第250回:「無線LAN=難しい」というイメージを払拭
バッファローの「つなぐだけ無線LANセット」



 バッファローから、無線LANルータと無線LANコンバータのセットモデル「WHR-HP-G54/EK」が新たに発売された。こうした製品自体は従来から存在したものだが、この製品は「つなぐだけ」という手軽さにフォーカスしてパッケージ化されている。





PLCは「簡単」、無線LANは「難しい」というイメージ

 無線LANが手動設定のみだったときのイメージがよほど強いのだろうか。「コンセントにつなぐだけ」というキャッチコピーで登場したPLCが、「簡単さ」をうまく訴求することができたのに対して、無線LAN市場のイメージは未だに「難しい」という印象をひきずっている。

 バッファローの「AOSS」やNECアクセステクニカの「らくらく無線スタート」といったボタン設定の登場により、無線LANの設定は従来よりも飛躍的に手軽になった。しかし、WEPやWPS、AES、暗号キーといった言葉が目に飛び込んでくると、初心者は「難しい」というイメージを持ちがちだ。そもそも無線LANでは「IEEE 802.11a/b/g」だの「2.4GHz帯」だのと初心者にはとっつきにくい言葉が多く使われており、これらの言葉がパッケージにこれでもかという勢いで並べられていれば、どうしても簡単には思えないのも納得できる。

 ボタン設定に関しても、それぞれの技術はすばらしいのだが、「AOSSとらくらく無線スタートは何が違うのか」「お互いに接続することはできるのか」といった疑問を持ち始めると、頭が混乱してしまうという人も少なくない。となると、「つなぐだけ」と訴求しているPLCの方が簡単に思えるのも当然かもしれない。





無線LANで「簡単さ」を再アピールするパッケージ

 そんな状況の中、バッファローから新たに登場したのが、今回取り上げる「つなぐだけ無線LANセット WHR-HP-G54/EK」だ。「つなぐだけ」というキーワードを利用することで、無線LANに対するイメージを一新しようというのがその狙いだ。


つなぐだけ無線LANセット WHR-HP-G54/EKのパッケージ。「つなぐだけ」という手軽さが訴求されている

 ただし、「新たに登場」と言っても、製品自体は決して新しいものではない。セットとなる親機の「WHR-HP-G54」は本コラムでも以前に取り上げた、IEEE 802.11b/g準拠の無線LANルータハイパワーモデルの”はしり”的な製品だ。一方、子機として同梱されるIEEE 802.11b/g準拠の無線LANコンバータ「WLI3-TX1-G54」も、すでに発売されている製品だ。


ルータの「WHR-HP-G54」、コンバータの「WLI3-TX1-G54」ともにすでに発売済みの既存の製品

 ではどこが「つなぐだけ」なのかというと、子機となる「WLI3-TX1-G54」はイーサネット接続タイプのコンバータだが、出荷時状態でWHR-HP-G54への接続設定が行なわれており、ユーザーが接続設定を行なう必要が一切ない。まさに「つなぐだけ」で利用できるというわけだ。

 この再パッケージ化は、個人的には高く評価したい。これまでの無線LAN製品は、通信速度やセキュリティなど、どちらかというと技術的な面ばかりが訴求されてきた。もちろん、これらの特徴を重視するユーザーも少なくはないが、はじめて無線LANを利用するというようなエントリー層に必要なのは、むしろ「手軽さ」だろう。このようなユーザーのニーズを素早く分析し、それに答える形で製品を登場させるあたりは、さすが無線LAN製品を長く扱ってきたメーカーだけのことはある。

 なお、同様に親機とイーサネット接続タイプの子機をセットにし、出荷時に接続設定を設定済みとしておくという方法は、NECアクセステクニカのAtermシリーズ(ワイヤレスセットSE)でも以前から行なわれていた。つまり、この手法自体も決して新しいわけではないのだが、「つなぐだけ」という手軽さを前面に押し出しているあたりが違いだろう。





