5GHz帯への移行に最適な普及価格モデル NECアクセステクニカ「AtermWR8750N」


 NECアクセステクニカから、2.4GHz帯と5GHz帯の同時通信に対応した無線LANルーターの普及価格帯モデル「AtermWR8750N(HPモデル)」が発売された。スマートフォンの普及などで、混雑しつつある2.4GHzから、PCやネット家電を移行させるのに最適な製品だ。


デュアルバンドをリーズナブルに

 「もう、2.4GHzのみというのは選択肢として考えにくい」。スマートフォンの普及で、無線LANの利用率が増え、ますます混雑の度合いが増してきた2.4GHz帯を見ていると、つくづくそう思えてくる。

 もともと狭い帯域の中に重なるようにして配置されたチャネルを周辺のアクセスポイントと干渉しないように使い分けるだけでも厳しいのに、300Mbps、450Mbps対応製品の登場で1つのアクセスポイントが倍の2チャネル(40MHz)を占有しようというのだから、もはや無理としか言いようがない。

 もちろん、つながれば良い、というレベルであれば、干渉など気にしなくても良い段階とも言えるが、映像伝送などで一定のパフォーマンスを無線LANで実現しようとすると、結構真剣に、この問題を考えなければならなくなってくる。

NECアクセステクニカのAtermWR8750N-HP。IEEE802.11n/aの5GHz帯とIEEE802.11n/b/gの.4GHz帯の同時通信に対応した無線LANルーター

 というわけで、今回取り上げるのが、NECアクセステクニカのIEEE802.11n/a(5GHz)とIEEE802.11n/b/g(2.4GHz)の同時通信に対応した無線LANルーター「AtermWR8750N-HP(以下末尾のHP省略)」だ。従来モデルとなるAtermWR8700Nの後継となる製品だが、外観のデザインの変更と小型化に加え、最新モデルで採用されている有線ポートの省電力機能やUSBカメラ対応、スマートフォン向けのQRコード設定アプリなどの機能に対応。そして何より、価格が実売で1万円以下(9800円前後)にまで下げられている。

 これまで、2.4GHzと5GHzの同時通信対応機はハイエンドの高価なモデルという印象があったが、リーズナブルな価格のAtermWR8750Nの登場で、同時通信対応機がより身近になった印象だ。


無線にはAtermWR9500Nと同等

 それでは、製品を見ていこう。本製品は、外観が若干異なる点、そして無線LAN部分が2.4GHz、5GHzともに300Mbps対応(2ストリームMIMO)であること以外は、ほぼ最上位モデルのAtermWR9500N(5GHzが3ストリームMIMO対応の450Mbps)と同じだ。

 まずは、外観だが、角を丸くしたスリムな縦長のボディの前面にパネルを配したデザインになっている。やわらかな印象のスタイリッシュなデザインだが、AtermWR9500Nの前面パネルがピアノ調の光沢のあるブラックであるのに対して、本製品では光沢のないタイプに変更され、LED部分の模様も若干変更されている。高級感という点では、やはりAtermWR9500Nに分があるが、シンプルながら落ち着いた悪くないデザインだ。

前面側面背面

 サイズは、幅35×奥行き111×高さ152mmで、前述したとおり、従来モデルのAtermWR8700から約17%小型化された。Atermシリーズは、古くからアンテナ内蔵にこだわってきた製品だが、本製品も同様に外部へのアンテナの飛び出しはなく、非常にコンパクトで扱いやすい。

 インターフェイスは、側面にすべて1000BASE-T対応のLAN×4、WAN×1が用意され、さらに簡易NASやカメラ監視用のUSBポート×1、ルーターモード/アクセスポイントモード切替スイッチ、電源コネクタが搭載される。

 なお、今回、試用した製品はイーサネットコンバーターの「AtermWL300NE-AG」がセットになったモデル(PA-WR8750N-HP/E)だが、これ以外にUSBスティックの子機「AtermWL300NU-AG」がセットになったモデル、そして単体モデルの3種類がラインナップする。

