イベントレポート
AMDシンポジウム2019
5Gで変わる世界――Society 5.0のデジタルコンテンツとは?
2019年9月14日 19:57
一般社団法人デジタルメディア協会(AMD)が9月5日、年次イベント「AMDシンポジウム2019」を開催した。2017~2018年のテーマがeスポーツだったのに対して、今回のテーマは「5Gが世界を変える ~Society 5.0のデジタルコンテンツ~」。モバイルの5G通信と、そこにおけるデジタルコンテンツについて、パネルディスカッションを中心に語られた。
開会のあいさつで、AMD理事長の襟川恵子氏(株式会社コーエーテクモホールディングス代表取締役会長)は、2回続いたeスポーツについて「規制などがあったが、業界の努力によって日本でも実現できるようになった」とし、「日本は通信が張り巡らされているので、5Gが早く普及する可能性がある。本日は、現場の第一線で活躍している人たちに、5Gによる変革について話しあっていただく」と語った。
また、来賓あいさつで登壇した総務省情報流通行政局情報流通振興課長の吉田正彦氏は、「Society 5.0に全省一丸となって進めている。それを支えるのが5Gで、21世紀の基幹インフラとして期待される。5Gの特徴を生かして、新たなる利用やいままでにないコンテンツを」と語った。
5Gはまだ使い方がイメージしづらい
パネルディスカッションに先立ち、パネリストおよびモデレーターの計4人による講演がそれぞれ行なわれた。
モデレーターの夏野剛氏(慶應義塾大学大学院特別招聘教授)は、まずパネルディスカッションの方向性について「5Gは設備が整いつつあるが、使い方がイメージしづらい。今日はそうした、5Gの何がいいのかをはっきりさせる。また、Society 5.0で日本を再生できるのかも議論していく」と説明した。
また、直前に欧米を訪問した経験から、改札でクレジットカードをかざして電車に乗れる話や、町中に電動自転車やキックボードが乗り捨てられている話、フリーWi-Fiがパスワード不要で使える話、美術館やコンサートなどにチケットの代わりにQRコードで入れる話などを紹介。そして、日本の1人あたりGDPは変わっていないが、アメリカは2倍、フランスは1.6倍という数字を挙げて、「日本だけがテクノロジーを利用できていない。そこで、5Gが入ってくるときがチャンス」と語った。
AbemaTVの投資はコンテンツが7割
株式会社サイバーエージェント常務取締役/株式会社AbemaTV取締役の小池政秀氏は、サイバーエージェントとAbemaTVのメディア事業について紹介した。
小池氏は、1990年代からの、メルマガ(テキストメディア)、アメブロ(ブログ)、アメーバピグ(コミュニティ)、ゲーム、AWA(音楽)、アメスタ(動画配信)といったメディア事業を紹介。そのうえで、動画配信のAbemaTVが出てきたことを語った。
AbemaTVは、アプリが4000万ダウンロードで、MAUが2000万超、月間視聴時間が6000万だという。また、35歳以下が6割で、デバイスはスマートフォンが7割、通信環境はWi-Fiが8割で、小池氏は「5Gでチャンスが広がるのではないかと期待している」とコメントした。
AbemaTVの特徴としては「後発なので埋もれないことを重視した」(小池氏)ということで、地上波のように流れていてザッピングで選べる24時間編成や、独自番組も、マルチデバイス、Abema外のYouTubeなどでも配信していることが挙げられた。
投資してきた部分としては、コンテンツ投資が7割で、「莫大なインフラが必要といわれていたが、それほどではなかった」と小池氏。その結果、ユニークユーザーの半分、視聴時間の3分の1が内製コンテンツを見ているという。
そのうえで小池氏は、「5Gの時代には、動画のコンテンツを保有しているプレーヤーでないと、と考えて用意してきた」と語った。
ソニーと5Gの強みを生かしたコンテンツ
ソニー株式会社常務の御供俊元氏は、5GやSociety 5.0の時代に必要となるソニーの強みについて語った。
御供氏は、ソニーの過去の失敗、それも技術が成熟しておらず成功していなかった例として、PS3時代の仮想空間「PlayStation Home」や、YouTube開始前の2003年に終了した動画共有サービス「パーキャスTV」、1990年にAppleやAT&Tなどと設立した携帯情報端末の「General Magic」を紹介した。そのうえで、「5Gが来たときにどう戦略を打つか考えている」と語った。
そして、ソニーと5Gの強みを生かしたコンテンツ制作の例について語った。
1つめは「ソニーグループの総合力による新たな映像表現/VRコンテンツの創出」。これについては、ノンゲームでどれだけコンテンツを作れるかの力と、その1つとしてタレントに寄り添ったVRコンテンツとして宇多田ヒカルのコンテンツの例を紹介した。物理空間を3Dマッピングして、バーチャルをはめ込んでいくかたちで制作したという。ここで必要になるのはLiDAR(光センサー)の技術とカメラの技術として、「データビジネスの可能性はあるんじゃないか」と語った。
続いて「5Gならではのスポーツライブ映像制作」。5Gによる低コスト映像制作や、ライブ視聴、多視点などを挙げ、遠隔医療や文教、介護などにも応用できると語った。
「5Gならではのモビリティの強さを生かしたビジネス機会」には、ゴルフカート状の小型車が紹介された。遠隔運転・自動運転や、デジタルサイネージ、MRなどの機能を持たせられるという。
5Gサービスの課題に、ソフトバンクのエッジコンピューティング
