イベントレポート
Interop Tokyo 2023
衛星通信の本命「光空間通信」の登場で拡大するビジネス―電波に替わり、データを地上に“速く降ろす”
講演「宇宙インターネット通信がもたらす地上経済へのインパクト」レポート
2023年7月6日 11:30
2023年6月14日~16日に幕張メッセで開催された「Interop Tokyo 2023」では、会場の一部のスペースで特別企画「Internet × Space Summit」が開催されており、宇宙とインターネットの関わりというテーマにフォーカスが当てられていた。
その基調講演の1つ「The Interplanetary Internet - 宇宙へ広がるインターネット市場 -」について先日レポートしたが、本稿では、講演「宇宙インターネット通信がもたらす地上経済へのインパクト」の内容をレポートする。当日、会場に用意された座席はほぼ満席であった。
なお、先述の基調講演は、月や火星までを想定した惑星間インターネット(Interplanetary Internet)がテーマであったが、本講演は、宇宙空間と地上(地球)との通信がテーマとなっている。
衛星通信のトレンドは大型衛星から小型衛星のコンステレーションへ
スピーカーは、株式会社ワープスペースの東宏充氏(代表取締役)である。ワープスペースは、衛星間光通信を軸とした宇宙における次世代通信ネットワークの開発を行っているベンチャー企業だ。
まず、東氏は、「まさに宇宙をステージにした新しい産業が、皆さんの生きている間に始まる。その宇宙インターネットについて説明する」と語り、現在の衛星通信のトレンドを次のように説明した。
現在の衛星通信は、衛星同士や衛星と地上局を電波でつなぐものである。地球を回る軌道は「地球低軌道」「地球中軌道」「静止軌道」の3つに分けられるが、今最も広がっているのが地球低軌道であり、Starlinkの衛星などがこの低軌道に配置されている。
一方、昔から使われている静止軌道は非常に遠いため、地球の広い範囲に向けてデータを送信できる。そのため、通信衛星やテレビ放送などに向いている。中軌道はGPS衛星などに使われ、高い測位精度を実現している。これらはいわゆる無線、電波を使って通信している。
衛星通信は、1950年代に始まり、当初は放送や学術、軍事などに使われてきたが、1980年代にB to B衛星インターネットや航空機上通信、僻地通信に使われるようになり、2020年代に入り、ついにB to Cをターゲットにした衛星通信が登場した。それがStarlinkである。
従来は静止軌道に重量数トンの大型衛星を配置していたが、Starlinkではその10分の1くらいの重量の小型衛星を数千機も配置する。これは「衛星コンステレーション」と呼ばれるもので、今後もこうした衛星が多数打ち上げられることになる。
Starlinkの通信速度は下りで200Mbpsを超えており、非常に高速である。また、消費電力も平均50W~70W、アイドル時で20W、ピーク時で600Wくらいで、小型ヒーターぐらいの512Whポータブル電源で10時間くらいは稼働でき、モバイル的に利用できるため、山の上でも海上でも、インターネット接続を享受でき、ビジネスにも十分組み込めるような状態になっている。ものすごい速度でユーザーが増えており、もう150万人を突破した。
衛星通信が発災後の情報把握に大きく役立ってきた
続いて東氏は、衛星通信の活用例について、以下のように解説した。
衛星通信で現在最も活用されているのが、防災関連である。以前は、大震災の発災後、海底ケーブルが切断されてしまい、現地で何が起こっているかが把握できなかったが、衛星通信によって、現地の被害情報が明らかになった。
海底火山の噴火なども衛星写真でキャッチできる。地震で施設がダウンしてインターネットが全くできなくなった場合でも、観測衛星のデータで被害の状況が分かるようになった。東日本大震災の発生から2週間までは日本が保有している通信衛星18号とインターネット衛星「きずな」が使われた。
通信衛星18号の通信速度は768kbpsで、「きずな」は8Mbpsであり、日本のコンステレーションではない通信衛星では通信速度が限られていたが、それでもさまざまな役に立った。通信網としては、携帯電話の3大キャリアがすぐに整備を行ったが、大体、1カ月ぐらいかかった。このときに、B to Cの衛星通信が存在していれば、かなりレジリエンス高く通信が提供できたのではないか。
Starlinkは、ウクライナの戦争でも使われているが、フェーズドアレイアンテナ(電子的に信号の指向性を制御できる特徴を持つアンテナ)を使って、戦略的に安全保障を進めることができた。
電波よりも高速な光空間通信が衛星通信技術の本命となる
これまでの電波に変わる新しい衛星通信技術として、「光空間通信」が期待されていると、東氏は解説した。その仕組みと特徴は、次のようなものだ。
電波には、周波数の問題、干渉の問題、サイバーリスクなど、さまざまな問題があり、超長距離の通信を行うとなると、速度も低速になる。先日上場したアイスペースは宇宙の月輸送ビジネスに取り組むベンチャーだが、月との38万kmの通信は、電波では不十分であり、画期的にゲームチェンジをする光空間通信に注目している。
光通信は近赤外線を使うが、波長の特性から非常に直進性が強いため、同じエネルギーでもより高効率に、より遠くまで、より速く、情報を送ることができる。妨害電波などの影響もなく、傍受も難しいため、サイバー攻撃に対しても非常に強い。
問題は大気の影響を強く受けることで、その対策として地上では光ファイバーを使っているが、宇宙では大気がないので、より高速な通信が期待されている。そのビジネスとしては、水害、火災、地震、津波、戦争、海上の安全保安、汚染などの状況をリアルタイムで知ることや、インフラの老朽化を調べるなど、さまざまなものが考えられる。
より高精細で大量のデータが衛星側で取れるようになったが、電波では通信速度が遅いため、それをすぐに地上に降ろすことができなかった。光通信なら、異変が起きた時に地球上に大量のデータを下ろすことできるので、ソリューションが大きく変化して、最終的にはスマホのアプリで、今、地球上で何が起きているかということが詳しく分かるよう時代に、数年以内になっていくだろう。
その後、宇宙インターネットがどんどん広がっていくと予想している。インターネット部分のスタートが、衛星サービスとして出てきたのがまさに去年であり、光通信網を使って、より速く「データを地球上に降ろす」ことが、展開されていくことになる。
そのようなネットワーク全体を、さらに大きなエリア――静止衛星や、その間の中軌道のエリアで補完的にネットワークを築いていく光通信網が、より複雑に、今後ふくらんでいく。光通信網は全く干渉しないので、それぞれがメッシュのようにつながっていくだろう。
光空間通信が宇宙空間のコンピューティングを加速し、宇宙経済圏を実現する
最後に東氏は、講演の要点を以下のようにまとめた。
小型サイズの通信衛星を低軌道に大量に導入するコンステレーションによって、低遅延かつ、広帯域の衛星通信が可能になった。さらに、光空間通信が開発され、今年からどんどん衛星に搭載されて打ち上げられている。
インターネットではSaaS(Software as a Service:サービスとしてのソフトウェア)という考え方があるが、ビジネスの中で、特殊なコマンドを打てば、そのタイミングの衛星を自由に使えるSaaS(Satellite as a Service:サービスとしての衛星)も現実的に出てきている。さらに10年ぐらい経てば、月や火星といった地球外との通信網が光通信によって整備され、宇宙経済圏が実現するだろう。