イベントレポート

アドテック九州

堀江貴文氏「テレビ連動の新事業」スタートへ、仮釈放終了後

 デジタルマーケティングのカンファレンス「ad:tech Kyushu 2013(アドテック九州)」で6日に行われたパネルディスカッションに堀江貴文氏が登壇。地上デジタル放送の8チャンネルを1週間分録画できるレコーダ「SPIDER」を提供するPTP社長の有吉昌康氏、ワタナベエンターテインメント会長の吉田正樹氏とともに「テレビのウェブ化」をテーマに議論した。

 以下、主な発言をまとめる。

堀江貴文氏(左)とPTP社長の有吉昌康氏

フジテレビ買収で本当にやりたかったのは「NHK化」

堀江:テレビ業界はフジテレビが凋落している。テレビ朝日が伸びていて歴代視聴率ナンバーワンみたいな状態になっているのは、企業とタイアップする「お願いランキング」や、バラエティで視聴率が取れる番組を狙っているから。内容は薄いけど視聴率が伸び、売り上げにつながっている。逆に中途半端に作り込んだようなコンテンツは視聴率が出ない。

 ウェブについてはリアルタイムに反応が返ってくるので、炎上させたり、アテンションを取る方向に走りがちで、コンテンツを作り込まなくなる。この傾向はテレビも同じ。ただし、膨大で優秀なスタッフを抱えるNHKは、受信料が取れるので潤沢な予算もあり一人勝ちの状況。最近では、10年かけて撮影したダイオウイカのドキュメンタリーが話題になった。僕は興味がないけど、タイムラインで話題になっているとSPIDERで見たりする。

 ニコニコ動画でブロマガチャンネルをやっているが、生放送するごとに100人くらい有料会員が増えている。月額課金サービスは、課金されていることを忘れてしまうモデルで、一定数は惰性で続けている。定期的にコンテンツを供給すれば有料会員は少しずつ増える。ネット上でもメディアとして成立するサービスがもっと出てくるのでは。

 2005年(フジテレビ買収)でやりたかったのは、視聴者がお金を払うようなNHK化。テレビ局はフォロワーを増やす努力をしなかったのが、今のテレビ業界の凋落につながっている。放送事業の収益が落ちたテレビ局が力を入れているのは不動産。例えば、フジテレビならお台場合衆国とか、TBSは赤坂サカスで賃貸事業をやって稼いでいる。コンテンツの本質を見失っているのではないか。

Twitterを無理矢理テレビと融合させるのは愚の骨頂

堀江:テレビとウェブの融合という点では、Twitterで話題になると視聴率が上がる。例えが古いが、「家政婦のミタ」もソーシャルメディアでぶわーっといった。Twitterや2ちゃんねるとかがうまく連携することで視聴率が上がっていく。

有吉:話題になっているから見てみようというのはわかるが、実況板やTwitterを無理矢理テレビと融合させるのは愚の骨頂。以前、TBSのドラマ「ルーキーズ」で実況板と映像を一緒に見る実験をしたが、感動的なラストシーンになると「目から水が出てきた」と盛り上がったり、フィギュアスケートでは「真央ちゃんきたー」とか、ほとんど言葉を持たない状況。それよりは解説者が「トリプルルッツが〜」と説明してくれたほうが面白い。

堀江:そんなことないと思う。もう1つ例を言うと、昔、NHKの討論番組にドワンゴの川上会長と佐々木俊尚さんが出た時、その2人がNHKで真面目に語り合うのは画期的な出来事ということで、ニコニコ生放送で公式座談会をやった。僕とか小飼弾さんとかで。山本一郎さんを入れたのは失敗だったけど(笑)。ネットの人たちにしてみれば裏座談会の方が圧倒的に楽しい。そこはNHKと連動するなり、うまく導線が引ければよかった。

テレビのウェブ連携は「YouTubeで検索してください」で十分

堀江:2年間社会にいなかったが、その中で一番変わったのは、スマートフォンで動画がきれいに見られるようになったこと。以前は3G回線でYouTubeを見るのは厳しかったが、LTEがあればかなりいい。ウェブとの連携という意味では、「YouTubeを立ち上げて検索してください」で十分。

有吉:僕もそう思う。既存のものを使えばいい。

堀江:九州といえば九州新幹線のCMが大感動。ネットでものすごく再生されているし、JR九州のブランドイメージ向上につながっている。しかし、これはネット動画だけでファンディングしてやれたかというと難しい。テレビCMで流すから予算が取れて、あれだけのことがやれた。その意味では、テレビ業界はCMだけに予算がかけられている状況。一番いいコンテンツはCMかもしれない。

 今話題なのは「のどごし生」で、しょこたんとジャッキー・チェンが共演しているCM。素人が見てもわかるくらいものすごい予算をかけているが、今後はこうした傾向が強まってくる。ただ、テレビで流れているCMを見られる人はあまりいなくて、YouTubeで見たりしている。SPIDERがあれば簡単に出会えますけど。

番組表に縛られずにテレビを視聴する時代が来る

ワタナベエンターテインメント会長の吉田正樹氏

堀江:実際のところ生で見ているのを視聴率と言っていて、録画視聴率はこうだったみたいな話があるが、スポンサーとテレビ局はどう思っているのか。録画番組はほぼスキップされているのではないか。

吉田:テレビ局の人じゃないのでわからないが、非常に苦慮するところ。僕は見ている(笑)。SPIDERは過去1週間分の番組しか見られないのが肝。1週間以内に話題になったものであれば見られる。

堀江:それはHDDの容量が増えて安くなれば解決する。技術面ではTwitterで話題になった番組を優先的に録画し、いらないものから削っていけばいい。テレビ局が懸念しているようなことはすべて実現される。CMも全部飛ばすことは簡単。今は番組表に縛られて視聴しているが、そうじゃない時代が来てもおかしくない。そうなった時に録画されている番組の視聴率は広告にはひも付けされず、広告効果はなくなっていく。

 私としてはやはり会員化しかないと思っている。NHKになるしかないと。それなりの会員を抱えて、会員から得る収益で放送コンテンツを作っていく。皮肉なことに有料放送でやるしかないWOWOWさんはブランディングされてきている。

有吉:今の話は違和感があって、会員化してファンを作るのは違和感。できるかもしれないけど、日本のテレビ局は専門チャンネルじゃないので難しいというのと、規模が2兆円の広告費が有料会員に来るかというと難しい。

堀江氏「テレビ番組と絡めた新事業をスタートする」

堀江:11月9日には喪が開ける(仮釈放期間が終了する)。結構これは大事な話で、それまではテレビ局のような免許制度の事業者だと昼間の生番組やドラマはNGというのがあり、深夜帯の録画や「朝ナマ」ぐらいは大丈夫という感じでやっている。来年には、僕が今日言ったようなことを実験するテレビ番組をからめた事業をやろうと思っている。新しい形が見せられると思うのでご期待ください。

有吉:本日のテーマである「テレビのウェブ化」という意味では利便性が重要。テレビがもう一度ユーザーに支持されるには、利便性を高めることだ。「この時間にテレビの前に座っていないとダメ」というのは時代に合っていない。

 テレビが無理矢理ネットと融合させるのはダメだと思っている。前にたかじんさんの番組に出た時に、「スマートテレビはあかんだろうと思う」と言っていた。なぜかと聞くと「スマートテレビでワイプになってリンクが出てきたって誰もやらん。テレビを見ながらiPadでやるほうが便利」だと。僕らはSpiderでそれよりも利便性の高いものを追求したい。テレビのウェブ化はインターフェイスが一番大事だと思っている。

(増田 覚)