113回:NECアクセステクニカの無線LANルータ「AtermWR7800H」の
IEEE 801.11a/b/g同時通信の実力を検証



 NECアクセステクニカから最新の無線LANルータ「Aterm WR7800H」が発売された。基本的な機能はWR6600Hとほぼ同等だが、IEEE 802.11a/b/g同時通信への対応が最大の特徴だ。同時通信の性能を中心に実力を検証してみよう。





使いやすさはそのままに性能を向上

Aterm WR7800H。店頭販売価格は24,780~24,800円程度

 以前、本コラムで取り上げたAterm WR6600Hから遅れること半月、その上位モデルとなるAterm WR7800HがNECアクセステクニカから発売された。WR6600Hは、ボタンを押すだけで無線LANの設定が可能な「らくらく無線スタート」を搭載するなど、どちらかというと「使いやすさ」が重視された製品であったが、今回のWR7800Hは使いやすさはそのままに、さらに性能が強化されている。

 具体的には、IEEE 802.11a/b/gの同時通信に対応した。WR6600HはIEEE 802.11a/b/g準拠と言っても切替え式のため、IEEE 802.11aか、IEEE 802.11b/gのどちらか一方でしか利用できなかった。しかし、WR7800Hでは、同時通信に対応することで、IEEE 802.11a/b/gのすべての規格からの接続を可能にしている。IEEE 802.11a/b/g同時通信対応機は、すでに他社から発売されているが、ようやくNECアクセステクニカからも登場したことになる。

 個人的には、今、無線LAN機器を購入するのであれば、IEEE 802.11a/b/g同時通信対応機を選ぶのがベストだと考えている。もちろん、IEEE 802.11g準拠製品や切替え式の製品に比べれば価格は高くなってしまうが、その分、柔軟な無線ネットワークを構築することができるからだ。

 たとえば、2台のクライアントをそれぞれIEEE 802.11a、IEEE 802.11gと使い分けるのもいいだろうし、最近増えてきたネットワークメディアプレーヤーなどの映像伝送はIEEE 802.11aで、PCはIEEE 802.11gでと使い分ける方法もある。複数の無線LANクライアントが存在する場合、単一の周波数帯だけでは、どうしてもクライアントの数(同時に通信する端末の数)に応じて速度が低下するが、IEEE 802.11aの5GHz帯とIEEE 802.11b/gの2.4GHz帯の2つの周波数帯を使い分ければ、この速度低下を最小限に抑えられる。

 単純にIEEE 802.11a/b/gのすべてのクライアントを収容できるというだけでなく、それぞれの用途などを考慮して、積極的にIEEE 802.11aとIEEE 802.11gを使い分けられることこそが、IEEE 802.11a/b/g同時通信対応機の魅力と言っていいだろう。





処理性能の向上で同時通信の速度も確保

 早速、WR7800Hの実力を試してみよう。まずは、IEEE 802.11a、IEEE 802.11gとそれぞれを単体で利用したときの性能を検証してみた。WR7800Hでは、Super A/Gのモードが3種類用意されているので、それぞれのモードでFTPの速度を計測した。

無線方式Super A/G20MB ZIPファイル20MB TEXTファイル
GETPUTGETPUT
IEEE 802.11a使用しない23.89Mbps22.80Mbps23.81Mbps23.06Mbps
使用する(圧縮なし)33.22Mbps27.79Mbps33.38Mbps28.90Mbps
使用する(圧縮あり)29.35Mbps28.13Mbps64.42Mbps51.83Mbps
IEEE 802.11g使用しない22.98Mbps21.53Mbps22.95Mbps22.51Mbps
使用する(圧縮なし)32.55Mbps28.26Mbps32.48Mbps29.57Mbps
使用する(圧縮あり)28.93Mbps27.37Mbps61.23Mbps48.91Mbps
※サーバーにはPentium4 1.8GHz、RAM512Mを搭載したLinuxを使用(ProFTPd)
※クライアントにはCeleron 1.6GHz、RAM512Mを搭載したWindows XP Home搭載機を使用(コマンドプロンプトのFTP)
※暗号化には128bitのWEPを使用

 ここで注目したいのは、Super A/Gを「使用する(圧縮あり)」に設定したときのテキストファイルの転送速度だ。IEEE 802.11gで最大61.23Mbps、IEEE 802.11aでは最大64.42Mbpsという速度を計測できた。以前、同様のテストをWR6600Hで実施した際には、48Mbpsが限界だったことを考えると大幅な速度向上だ。Super A/Gのリアルタイム圧縮の効果は、アクセスポイント本体の処理能力に大きく左右されるが、WR7800HにはWR6600Hよりも高性能なCPUが搭載されているため、この効果が大きく表われたことになる。

 もちろん、この速度は、すべて「0」で埋めたテキストファイルを利用したときの場合であり、あまり現実的なものとは言えない。しかし、ZIPファイルの転送でも33Mbps前後(Super A/G使用、圧縮なし時)の実効速度を実現できていることから、無線の速度に関してはかなり高速な部類の製品だと言える。有線のスループットもBフレッツ・ニューファミリーで計測したところ60Mbps前後であったので、速度的な不満はほとんどないだろう。

