イベントレポート
CEATEC 2024
大型の屋外向け電子ペーパーから防災に役立つ「AIoT家電」まで、シャープが見せる「AIが広げるイノベーション」とは
「電卓60周年記念モデル」やフェムテック、持続可能な社会への提案まで
2024年10月18日 09:07
CEATEC 2024のシャープブースでは、「AI-Powered Innovation」をテーマに、「Better QOL」、「Sustainability」、「Carbon Neutrality」の3つの内容で構成。持続可能な社会と、健やかなくらしの実現に向けて、AI関連技術を中心とした先進のソリューションを展示している。
同社では、9月17日、18日の2日間、独自の技術展示イベント「SHARP Tech-Day」を開催し、50以上の技術展示を行っており、今回のCEATEC 2024では、同イベントで展示した技術も改めて公開し、幅広い来場者に最新技術を訴求してみせた。また、シャープブースでは、ソリューション展示だけでなく、空気清浄機や電卓といった身近な家電製品の展示が多い点も特徴で、実際に製品に触れる来場者の姿も見られた。
「AIoT 3.0」で社会課題解決へ集約したIoT家電データで防災、減災を
「Better QOL(健やかなくらし)」では、「AIoT 3.0」と呼ぶ新たな提案を行った。
AIoTは、AIとIoTを組み合わせたシャープの造語で、2015年にスタートしたときをAIoT1.0とし、シャープのテレビや白物家電をネットに接続して、家電の機能やサービスの拡張を実現。その後、複数機器との連携や住設機器との連携、他社サービスとの連携によって、新たな価値の提供したのが「AIoT2.0」と位置づけている。そして、これまでに900万台のAIoT家電が接続した実績をもとに、社会課題の解決にも生かせる段階に入ってきたことで、それを新たに「AIoT3.0」と定義している。
CEATEC 2024では、AIoT3.0に関する具体的な参考展示も行っていた。そのひとつが、IoT家電データを活用した社会課題解決への取り組みである。
IoT家電を介して取得した家電稼働率などの測定データを、防災や減災などに活用するもので、自然災害などによって停電した場所が瞬時にわかり、自治体などと連携して、迅速な救援活動につなげることが可能だ。数多くのAIoT機器が接続されている環境があるからこそ実現できる社会課題解決型の提案だといえる。
AIoTで新しい生活を提案
AIoTの進化では、「AIによるさらなる生活向上」の観点からも展示していた。
そのひとつが、AI Partnerである。テレビに表示したAIアバターとの自然な会話を通じて、おすすめの動画を一緒に観たり、買い物をしたりする新しいライフスタイルを提案。将来的には旅行手配などの様々な生活サービスを提供する。アバターはユーザーの好みに応じてカスタマイズできる。
また、AIoTグリーンスマートライフソリューションの展示では、電力事業者との連携や、機器間の県警動作により、光熱費を賢く削減して、快適性を損なわない節電を実現。NTTドコモと実施している家庭内機器のデマンドレスポンス制御する実証実験についても紹介した。
A0の大型電子ペーパーを屋外に!
