iNTERNET magazine Reboot

Pickup from「iNTERNET magazine Reboot」その1

“テクノロジーは民主化と独裁の両方を助長する” ジョン・マルコフ氏インタビュー

ジョン・マルコフ氏

 先週に「iNTERNET magazine Reboot」が発行になったが、その中から注目記事を解説していこうと思う。最初は巻頭インタビューの“ジョン・マルコフ”氏だ。

 ジョン・マルコフ氏のことは日本ではあまりなじみがないかも知れないが、その経歴を聞くと、インターネット新世紀が始まったいま、ぜひ見解を聞きたい御仁だ。

 彼は、シリコンバレーの黎明期に取材活動を開始し、米国最初のPC系週刊ニュース誌「InfoWorld」、一世を風靡したPC雑誌「BYTE」の記者を務めている。私も時代を共有しているので覚えているが、両誌とも現在のデジタル革命のきっかけとなるマイクロコンピュータ(後のパソコン)の躍進を世界に伝えた気鋭のメディアだった。1988年からは、ニューヨーク・タイムズに転職し、ピューリッツァー賞をグループ受賞するなど、テクノロジーと社会について広く伝えている。著書に『パソコン創世「第3の神話」─カウンター・カルチャーが育んだ夢』、『ハッカーは笑う』(共著)、『人工知能は敵か味方か』などがある。

 今回のインタビューは、『人工知能は敵か味方か』の訳者である瀧口範子さんにお願いした。瀧口さんは、かつてのインターネットマガジンでティム・オライリー氏などのインタビューも担当してもらっており、デジタル文化に造詣が深い。今回の質問内容も瀧口さんと編集チームで一緒に草案した。

 私が彼に一番興味を引かれたのは、デジタル革命の要因として米国のカウンター・カルチャーを捉えていることだった。マイクロコンピュータ文化は当時の米国の反体制、非主流派のマニアやオタクが作り出したもので、日本でも黎明期に活躍した人達の中には学生運動あがりの人が多かった。デジタルテクノロジーによる自由の獲得、自由な理想社会を目指したことがこの革命の本質になっていて、かならずしもお行儀のいいものではなかったし、ビジネス一辺倒でもなかった。

 以下のインタビューに、そのあたりのやりとりがある。

Q:PCへと取材対象が移っていった経緯を教えてください。

A:私はホームブリュー・コンピューター・クラブ(シリコンバレーにあった初期のコンピューターを趣味とする人々のユーザーグループ)によく顔を出していて、この新しい産業について書くのが楽しかったのです。1981年、PCを取り上げた最初の週刊紙『インフォワールド』に就職しました。PCは、ホビイスト(オタク)から始まった点で、ほかの産業とは画期的に異なっていました。スティーブ・ジョブズは最初からそこにいたし、ビル・ゲイツはホビイスト相手に商売していました。

 次のやりとりでは、テクノロジーについての彼の見解を聞いている。

Q:どの時代も前の時代のテクノロジーの上に成立しているわけですが、そのつながりを強化するのは何ですか。

A:たしかに、先行するテクノロジーは次の時代の礎になる。私が面白いと思うのは、時代が経過するたびに、テクノロジーがより広い世界の人口にリーチしていったことです。スマートフォンはその総仕上げでしょう。インターネットは今後10年以内に全世界に到達するはずです。その決定的要因は、テクノロジーコストの低下です。ムーアの法則では、加速度的に変化が速くなると同時に、加速度的にコストが安くなるという面があり、ビジネスでは後者が推進力となります。シリコンバレーの最新トレンドはIoTですが、これ自体は革新的だと持ち上げられるほどの技術ではなく、先行するビッグアイデアから派生した優れたエンジニアリングの結果です。そのビッグアイデアの1つがアラン・ケイのパーソナルコンピューターであり、もう1つはその20年後にゼロックスPARCから出たユビキタスコンピューティングです。コンピューターが日常生活に溶け込み、魔法が起こる。マイクロプロセッサーを音楽プレーヤーに入れたiPodやマイクロプロセッサーを電話に取り込んだiPhoneがその好例です。

 次は、AIについての著者もある彼にAI脅威論について聞いている。

Q:イーロン・マスクらのAI脅威論をどう見ていますか。

A:答えは出ていません。自己意識のあるマシンが出現するのは、まだ先のことでしょう。ただ、自己意識がなくともAIシステムは危険になりうる。カギは、AIシステムの制御方法です。人間の介在なしに決断を行う自動殺戮機械は、戦場と市民社会の境界をかき消して、戦争をより危険なものにする可能性が十分にある。問題は、人間のようなAIが生まれるかどうかではなく、マシンが人間によって制御されるのか、それとも人間からまったく独立するのかです。私は、人間の責任感を意思決定のループに含んでおくことが大切だと考えています。「人間のためのAI」をモットーにしている企業もあり、希望は持てます。しかし、資本主義的なコスト削減を推し進めると、悪い方向に進みかねない。IBMのワトソンも、医師のアシスタントになるという触れ込みですが、医師自体を置き換えてしまったほうが安上がりだとなればどうでしょうか。ここは予想のつかないグレーな領域です。

 ほかにも、「ムーアの法則は終わるのか」「ティム・バーナーズ=リーの3つの警鐘について」「個人の力の拡張と監視社会」「ナショナリズムと民主化」などについて聞いている。マイクロコンピュータの誕生から最近のAI、ロボットまで深く知るマルコフ氏の見解は、これからを創っていく人達の示唆になると思う。

 詳しくは、「iNTERNET magazine Reboot」で。

次回に続く)