テレワーク百景
第1回:コワーキングCoCoプレイス/サテライトオフィス多摩センター
無料で使えるウッディーなコワーキングスペースが多摩センターにあった
保育士・看護師が常駐する保育室も併設、子育て世代が都心に出ずにテレワーク
2019年12月25日 10:00
東京都多摩市、多摩センター駅(京王相模原線・小田急多摩線・多摩都市モノレール)から歩いて5分ほどの場所に、企業がサテライトオフィスとして無料で利用できるコワーキングスペースがある。株式会社キャリア・マムが運営する「コワーキングCoCoプレイス」に2020年3月まで、厚生労働省の委託事業で「サテライトオフィス多摩センター」が併設されており、利用登録した企業の従業員であれば無料で利用可能だ。また、有料になるが、保育士と看護師が常駐する保育室も併設。子育て世代にうれしいコワーキングスペースとなっている。
最初に一度、企業が利用申請すれば、従業員はいつでも利用可能
厚生労働省は2017年度から2019年度までの予定で、民間事業者への委託事業として「『仕事と子育てを支援する』サテライトオフィスのモデル事業」を実施している。「郊外の駅の近くなどに、託児・学童施設に隣接・近接したサテライトオフィスを設置し、その利用・運営状況の実証によってサテライトオフィスの労務管理の在り方を示すとともに、サテライトオフィスの有効な活用方法の在り方を示すためのモデル事業を行って、サテライトオフィスでのテレワークによる働き方を普及促進させる」(雇用環境・均等局在宅労働課)のが目的だ。
キャリア・マムによると、こうした施策によって無料のサテライトオフィスが提供されていること自体、あまり知られてないというが、2019年度は全国3つの事業者の8カ所の施設で実施中。そのうち東京都内で唯一の施設が、コワーキングCoCoプレイスに併設されているサテライトオフィス多摩センターだという。
コワーキングCoCoプレイスは、最大40席ほどのワークスペース/ミーティングスペースに、Wi-Fi、プリンター/コピー機、電話/テレビ会議ブースなどを完備。通常は、1000~5000円の入会金や、5000円~1万4000円の月額定額利用料または1時間500円/1日1500円の利用料がかかる。それがモデル事業では厚生労働省が委託しているため、サテライトオフィスとしてサテライトオフィス多摩センターを利用する企業の従業員が無料で利用できる仕組みだ。
利用にあたってはまず、企業が利用登録する必要がある。総務部などから施設利用申請と利用予定者の名簿を提出することで、その名簿に掲載された従業員は、前日までの予約でいつでも利用可能になる。登録にあたり簡単な審査はあるが、企業の規模などは問わず、従業員1人の企業でも、外資系企業でも可。パートタイムワーカーも利用可能だが、従業員が対象のため、企業の経営者や事業主は利用できない。
なお、コワーキングCoCoプレイス自体は夜間(~22時)や土・日・祝日も営業しているが、併設しているサテライトオフィス多摩センターの無料利用は、平日の8時30分~17時30分となっている。
始まりは、働きたいママのためのネットワーク事業
キャリア・マムによると、厚生労働省ではモデル事業の委託先の条件として、同事業の趣旨から、東京都内であれば23区外であることのほか、託児・学童施設に隣接・近接していることが示されているという。その点、コワーキングCoCoプレイスであれば、隣接・近接しているどころか、併設されている保育室はコワーキングスペースとほぼ一体化している。なぜ、このような施設を作ったのか? キャリア・マム代表取締役で起業家としても活躍する堤香苗さんはこう話す。
「施設の開業は2018年ですが、そもそもの始まりは、私が1995年ごろ、働くママの支援のための事業を起業したことです。私自身が子育てと仕事の両立に悩んだことから、女性の在宅就業などを応援する『キャリア・マム』というママのためのネットワーク/コミュニティを始めました。現在、会員は全国で10万人あまり。その延長として、2014年にここ多摩市にある商業施設『ココリア多摩センター』の5階に『おしごとカフェ』というカフェをオープンし、さらに2018年4月には7階にコワーキングスペースと保育室を一体化させた『コワーキングCoCoプレイス』をオープンしました。」
もともとインターネットを活用したネットワーク/コミュニティ事業で成功したのにリアルなスペースにもこだわったのは、「人間は、目に見えるロールモデルがいないと、なかなか自分もできるとリアルには考えられないから」だという。
「会社に所属せず働くママや、事業を創業したママたちを間近に見ることで、これからママになる女性も多様な働き方が想像できるようになってほしいという思いから、この場所を作りました。子どもがいるから働けないという多くの声に答え、保育室も作りました。」
そして、このコワーキングスペースを使ってさらに多様な働き方をサポートできるよう、厚生労働省のモデル事業に申請。会社に勤めていても住居の近くで働けるよう、2018年6月からサテライトオフィスとしても利用できるようにしたかたちだ。
とはいえ、利用者は小さな子どもがいるママに限らない。
「子育て中の女性の比率がすごく高くなるかと思いましたが、そうでもありません。男女比は半々くらい。50代以降の方も多く、業種もバラエティに富んでいて、利用時間や曜日もさまざま。サテライトオフィスの利用を申請する企業の業種も多種多様です。サテライトオフィスとしての利用者の場合、もともとお子さんを保育園に預けていらっしゃる方が多いためか、普段、併設保育室の利用はありませんが、土・日・祝日にお子さんを併設保育室にスポット利用で預け、隣のスペースで作業を行う場合もあります。また、奥様の第二子出産時に、第一子をここに預けて自分もここで仕事する……なんていうお父さんもいらっしゃったようです。」
サテライトオフィス多摩センターを併設し始めて1年半。登録企業は約80社に上る。当初、サテライトオフィスとしての利用者は少なかったが、今年の夏ごろから急に増えた印象だという。「台風などの災害や事故で都心への通勤が難しくなったとき、住居近くのここで作業した方がいらっしゃったようです。一度、施設を利用すると、通勤時間をとられず効率的に働けるということに気付かれたたようで、継続的に使う方が多いです」。
「この時代にテレワークを避けて通れる企業はないのでは?」
堤さんは、企業の担当者に向けて、テレワークの実験にこのモデル事業を活用してみてはどうかと提案する。
「社員の方がこの施設をサテライトオフィスとして利用したくても、会社からゴーサインが出ない場合もあると聞きます。今までテレワークを行った実績がなく、新しい働き方が不安なのだそうです。しかし、会社の経営者や総務の方に訴えたいのは、時代の流れとして、テレワークを避けて通ることはできないということです。登録企業へのアンケートの結果では、8割以上の企業様が満足され、再利用を望まれています。気軽に無料で利用できるこの機会に、ぜひテレワークの実験にお使いください。」
なお、厚生労働省のモデル事業の期間は2020年3月で終了するが、「(モデル事業による)無料提供が終わっても、各企業の利用状況に合わせたリーズナブルなプランを用意することを考えていますので、ぜひご相談ください」と堤さんは話す。これまで同様に従業員がサテライトオフィスとしていつでも利用できるようにしたい考えだ。
多摩エリアに住んでいて、都心などへの毎日の通勤時間にお悩みの人は、自分の会社の総務に相談してみては?