「Sustainability(持続可能な社会)」では、屋外対応 A0サイズ「ePoster」を参考出展した。
太陽電池と無線通信機能の搭載していることから配線が不要で、防水、防塵設計により、屋外での使用にも対応した大型電子ペーパーディスプレイだ。A2サイズのePosterを4枚組み合わせており、表示している際の電力は不要。LPWA無線通信による表示書き換えを可能とし、天井部には太陽光パネルを設置することで、この電力を使用して表示の書き換えと、夜間の照明を実現する。
なお、屋外対応 A0サイズ「ePoster」は、CEATEC AWARD 2024経済産業大臣賞を受賞した。
フェムテックで安心を提供
シャープのFemtech(フェムテック)の取り組みとして展示したのが、生理用ナプキンIoTディスペンサーである。
学校や企業、公共施設のトイレなどに設置し、生理が安定しない若年層や生理不順に悩む女性に対して安心感を提供。企業の福利厚生のひとつとして、働きやすい職場づくりにも貢献できるという。すでに浜松市との備蓄用生理用品を活用した実証実験では高い評価を得ている。
スマート会議ソリューションも提案文字起こしや要約作成を
スマート会議ソリューションも参考出展した。議事録作成支援用のエッジAI端末とPC、ディスプレイを接続すると、AIによる音声制御、音声認識、話者識別などを行い、リアルタイムで文字起こしをしたり、議事録の要約作成を自動で行ったりしてくれる。エッジAI端末は、会議室や自宅など、ローカルに設置できるため、情報漏洩の危険がなく、安全な環境のなかで共同利用できる。様々なウェブサービスと併用した利用も可能だという。
カーボンニュートラルでも提案宇宙向け太陽光パネルや空気清浄機を展示
そして、「Carbon Neutrality(未来のために今できること)」では、スペースソーラーを展示していた。JAXAの小型月着陸実証機「SLIM」に搭載した太陽光パネルで、フィルムシートタイプとガラスシートタイプを用意。高効率化合物3接合セルを、薄い高耐久性材料で封止した軽量モジュールで、宇宙空間での長期ミッションにも対応できる。
このテーマでは、化粧フィルムを採用した空気清浄機を初めて公開した。
建材メーカーであるアイカ工業との協業によって実現するもので、インテリアにあわせたフィルムを貼付し、上質空間の演出に貢献できるという。まだ、価格や販売時期などについては明確ではないが、まずはB2B用途での販売を想定。同社の直販サイトを通じた個人向け販売も視野に入れている。プラスチックの筐体が劣化した場合などにも化粧フィルムに張り替えて、長期間利用するといった提案も可能になるという。
さらに、空気清浄機などに搭載しているプラズマクラスター技術を活用した植物育成促進の効果についても展示した。プラズマクラスターイオンを使用して育成すると、レタスの葉のサイズと重量が増加。検証によると、種子の遺伝子から、植物のエネルギー生成を指示する働きが約3倍に増えることが確認できており、これが育成を促進。農業分野での活用提案を進めていくという。
また、サーキュラーエコノミーへの取り組みとして、家電の部品や包装材に、植物由来の素材や、リサイクル材などを活用することで、脱プラスチックを加速するほか、バージンプラスチックの使用量削減に貢献している例も示した。
さらに、農業用途向け半導体レーザーモジュールをデモストレーション。半導体レーザーによって、薬剤を使用しせずに害虫駆除や除草などが可能になり、安全で、安心な農作物の提供を支援できるという。
「電卓60周年」の記念モデルを展示バイオマス素材を活用
ユニークな展示のひとつが、電卓である。シャープは1964年に世界初のオールトランジスタ電子式卓上計算機「コンペット CS-10A」を発売して以来、今年は60周年の節目を迎えている。シャープブースでは、1973年に発売した世界初の液晶ディスプレイ搭載ポケッタブル電卓「液晶コンペット EL-805」を、実際に手に取って、操作できるようにしていた。
また、60周年記念モデルの電卓も展示した。電卓60周年を記念して60人にプレゼントした電卓で、卵の殻から抽出したバイオマス樹脂を製品本体やキートップに採用。ヒマや廃材、トウモロコシから抽出したバイオペイントで仕上げたという。太陽光で動作することを含めて、SDGsに配慮した電卓となっている。現時点では、商品化については決定していないという。
VR触覚デバイスも
一方、シャープブースとは別に、JEITAディスプレイデバイス部会/電子部品部会のブースでも、シャープの技術を展示している。ここでは、VR(仮想現実)向けの触覚提示デバイスを展示し、次世代 HMI の体験機会を提供している。
15×15mmのデバイスに指先を乗せると、画像に表示されたのと同じ木の上を指でなぞった手触り感や、布のようにフワフワした材質の触覚が伝わる。1mmピッチで15分割したストライプ電極を内蔵しており、これが分割駆動することで触覚を伝えている。
VRチャットやエンターテイメント分野での利用のほか、将来的には製造業などでの触感が必要とされる検査での利用、ECサイトで販売される商品の質感を遠隔地から確認するといった用途への応用、医療分野での活用などにも広げていきたいとしている。