ソフトバンク株式会社の湧川隆次氏(テクノロジーユニット・技術戦略統括・先端技術開発本部本部長)は、5Gを使った自社のコンテンツやサービスへの取り組み事例について語った。
1つめは「能の8K多視点VR×5G」。ヘッドマウントVRディスプレイを使って、視点を切り替えて能を鑑賞するものだ。2つめも類似した事例の「多視点切り替え可能な3Dパノラマ映像を用いたVR試合感染実験」で、ヤフオクドームの野球を観戦する。
3つめは音楽フェスのフジロックでの5Gプレサービス。VRヘッドセットでの映像視聴や、混雑状況のアバター表示などが提供された。
4つめは、バレーボール日本代表国際試合での5Gと8Kの実験。HTTP形式(MPEG-DASH)で8K動画を配信する事例となった。
湧川氏はこれらの5Gのコンテンツの課題として、回線が高速化した結果、コンピューティングの速度が追いついていけない点を指摘した。そして、その解決策として、5Gを想定したエッジコンピューティングのアーキテクチャーである「MEC(Multi-access Edge Computing)」を挙げた。
このMECによるソフトバンクのサービス第1弾が、クラウドゲーミングの「NVIDIA GeForce Now」だ。NVIDIAによるクラウドゲーミングサービスで、データセンターのサーバーでゲームを実行してリモートで操作する。ソフトバンクでは、GeForce Nowをライセンスした「GeForce NOW Alliance」として、通信キャリアのネットワーク内のエッジサーバーでゲームを実行することで、全国で同じようなレイテンシーでプレイできるようにする。
湧川氏は最後に、「ソフトバンクはインフラは作れるが、コンテンツはなかなか作れないので、一緒にやっていく」と語った。
5Gが世界を変えるためには何をするか
4人の講演のあとで、パネルディスカッションが開かれた。
夏野氏が出した最初のお題は「はたして5Gが世界を変えるか? 変えるためには何をすればいいか?」。
これに対し、サイバーエージェントの小池氏は、「5Gになって変わってほしいと思っているが、5Gでなければという、うまくはまるものがない」と答えた。そこから、AbemaTVの投資額の話や、それをソフトバンクのインフラ整備投資と比較しても仕方ないという話、キャリアよりコンテンツに補助金を出したほうがいいという話になった。
また、夏野氏はARの対戦コンテンツが5Gならではのものではないかとソニーの御供氏に振り、御供氏は同意した。
続いて夏野氏は、5Gの低遅延などのメリットはキャリア内のもので、インターネットを経由すると行かせないことから、キャリア同士で5Gネットワークを直結する可能性について、ソフトバンクの湧川氏に尋ねた。
それに対し湧川氏は「ニーズはないと思う」と回答。その理由として、コンシューマーにインターネットが重要であること、キャリアがドメスティクビジネスであることを挙げた。
5GやSociety 5.0ではローカルも重要
次の夏野氏の質問は「日本を新しくするためにSociety 5.0を起こすには」。湧川氏は、「日本は継続的によくしていくのは長けているが、古いものを壊して新しいビジネスモデルを考えるのは少ない」と答え、「DiDiも日本では単なるタクシー会社になっている」と付け加えた。
それを受けて夏野氏は、「ライドシェアができていないのは日本だけ」と主張し、職業がなくなるというネガティブな取り上げられ方をすることに苦言を呈した。
さらに夏野氏が「ソニーはそれを跳ね返してきた会社かと思う」と御供氏に話を振ると、御供氏は「CDやDVDのころはグローバルで使えたが、カーシェアリングは国ごとのローカルなビジネス。Society 5.0の時代は、地域性や地域の価値観などにローカライズして最適化していかなくてはならないと思う」と答えた。
さらに御供氏が、回線からカーシェアリングまでソフトバンクがプラットフォームを作っていることを湧川氏に振ると、湧川氏は「ソフトバンクは新しいビジネスのパラダイムがあればそっちに行きたがる。ADSLのモデムを配ったのもそうで、見切りがいい」と答えた。
5Gでクラウドの転送料金が増える?
ここで少し話が変わって、お題は「いま5Gで新しいビジネスをやるとしたら何をしたいか」。それに対し御供氏は「個人的に興味あるのは、医療のように、世の中のペインポイントに対する貢献」と答えた。また、小池氏も個人的な興味として、スマートウォッチによる予防医療などのヘルスケアを挙げた。
一方、湧川氏は「5Gとあまり関係ないが」と前置きし、「個人でやるなら、美術やアート、アニメなど、クリエイターの事業がやりたい」と答えた。
さらなる話題として夏野氏は、クラウドで問題になっていることとして、サーバーなどのサービスよりインターネットとの間の転送料金がかかること、そして5Gで回線が速くなるとサービス事業者の負担がより大きくなることから、「動画配信は半分ぐらい生き残れないのではないか」という問題を提起した。
この問題に直接関係する小池氏は、技術の進化によって対応できるのではないかと答えた。また、御供氏はネットークゲームでの例として、「分析すると、伝送より、コントローラーから機器への遅延や、エンコードとデコードの遅延、アウトプットの遅延が大きかったりする。ある程度やり方がある」と答えた。
続けて御供氏は「むしろ怖いのは、カジュアルなモバイルゲームはディスラプターで、われわれの常識を超えてくる可能性がある。例えば、地球の裏と対戦するとき、われわれのようにまじめに通信をせず、うまく同期をとることで、ゲームチェンジになる可能性がある」という問題を語った。