箱から出して、まさに「つなぐ」だけ

 実際に使ってみたところ、これは確かに手軽だ。箱から取り出して、ケーブルや電源をいくつか接続するだけですぐに利用できる。具体的な手順は以下の通りだ。

  1. 親機を接続
     WHR-HP-G54は出荷時設定でアクセスポイントモードとなっている。最近ではADSLやFTTHなどですでにルータを利用しているケースが多いため、LANケーブルでルータと接続し、電源を入れる。

  2. 親機をルータと接続

  3. 子機を接続
     WLI3-TX1-G54のポートとPCのLANポートをケーブルで接続。電源ケーブルも接続する。


  4. 子機をPCと接続

  5. 設定完了

  6.  親機と子機の電源がオンになると、あらかじめ登録されていた設定で自動的に接続され、無線LANでの通信が可能となる。

 このように、すでにルータが存在する場合は、まさに「つなぐ」だけで利用することができるというわけだ。

 もちろん、AOSSを利用できるので、ゲーム機や無線LAN内蔵ノートなどの接続もカンタンだ。後から機器を追加する場合でも安心だろう。





手動設定が必要な場合はユーティリティを利用

 一方、家の中にルータが存在しない場合などは、残念ながらすべて自動というわけにはいかず、手動での設定も必要になる。WHR-HP-G54の底面にある切り替えスイッチを変更することで、ルータ機能をONにできる。ルータの設定画面からインターネット接続の設定を行なう必要はあるが、無線LANの設定は不要なので、さほど難しくはないだろう。


本体底面のスイッチを切り替えることでルータモードで動作できる

 なお、本製品にはWAN側の回線種別を自動的に判別することでインターネット接続設定をサポートする「インターネット@スタート」という機能が搭載されており、ルータモードで利用する場合は、この機能を利用して回線の自動判別や設定などを手軽に行なうことができる。ただし、筆者宅の環境ではインターネット@スタートがうまく動作しなかったため、手動で設定を行なった。手動の場合でも回線種別などは自動判別されるので、さほど手間はかからない印象だ。


ルータモードで利用する場合は、環境によってインターネット接続の設定が必要。設定画面から接続IDやパスワードを設定しておく

 一方、コンバータを手動で設定する場合には、専用のユーティリティを利用する。標準では[ 1.1.1.1 ]というIPアドレスが割り当てられているようなので、IPアドレスをローカル環境に合わせて変更するという作業が必要だ。ただし、本製品の場合は、アクセスポイントとセットで使うことが基本なので、コンバータの設定を変更する機会は滅多にないと考えて良いだろう。


コンバータの設定には付属のユーティリティを利用する。IPアドレスを設定しておけばブラウザでの設定も可能だ

ゲーム機や家電だけでなくPCでの利用も再検討を


 これまで、イーサネット接続のコンバータは、ゲーム機やAV機器など、PC以外の機器を接続するために利用するというのが一般的だった。

 しかしながら、PLCの登場によって、アダプタとPCを有線で接続するという形態を望むユーザーが存在することが明らかになってきた。主な用途はデスクトップPCだと考えられるが、ノートパソコンなどで利用するケースも実は少なくないと考えられる。場合によっては、無線LAN内蔵ノートであっても、設定がわからないからという理由で、コンバーター経由で接続する人もいるのではないだろうか。

 個人的には電源の接続が必要なコンバータはスマートに思えないのだが、手軽さを考えると、この方式も悪くはないのではないかと感じた。たとえば、自分の両親が無線LANを使いたいと相談してきた場合、AOSSでの接続設定を勧めるよりは、つなぐだけのコンバータを勧めるほうが向いているかもしれない。

 いずれにせよ、簡単さという点では、確かに高い完成度を誇る製品であることは間違いない。とにかく面倒な設定なく無線LANを使いたいと言うのであれば、本製品の利用も検討をお勧めしたい。


関連情報

2007/6/26 11:09


清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。