今回試用したモデルはイーサネットコンバーター「AtermWL300NE-AG」が付属した製品。有線LAN接続にしか対応しない家電などの接続に便利

 このAtermWL300NE-AGは、IEEE802.11n/a/b/g、最大300Mbps通信に対応した子機で、背面の2つのLANポートにPCやネットワーク対応テレビなどを接続することが可能になっている。親機となるAtermWR8750Nとの接続設定は出荷時に済んでいるため、LANケーブルを接続し、電源を入れるだけで利用できる。標準で5GHzで接続される設定になっているので、有線にしか対応していない家電などを接続したい場合は、セットモデルを選ぶと良いだろう。


QRコード接続でスマートフォン接続が簡単に

 機能的には、これまでのAtermシリーズの集大成+アルファといった感じだ。基本的には、上位モデルのAtermWR9500Nと同等となるが、新たに「AtermらくらくQRスタート」に対応した。

 本体の取扱説明書と一緒に同梱されているスマートフォン向けのセットアップシートにQRコードが記載されており、無料の「AtermらくらくQRスタート」をインストールしたAndroid端末から、このQRコードを読み取ると、SSIDや暗号キーなどの設定情報が読み込まれ、スマートフォンに簡単に無線LAN設定を適用することができる。

スマートフォンの接続に便利なQRコード方式のセットアップを採用。アプリからコードを読むだけで簡単に設定できる

 モバイルルーターのAtermWM3600Rと同様、出荷時設定のみの対応で、自分でSSIDや暗号キーを変更している場合は利用できないうえ、現状はAndroid版のみでiOS用アプリは提供予定となっているが、これでスマートフォンでの利用がより手軽になった印象だ。

 なお、以前のAtermシリーズでは、サードパーティ製のアプリである「ホームコネクト for Aterm」や「PicupShare for Aterm」を利用して外出先から簡易NAS機能にアクセスすることができたが、今回のAtermWR8750Nで試してみたところ、若干、動作に難があった(※注:「ホームコネクト for Aterm」と「PicupShare for Aterm」はWR8750Nは未サポート)。

 ISW11Fを利用し、アプリから簡易NAS機能にアクセスしようとしたところ、「ホームコネクト for Aterm」では接続はできたものの、肝心のAtermが認識されなかったり、設定が保存されなかった。また、「PicupShare for Aterm」でも、接続はできたものの、接続したUSBメモリのフォルダが表示されなかった。AtermWR9500Nを利用した場合、「PicupShare for Aterm」からフォルダを参照できたので、現状は未対応と考えた方がよさそうだ。

 もちろん、ブラウザを利用してアクセスすることは可能なので、スマートフォンから自宅のデータを参照したり、撮影した写真をアップロードすることなどは可能だが、手間を考えると、やはり、アプリから手軽にアクセスできるのが望ましいだろう。

ブラウザからのアクセスは可能


SSID分離機能を追加

 このほか、新機能としては、スマートフォンだけでなく、PCやゲーム機などでの利用にも便利な「SSID内分離(セパレート)」も新たに搭載された。これは、端末同士の通信を遮断するセキュリティ機能だ。

 従来モデルでも、「ネットワーク分離機能」を利用することで、端末間の通信を遮断することはできたが、「ネットワーク分離機能」が異なるSSIDの端末間の通信を対象にしていたのに対して、今回の「SSID内分離(セパレート)」では文字通り同一SSID内の端末同士の通信も遮断できる。

SSID内分離機能を新たに搭載。友人などが自宅の無線LANを使った場合でもLAN内の端末との通信を遮断できる

 AtermWR8750Nでは、2.4GHzと5GHzのそれぞれに2つずつ、合計4つのSSIDを利用できるが、2.4GHzのセカンダリSSIDでこの設定を有効にしておけば、友人などが遊びに来たときにスマートフォンやPCを接続してもらっても、同じSSIDに接続しているスマートフォンやPCへの通信を遮断できる。これで心置きなく自宅の無線LANを友人などに開放することができそうだ。

