イベントレポート
Dell Technologies Forum 2019
デルが「DX」の取り組みを語る「“データ”こそがテクノロジーの共通テーマ」、三越伊勢丹や東京電力の例も………
Dell Technologies Forum基調講演レポート
2019年10月24日 11:17
Dell Technologiesの事業を日本で展開するデル株式会社とEMCジャパン株式会社は、企業向けイベント「Dell Technologies Forum 2019 - Tokyo」を10月23日に開催した。
今年のテーマは「REAL TRANSFORMATION(真のデジタル変革)」。デジタル変革(DX)を実現するための、Dell Technologiesの7つのブランドが持つ最新ソリューションや、AIやIoT、5Gなどの最先端の技術を紹介するというものだ。
この記事では、Dell Technologies 会長兼CEOのマイケル・デル氏などが登壇し、三越伊勢丹や東京電力が自社のDXを語った基調講演をレポートする。
開会の挨拶に立ったデル株式会社/EMCジャパン株式会社 代表取締役社長 大塚俊彦氏は、テーマの「REAL TRANSFORMATION」について「デジタル変革を本格的に実践的に支援していく」と説明した。そして、Dell Technologiesの目的として、「Technology driving human progress(テクノロジーが人類の進化を牽引する)」という言葉を掲げ、先端技術が経済や働き方、生活などを変革すると語った。
マイケル・デル氏が登壇社会を変える力を持ったデータをDell Technologiesのインフラ技術で一貫して管理
Dell Technologies 会長兼CEOのマイケル・デル氏は、ますます増大するデータの重要性と、その膨大なデータを扱うためのハイブリッドクラウド、そしてそれらのためのDell Technologiesの製品群について語った。
世界がデジタル化されたことにより、たとえばモバイル回線から生み出されるデータは2007年には1年で86PBだったが、いまでは同じ量が10分と5万倍になっているとおり、巨大な波が押し寄せている、とデル氏は説明した。
そして、テクノロジーが教育や貧困などの問題を解決するだけでなく、AIによってこれまでできなかったことができるようになる。これはすなわちデータの力によるものだとデル氏は語る。
こうした将来のインフラをクラウドからエッジ、クライアントまで作っているのがDell Technologiesだ、とデル氏。KubernetesがvSphereに統合され、Pivotalの買収により開発から運用まで統合する。そして、パブリッククラウドからエッジまでさまざまなところにデータが存在するのをカバーし、一貫して管理できるハイブリッドクラウドを、Dell Technologiesが実現するという。
「“データの重力の法則”(データのあるところに処理するアプリケーションなどが集まるという概念)がものごとをシンプルにする」とデル氏は言う。いまITシステムのエコシステムはサイロ化され断片化されていると氏は主張する。「それに対してわれれはオープンでシンプルにする」と氏は語った。
さまざまなテクノロジーに共通するテーマはデータ
Dell Technologies プレジデント&CTOのジョン・ローズ氏は、前半で業界の進化について、後半でDell Technologiesが向かう将来像について語った。
業界の進化についてローズ氏は、5つの技術要素を挙げた。
まず複雑にからみあいながら速い勢いで進化していくさまざまなテクノロジーを示し、「これらのテクノロジーで1つだけ共通するテーマがある。それがデータだ」と説明した。
そのデータは、2025年には1年に163ZBが毎年生成されるという調査があるという。「その膨大なデータから価値を導き出すエンジンがAIだ。データはAIの燃料だ」とローズ氏は語り、人工知能を1つめの技術要素とした。
2つめの技術要素は、ハイブリッドクラウドだ。データのインフラは自分のところにあるとは限らない。「オンプレミスからパブリッククラウドまで、さまざまなインフラを組み合わせることで、無限のIT容量を使える」とローズ氏は言う。
3つめの技術要素はエッジだ。「ほとんどのデータは工場や自動車やカメラなど、データセンター以外で作られる。そのデータへの対応もそれらの場所だ」とローズ氏。そこでITをデータが作られ利用されるところに置くということだ。
4つめの技術要素はソフトウェアデファインドだ。さまざまなリソースをソフトウェアのように扱えるようにすることで、ニーズにあわせて柔軟に行動を変えていけるという。
5つめの技術要素は、ワークフォースモダナイゼーションだ。「ZB(ゼッタバイト)のデータを想像してください。スプレッドシートではとても管理できません。そこに合った優れたユーザーエクスペリエンスが必要になります」とローズ氏。あるいは、工場で作業しながら情報を扱うためにARを使うといったように、新しいユーザーエクスペリエンスが重要になるという。
デジタル組織になるための4つのトランスフォーメーション
ジョン・ローズ氏は、後半のDell Technologiesが向かう将来像について、「すべての組織がデータを活用してマルチクラウドの世界でデジタル組織になる必要がある」とDXを説明した。そして、それを構成する4つのトランスフォーメーションについて、Dell Technologiesの製品や技術をからめて解説した。
1つめは「ITトランスフォーメーション」だ。いまシステムは、パブリッククラウド、SaaS、企業のデータセンター、ブランチオフィス、工場や研究開発センターなど、モバイルの6つの場所に分かれている。今後さらに、ネットワークエクスチェンジにシステムを置く「クラウドデータコロケーション」や、「エッジ」、「5G」のクラウドオーケストレーション、Kubernetesのコンテナを展開する「エッジコンピュートクラウド」など増えていくだろうとローズ氏は言う。
