イベントレポート

IETF100 Update Meeting

TCPに代わる高速プロトコルの標準化――QUIC

 昨年末の2017年12月15日、Internet Society日本支部(ISOC-JP)と一般社団法人日本ネットワークインフォメーションセンター(JPNIC)の主催による「IETF報告会(100th シンガポール)/ IETF100 Update Meeting」が都内で開催された。この報告会は、IETFミーティングにおける旬の話題や議論の動向などを広く知ってもらうことを目的としたものである。

 今回は、そのIETF報告会から興味深い話題をいくつか取り上げてレポートする。なお、今回は話者の了解を得て、使用されたスライドから図版を取らせていただいた。興味を持たれた方は、記事の最後で示すISOC-JPの当該ページにアクセスし、その資料をご覧いただきたい。

 インターネットにおける通信の多くは、TCP(Transmission Control Protocol)とUDP(User Datagram Protocol)によって行われている。一般的には、データを送り出したかたちそのままで相手に届けたい場合にはTCPを用い、迅速なデータの送受をしたい場合にはUDPを用いるという使い分けがされるが、ウェブやメール、メッセンジャーといった主要なサービスではTCPが使われていることから、現在のインターネットのトラフィックはTCPによるものがそのほとんどを占めている。

 しかし、TCPには、通信を確立させる際に行うハンドシェイクに煩雑な手続きが必要であったり、通信時に発生した不具合をリカバリーする際に大きな遅延が生じるなど、不便な面が少なからずある。それらの課題に対し、素早いコネクションの確立やコネクションのマイグレーション(例えば、4GからWi-Fiに切り替えてもコネクションが切断しない)、セキュリティ面の強化(暗号化)といった改善をするのが、「QUIC(Quick UDP Internet Connections:クイック)」である。

 QUICは、もともとはGoogleが開発し展開したプロトコルであるが、現在ではIETFによって標準化が進められている。ただし、Googleが開発したQUIC(Google QUIC)とIETFで標準化を進めているQUIC(IETF QUIC)は微妙に異なっており互換性が無い。そのため、今後を見据えるのであれば、IETF QUICの動向を追うようにしてほしい(図7)。

 グリー株式会社の後藤浩行氏による「IETF 100 QUIC/HTTP」では、現状は各社が実装を持ち寄ってテストしている段階であり、2018年3月を予定していたマイルストーンを8カ月後ろ倒しして2018年11月に再設定されたことや、当面はDNSなどを諦めてv1ではアプリケーションとしてHTTPをターゲットとしたことなどが報告された。

図7 QUICの位置付けとドキュメント(後藤氏資料)
図8 スコープ・マイルストーン

 筆者は、QUICは将来性のあるプロトコルだと感じている。しかし、ブラウザーやサーバーが対応し、実サービスで利用できるようになるのはまだまだ時間がかかるようである。後藤氏は、延長されたマイルストーン(2018年11月)が1つの目安になるかもしれないとし、そのころからα版などでブラウザー・既存のミドルウェアなどの対応が進み始めるのではないかと述べている。

 Google QUICは、Googleのサービス及びブラウザーでサポートされており、そのメリットは数多く報告されている。Googleの報告書[*1]によれば、インターネットのトラフィックのうち7%相当がQUICであるようだ。Akamaiなどでも事例報告[*2]がされていることから、その動向を注視したい。

無料かつ日本語で最新情報を得られる貴重な機会

 ここでは、SUIT、DOTS、QUICの3つの話題を取り上げたが、ほかにも個人的に興味深い話題が数多く提供された。KDDI株式会社の宮坂拓也氏による「Routing関連報告(dcrouting/mpls)」では、データセンター内のルーティングに関する話題が、ソフトバンク株式会社の松嶋聡氏による「モバイル・5G関連活動報告」では、携帯電話のエコシステムに新しい仕組みを導入する試みに関する話題が、シスコシステムズ合同会社の坂根昌一氏による「IPv6 over LPWANの状況」では、広域かつ低消費電力のネットワーク実現に向けたIPv6向けプロトコルの話題が扱われている。

 もし、インターネットを活用してビジネスをしようと考えているのであれば、今後がどのようになっていくのかを知ることは重要である。そのための第一歩は、あらゆるところで情報収集を行うという姿勢ではないだろうか。今回取材させていただいたIETF報告会は、無料かつ日本語でインターネット関連技術の最新情報を得ることができる場である。積極的に活用することをお勧めしたい。