 続いて、注目の同時通信時のパフォーマンスを検証してみた。2台のPCを用意し、同じ規格で接続した場合と、それぞれIEEE 802.11aとIEEE 802.11gで使い分けた場合で、速度を計測した。なお、この測定には、ネットワークのパフォーマンスを計測する「NetPerf」というツールを利用した。

PC1→PC2NetPerf
有線→IEEE 802.11a29.88Mbps
有線→IEEE 802.11g28.52Mbps
IEEE 802.11a同士11.79Mbps
IEEE 802.11g同士11.34Mbps
IEEE 802.11a→IEEE 802.11g18.75Mbps
IEEE 802.11g→IEEE 802.11a18.24Mbps
※PC1にはPentium4 1.8GHz、RAM512Mを搭載したWindows XP Professional機を使用
※PC2にはCeleron 1.6GHz、RAM512Mを搭載したWindows XP Home搭載機を使用
※暗号化には128bitのWEPを使用し、SuperA/Gは「使用する(圧縮あり)」で計測


 グラフを見れば一目瞭然だが、やはりIEEE 802.11aとIEEE 802.11gで使い分けた際のパフォーマンスは良好だ。内部処理の関係からか、無線を単独で使った場合(有線→IEEE 802.11a/g)に比べると速度は落ちるが、IEEE 802.11a同士、IEEE 802.11g同士の転送に比べて1.8倍近い速度が出ている。

 もちろん、ファイルの転送などといった使い方であれば、11Mbpsでもさほど大きな問題ではないが、録画したテレビ番組をネットワーク経由で再生するなどといった場合には、この差が大きく表われる。一般的に、映像の再生などではビットレートの1.5倍~2倍近いネットワークの速度が要求される。つまり、11Mbpsでは4Mbpsクラスの普通画質の映像しか再生できないが、18Mbpsであれば8Mbpsクラスの高品質の映像も再生できるということになる。

 また、無線同士の相互通信に加えて、同時利用時のパフォーマンスも計測してみた。PC1とPC2の2台のPCを用意し、PC1でインターネット上のストリーミング映像を再生しつつ、PC2でLAN上のFTPサーバーに接続し、速度を計測するというテストだ。

PC1(映像再生)PC2(FTP)GETPUT映像の途切れ
IEEE 802.11aIEEE 802.11a25.06Mbps16.30Mbpsまれにあり
IEEE 802.11g32.24Mbps26.80Mbpsなし
IEEE 802.11gIEEE 802.11g16.72Mbps16.74Mbps頻繁にあり
IEEE 802.11a28.72Mbps21.74Mbpsなし
※PC1でフレッツ・スクウェアの6Mbpsのコンテンツを再生しながら、PC2と有線接続のサーバーとの間でFTP転送を実施
※PC2にはCeleron 1.6GHz、RAM512Mを搭載したWindows XP Home搭載機を使用(コマンドプロンプトのFTP)
※FTPサーバーには有線で接続したPentium4 1.8GHz、RAM512Mを搭載したLinux機を使用(ProFTPd)
※暗号化には128bitのWEPを使用し、SuperA/Gは「使用する(圧縮なし)」で計測
※FTP転送には20MBのZIPファイルを使用

 この場合も、やはりIEEE 802.11aとIEEE 802.11gを使い分けた際のパフォーマンスが良好だった。IEEE 802.11a同士の場合はさほどパフォーマンスが悪くなかったが、PC1、PC2ともにIEEE 802.11gを利用した場合はFTPの速度が16Mbps前後にまで落ち込み、さらにPC1で再生中のストリーミング映像も頻繁に映像が途切れることが確認できた。

 複数台の無線クライアントが同時に別々の通信を行なうというのは、家庭などでもよくあるケースだと考えられる。ホームページを閲覧する、メールを送受信するといった帯域をさほど使わない作業であれば、同一規格の同時通信でも問題ないが、ストリーミング再生などには厳しい面もある。これらの結果を見る限り、やはりPCごとに無線の規格を使い分けるメリットは大きいと言えるだろう。





お買得感の高い一品

 以上のように、新たにIEEE 802.11a/b/gの同時通信に対応したAterm WR7800Hは、かなり高性能な製品だと言うことができる。もちろん、使いやすさという点も考慮されており、以前WR6600Hのときに紹介した「らくらく無線スタート」によるクライアントの自動設定などもサポートされている点もうれしい限りだ。

 欲を言えば、もう少し価格が安くなるとうれしいところだが、全体的な完成度の高さを考えれば、納得できるところでもある。さらに、個人的にはNTT東日本が提供している「FLETS.Net」を利用するためのIPv6ブリッジへの対応、VoIPへの対応がなされれば文句はないところだが、一般的な利用であれば、現状の機能だけでも十分だろう。現時点では、かなりおすすめできる製品の1つと言ってよさそうだ。


関連情報

2004/8/10 10:55


清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。