このようにITトポロジーが分散化するところでは先端的な製品が必要とされるとして、Dell Technologiesのサーバーやネットワーキング、ストレージ、HCI(ハイパーコンバージドインフラ)、データ保護などの製品の特徴を紹介した。
また、ハイブリッドクラウドにわたるシステムを作るとき、一貫した運用モデルが必要されるということで、VMwareを活用したソリューション群の「Dell Technologies Cloud」をローズ氏は紹介した。
2つめは「ワークフォーストランフォーメーション」だ。1つ1つのデバイスを個別に管理するのでなく、全社で統合して“as a Service”の形で管理する「Unified workspace(ユニファイドワークスペース)」というコンセプトの製品群をローズ氏は紹介した。
3つめは「セキュリティトランスフォーメーション」だ。現在はセキュリティ問題が無数にあり、それごとにベンダーも無数にある。ローズ氏は「全体をつなげるものが足りない。セキュリティはクラウド体験の中に入らなくてはならない」として、Dell Technologies Cloudにひもづいたセキュリティ管理について語った。
4つめは「アプリケーショントランスフォーメーション」だ。モダンアプリやクラウドネイティブアプリ、AIアプリ、ローコード(サーバレス)アプリなどさまざまな種類のアプリに対応する必要がでる。そのため、開発手法を身につけるPivotal Labsや、アプリをコンテナ化してKubernetesで動かすCloud Foundry、機械学習アプリを動かすBitFusion、ローコードアプリを動かすPivotalファンクションサービスなどを揃え、インフラがアプリを適切な形で動かせるようにする必要があるとローズ氏は語った。
最後にローズ氏は、マルチクラウドシステムの例として、スマートファクトリーを挙げた。エッジAIを工場に、それを機能させるためのデータリポジトリーやメインSORなどがデータセンターに、モバイルプラットフォームがパブリッククラウドに、レポートアプリは本社に、といった各システムがつながる。「こうしたマルチクラウドのシステムが1つのシステムとして動くのがDell Technologiesのビジョンだ」とローズ氏はまとめた。
百貨店がECに負けないためのDXへの取り組み
株式会社三越伊勢丹の浦田努氏(デジタル事業部 取締役常務執行役員 デジタル事業部門長)は、ECに押されている百貨店において、DXで顧客体験を向上させようという取り組みについて紹介した。
同社では2017年に経営体制が変わって構造改革に取り組み、今年度から実行フェーズに入ったという。その取り組みは、既存の百貨店事業のDXと、新規のDX事業の2種類がなされている。
既存の百貨店事業のDXについて、社内で作ったカスタマージャーニーのイメージ動画が上映された。特別な顧客が専用のアプリから欲しいものを連絡すると、百貨店から提案を受ける。さらに部門間で情報を共有して最適な接客をしたり、奥様へのギフト選びを助けたり、顧客分析で商品を企画したりするという。
百貨店事業のDXについて、浦田氏は3つのポリシーを挙げた。1つめは「シームレス」で、リアルとデジタルでシームレスになるということだ。
2つめは「データセントリック」で、いまデータはPOSぐらいでしか取れていないのを、店頭をIoT化。そのデータをオンプレミスとパブリッククラウド、SaaSからなる分析システムで分析する。
3つめは顧客情報のデジタル化による「接客の質の向上」で、双方向コミュニケーションや顧客情報の一元化などがある。これについては、3D足型計測器「your FIT 365」の事例も浦田氏は紹介した。導入したメーカーの靴は150%多く売れているという。
もう一方の新規のDX事業では、まずローンチ済みのものとして、ドレスシェアリングの「CARITE」、化粧品ECの「meeco」、食品の定期宅配サービス「ISETAN DOOR」、EC特化型・顧客共創型SPAブランドの「arm in armm」を浦田氏は紹介した。
また2019年度の新規DX事業としては、スマホの写真2枚から採寸してオーダーのワイシャツができる「Hi TAILOR」や、相手の住所がわからなくてもSNSのIDでギフトができる「MOO:D MARK」を紹介した。さらに、チャットカウンセリングでパーソナライズされた洋服を定期的に届ける「DROBE」は、三越伊勢丹とBCGデジタルベンチャーズとの合弁会社を作って始めたという。
そのほか浦田氏は、基幹システムを、将来のハイブリッドクラウド移行を見据えてHCIに移行したことを紹介。そこでDell Technologiesの最新のインフラとコンサルティングで、コスト削減を約束されたことを語った。
電力業界の変化のうち、デジタル化は事業者がコントロールできる
東京電力の取り組みについては、東京電力ホールディングス株式会社の関知道氏(常務執行役 IoT担当)が語った。
関氏はまず背景として、電力自由化やこれから来る送配電法的分離、LED照明や省エネ家電などによる電力需要の減少を説明した。また、DXに挑む東電グループの立場として、福島への責任とTEPCOの挑戦を挙げた。
電力業界の視点では、Deregulation(規制緩和)、De-Centralization(非中央集権化)、De-Carbonization(脱炭素化)、De-Population(日本の人口減少)、Digitalization(デジタル化)という「5D」のトレンドを関氏は取り上げ、「その中でデジタル化だけは事業者がコントロールできる」と語った。
そこで何をするか。関氏は責任と競争の両立として「稼ぐ力」の創造を挙げ、生産性倍増と新ビジネスの創造が必要だと語った。
具体的なチャレンジとしては、洋上風力発電や、株式会社JERA、株式会社e-Mobility Powerが挙げられた。また、電力データの流通や活用に向けたグリッドデータバンク・ラボも紹介された。
そのほか、Dell TechnologiesのHCIとソフトウェアデファインド技術によってコストを劇的に削減し、その分を新たなビジネス創出に投資することも関氏は語った。