vProのツボ

「電源オフでもノートPCを遠隔制御」巨大データを扱うスタートアップ企業がvProを選んだ理由

情シスがいないスタートアップでこそ差がつく「ノートPCの遂行力」

Symmetry Dimensions Inc. CEO 沼倉正吾氏

 PCの心臓部であるCPUには、とかく「処理能力の高さ」が求められがち。もちろん処理が高速であるのは必要条件だとしても、しかし実際のビジネスの現場では、「遂行力」という意味での性能の高さがより重要になることがしばしばだ。そして「遂行力」とは柔軟な運用管理からも生まれるものだ。

 テレワークの動きが広がっていくなか、それは一段と顕著になったと言える。たとえば企業のコンプライアンス上、オフィスの外に持ち出すことのできないPCやデータに遠隔からアクセスするようなシチュエーションが多くなったはずだ。

 自宅や外出先からそれらに安全にアクセスするには、ただ高速なだけのPCでは役に立たない。ファイアウォールやVPNのようなネットワークレベル、ソフトウェアレベルのセキュリティ対策も一定の効果はあるものの、扱うデータの性質上、より強固なセキュリティを施したいケースもある。処理能力だけではない、まさにビジネスの「遂行力」がPCに問われるようになってきたわけだ。

 まさにそうした点に課題を抱えていたのが、独自のデジタルツインプラットフォームを開発するスタートアップ企業、Symmetry Dimensions Inc.(以下、Symmetry)だ。処理負荷の大きい高精度な大容量データを扱うだけでなく、離れたところにある拠点にも頻繁にアクセスしなければならない同社では、その解決を「インテル vPro プラットフォーム」に求めた。

スタートアップ企業が「インテル vPro プラットフォーム」を選んだ理由とは?

膨大なデータで高精度なシミュレーションを行うデジタルツイン

 デジタルツインとは、現実世界の事象を仮想世界に反映して高度なシミュレーションを行う技術。地形や建築物、人の流れや気候の変化など、現実にあるさまざまな事象を数値化、データ化し、それらを仮想空間に持ち込んで同じように再現することで、現実世界の動きをシミュレートできるようになる、というものだ。

 仮に、これまでにない巨大な高層ビルを都心に建設するとどうなるのか? 周囲の建物や人の流れにどんな影響を与えることになるのか? そういった、現実では実際に建設してみるまで試すことが困難なシミュレーションも、仮想空間内であれば事前に実現できる。条件を変えて何度も検証し、最適解を見つけたうえで現実に反映させる、といったことが可能になるため、社会課題の新たな解決手段としても注目されている。

 現実の世界をベースにするという点からも、デジタルツインのデータ量は膨大になることが容易に想像できるだろう。仮想空間をビジュアライズするための3Dデータや映像データ、あるいは計測値などを再現するための点群データ(ポイントクラウド)などがあり、シミュレーションの精度を高めようとすればするほどデータは増大するため、PCが担うべき処理負荷も増していく。

 そんなデジタルツインにおいて、建築・建設分野にフォーカスした「SYMMETRY」というプラットフォームを提供しているのが、2014年に米国で創業したSymmetryだ。同社のファウンダーでありCEOでもある沼倉氏は、講演などでSYMMETRYのデモを行なう機会が多く、そのために外出先から遠隔の社内にある開発用PCに接続することが日常茶飯事。大容量・高負荷のデータを扱えるだけでなく、遠隔からのアクセスを最大限にセキュアに行える環境が必須だった。

 そこで同社は、数々のセキュリティ・遠隔制御機能がCPUやチップセットにハードウェアレベルで実装されている、インテル vPro プラットフォームの採用を決めた。

 沼倉氏が持ち歩くノートPC「ASUS ExpertBook B9」は、第10世代インテル Core vPro プロセッサー・ファミリーを搭載する。比較的大きな14型ディスプレイを備えるにも関わらず、モデルによっては約870gという軽量さで、しかもバッテリー駆動は約30時間。高いモバイル性能を発揮しながら、SYMMETRYのヘビーなデータをストレスなく扱うことができ、同氏が「外出先で使用していて困ったことはありません」と断言するほどの高速性能も兼ね備えている。

普段から持ち歩いている「ASUS ExpertBook B9」。軽量・コンパクトなモバイルPCだが、デジタルツインの重いグラフィック処理もスムーズにこなす

電源オフでも遠隔から制御。柔軟な運用管理を可能にする技術の数々

 インテル vPro プラットフォーム対応PCは、SYMMETRYの社内や遠隔拠点にも多数配置している。ここで活躍しているのが、それらPCのリモートからの運用管理とサポートを容易にする「インテル AMT(アクティブ・マネジメント・テクノロジー)」だ。vPro搭載PCで利用可能なインテル AMTでは、WindowsなどのOSとは関係なく、PCが電源オフの状態であっても、遠隔からのリモート制御が可能になる、という利点をもつ。