 ちなみに、SSIDと言えば、昨年末からGoogleの位置情報データベースからオプトアウトする方法として「_nomap」を付ける方法がアナウンスされているが、この対策については今回は何も用意されていない。メーカーとしてどこまで対応するかは意見が分かれるところだが、今回のQRコードのようなしくみを用意する場合、「_nomap」の付加によって、せっかくのしくみが使えなくなるので、何らかの対策やガイダンスは欲しいところだ。


2.4GHzは20MHz接続になるケースも

 気になるパフォーマンスだが、なかなか優秀だ。木造3階建ての筆者宅の1階にアクセスポイントを設置し、各フロアでFTPの速度を計測した結果は以下の通りとなった。

無線スループット
 GET(Download)PUT(Upload)リンク速度
1F2.4GHz(20MHz幅)94.3173.48144Mbps
2.4GHz(40MHz幅)106.66103.46300Mbps
5GHz(40MHz幅)138.7695.69300Mbps
5GHz(WL-300NE-AG)117.5991.5
2F2.4GHz(20MHz幅)74.2360.13130~144Mbps
2.4GHz(40MHz幅)77.3670.22270~300Mbs
5GHz(40MHz幅)82.4865.73216~243Mbps
5GHz(WL-300NE-AG)102.0285.62
3F2.4GHz(20MHz幅)67.3955.61117~144Mbps
2.4GHz(40MHz幅)58.3948.04216~240Mbps
5GHz(40MHz幅)60.6242.8790~120Mbps
5GHz(WL-300NE-AG)57.2465.36
※Mbps
※サーバー:Core i7 860/RAM8GB/HDD2TB
※クライアント:ThinkPad X1(Intel Core i3-2310M 2.1GHz/RAM2GB/HDD320GB/Ultimate-N 6300/Windows7 Professional 64bit)
※サーバー上に作成した4GBのRAMDISK上に900MBのMTSファイルを保存しFTPにてファイル転送した際の速度を計測

 5GHz帯(IEEE802.11na)で、同一フロアで最大138.76Mbps(GET)を計測できており、離れた3階でも50~60Mbpsで安定して通信できた。非常に優秀な結果と言って良いだろう。

 一方、2.4GHzであるが、こちらは環境次第と言えそうだ。筆者宅では、周辺のアクセスポイントが増えた影響からか、デュアルチャネルを有効にしても、40MHz幅ではなく20MHz幅で接続されるケースが多かったため、最高速度は106Mbps前後だったが、普段は20MHz幅の94Mbps前後になることが多かった。

 AtermWR8750Nでは、Web設定画面でデュアルチャネルが有効になっている場合でも、周辺の電波状況などを調査して自動的に20MHzで接続するようになっているが、この設定が若干シビアなようで、旧製品や他社製品では40MHzで接続される場合でも、20MHzに落ちてしまう傾向にある。

周囲の状況によっては、デュアルチャネルを有効にしていても、利用するチャネルが1つ(20MHz幅)になりやすい

 筆者宅の場合、設置場所やタイミングが良ければ、40MHzで接続されることもあったが、環境によっては2.4GHzで40MHzで接続できない場合もありそうだ。冒頭でも触れたように、そもそも帯域の狭い2.4GHzで、たくさんのユーザーが40MHz幅を使おうということ自体がそもそもの間違いであるため、これも致し方ないところだろう。

 また、ベンチの結果でも明らかだが、近距離の通信はおおむね40MHz幅の通信の方が高速な場合が多いが、国内では無線LANの最大出力が一定に制限されていることから(帯域が倍になると出力が半分になり、HT20の10mW/MHzがHT40では5mW/MHzとなる)、遠距離ではかえって40MHz幅の方が速度が出なくなってしまうケースも少なくない。