 PCをリモートから管理しようとするとき、通常であれば、OS上で動作するリモート管理の仕組みを通じて遠隔操作することになる。ただ、それだとOSが起動していなければアクセスできない。とりわけテレワークが長く続く昨今の状況では、自宅などから社内PCにアクセスして、そこにしかないデータを扱いたくなることも珍しくない。とはいえ、いつ使うか分からない社内PCの電源を常にオンにしておくわけにもいかないはずだ。

 その点、インテル AMTであればOSが起動していなくても、電源がオフであっても問題ない。リモートからのPC電源のオン・オフ、BIOS設定画面へのアクセス、OS上で発生したエラーからの復旧など、企業のビジネス遂行にあたって重要な制御が自在に行える。沼倉氏の例で言えば、デモ時にアクセスする社内の開発用PCが電源オフであっても、遠隔から操作して中にあるリソースにアクセスできる、ということになるわけだ。

 また、vPro向けに無償で利用できる遠隔管理ツール「インテル EMA(エンドポイント・マネジメント・アシスタント)」も用意されており、クラウド経由での制御も可能になっている。つまり、ファイアウォールに守られた社内に限らず、社外にあるようなPCにも、それらがインターネットに接続している状態であればアクセスできる。これによってより柔軟な運用管理が可能になるだろう。

インテル AMTとインテル EMAにより遠隔からの安全で高効率なPC管理が可能になったと語る沼倉氏

 「当社では業務上、海外のソフトを頻繁に利用するのですが、そうしたソフトを遠隔でセットアップできるのはとても便利です」と話す沼倉氏。たしかに、これがもしインテル vPro プラットフォーム非対応のPCだったとすれば、テレワーク下でありながら出社を余儀なくされ、あるいは遠隔の拠点にわざわざ足を運び、1台1台の電源を入れてセットアップする、というような手間のかかる状況になっていたかもしれない。

 さらに、インテル EMAはWindowsアップデートを時間指定で実行する際にも活用している。日中の業務時間帯に不意にアップデートが実行されてしまうと、PCの処理性能が損なわれ、PCの再起動が発生することになれば業務そのものがストップしかねない。が、インテル EMAを駆使して就寝時間帯にアップデートするよう設定すれば、その心配は無用だ。沼倉氏は「管理面(の効率の良さ)を考えると、複数人のリソースに匹敵する効果が出ています」と、インテル vPro プラットフォームを導入した意義を強調する。

ハードウェアレベルのセキュリティがスタートアップにとっての安心感に

 高度なシミュレーションを実現するデジタルツインだけに、そのプラットフォームを利用する公共機関や民間企業が扱うデータには非常にセンシティブなものも多く含む。こうした秘匿性の高いデータを管理するにあたっては、「ソフトウェアベースのセキュリティだけでは十分とは言えません」と沼倉氏。しかしここにも、vProが備えるハードウェアレベルのセキュリティ機能が大きな役割を果たしている。

 vProには「インテル ハードウェア・シールド」というセキュリティ機能があり、そのうちの1つ「Intel Threat Detection Technology」によって、CPUやGPUによるハードウェアレベルでの効率的な脅威検知やアプリケーション・データ保護を実現する。さらに、OS起動以前のBIOSなどをターゲットにした脅威についても対処が可能だ。

 「ハードウェアベースでファームウェアやBIOSへの攻撃から守ってくれる強力なセキュリティ制御機能が搭載されている点は、大きな安心感につながります」と沼倉氏。

ハードウェアレベルのセキュリティ機能のおかげで、安心してノートPCを利用できる

 全社的にテレワークの状況で、しかも可能な限り本業にフォーカスして事業を加速させたいSymmetryのようなスタートアップでは、ささいなPCトラブルも従業員の業務スピードの低下に直結してしまう。規模の大きな会社と違って、情報システムを担う人や部門がなく、PCやITの詳しい知識をもつスタッフがトラブル対応に当たることが多いため、余計に気を使う部分だ。

 しかし、だからこそ、インテル vPro プラットフォームの数々の機能は同社にとって心強い存在となっている。トラブルの現場に駆けつける必要がなく、遠隔から対応し、最小限のロスで業務を進められるのは大きなメリットとなる。

 「テレワークの環境でも遠隔からしっかりと運用管理ができるのは、まさに我々の望むスタイルに合っています」と語る沼倉氏の表情からも、インテル vPro プラットフォームがSymmetryのビジネスの「遂行力」を支える大事な要素になっていることは、紛れもない事実だろうと感じられた。