 このため、長距離での通信を考慮すると、環境によっては無理に40MHzを確保するよりも、20MHzに帯域を狭めて出力を高めた方が効率が良い。実際、筆者宅でのテストでも3階では40MHz幅(58.39Mbps)よりも20MHz幅(67.39Mbps)の方が結果は良好だ。

 混み合っている2.4GHz帯で、干渉があることがわかっているのに、わざわざ干渉する範囲を広げ、出力まで下げるのは不利になることが明らかなので、40MHzでつながらないからと言って、一概に嘆く必要はないだろう。

 もちろん、デュアルチャネル前提で300Mbpsと謳っている以上、標準で40MHzを無効にすることはできない。そういった意味では、今回のAtermWR8750Nの仕様も納得できるところだ。


ライバル製品と比較するとどうか?

 このように、NECアクセステクニカの「AtermWR8750N」は、混雑している2.4GHz帯を避け、5GHz帯に移行するということを考えると、機能的にも、性能的にも完成度が高く、値段もリーズナブルなお買い得製品だと言える。

 今回は詳しく紹介しなかったが、簡易NAS機能によってPCやDLNAクライアントとの間でファイルを共有したり、フィルタリング機能によって悪質サイトへのアクセスをブロックすることなどもできるようになっている。

 ただし、2.4GHz/5GHz同時通信対応機は他社からもいくつか製品が登場しており、より低価格で入手できる製品も少なくない。そこで、簡単ではあるが、ライバル製品との比較も考えてみたい。

 まず、同社製の上位モデルとなるAtermWR9500Nであるが、こちらは実売価格が12300円前後と若干高い。5GHzの450Mbpsが使えるのがメリットだが、PCなど450Mbps対応のクライアントが手元にないのであれば、現状は安いAtermWR8750Nでも十分だろう。

 続いて、バッファローのWZR-HP-AG300Hだが、これは実売価格が7000円前後ともう一段安い。機能的にもPPTP VPNサーバー機能などかなり多機能な製品になっている。機能面で選ぶならかなりお買い得だが、唯一、有線のスループットが200Mbps前後とあまり速くない。ここをどう考えるかが購入の分かれ目になりそうだ。

有線スループット
 UploadDownload備考
AtermWR8750N(HP)722.75886.95
AtermWR9500N(HP)815.77917.74前回レビュー時測定の参考値
WZR-HP-AG300H235.21226.97
LAN-WH450N/GR316.57308.55前回レビュー時測定の参考値
※Mbps
※サーバー:Core i7 860/RAM8GB/HDD2TB
※クライアント:ThinkPad X1(Intel Core i3-2310M 2.1GHz/RAM2GB/HDD320GB/Ultimate-N 6300/Windows7 Professional 64bit)
※サーバー上に作成した4GBのRAMDISK上に900MBのMTSファイルを保存しFTPにてファイル転送した際の速度を計測

 次にLogitecのLAN-WH450N/GRが挙げられるが、これも5GHz側が450Mbpsに対応するなどハイエンドの製品だが、こちらも有線スループットがあまり速くないうえ、機能的に非常にシンプルで付加機能がほとんどない。付加機能を求めないなら悪くはないが、それにしてもシンプルすぎて面白みに欠ける。

 このほか、アイ・オー・データ機器の「WN-AG450DGR」もあるが、この製品はどちらかと言えば、AtermWR9500Nのライバルになるだろう。地デジチューナーをiOSから利用できるなど非常に多機能な製品となっている。残念ながら、実際に評価していないため(次回以降予定)、現時点での比較が難しいが、ワンランク上を目指すならこれを選ぶのも手だ。

 ということで、暫定的ではあるが、現状、実売1万円以下で5GHzを使えることを考えると、このAtermWR8750Nはやはりお買い得と言える。スマートフォンの接続だけでなく、パフォーマンスが必用なPCや家電系の接続を検討しているのであれば、購入を検討してみる価値があるだろう。



関連情報



2012/2/21 06:00


清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。