iNTERNET magazine Reboot

木曜コラム2 #11

IT長者は宇宙が好き?! 「宇宙家族ロビンソン」が現実になる日

ホーキング博士を忍んで

昨年11月に「iNTERNET magazine Reboot」を発刊したのに引き続き、かつてINTERNET Watchで週間で連載していた「木曜コラム」をRebootしました。改めて、よろしくお付き合いください。

 3月14日、英国の理論物理学者スティーブン・ホーキング博士が76歳で死去された。同氏はブラックホールの研究で有名だが、「人類に残された時間はあと100年くらいしかない」という予測をし、「人類は急いで別の惑星に移住すべきだ」と主張されていた。そのためにホーキング博士は自ら、光速の20%まで到達できるという超高速小型探査機ナノクラフトを考案し、隣の星(アルファ・ケンタウリ)を探索する計画を発表されていた。この計画には、フェイスブック創業者のザッカーバーグ氏も投資している。

 ホーキング博士の影響を受けたかどうかはわからないが、テスラ創業者のイーロン・マスク氏が惑星移住のための新型ロケット「ファルコン・ヘビー」の打ち上げを先月に成功させ、世界を驚かせたのは記憶に新しい。ファルコン・ヘビーは、これまでで最大の積載量を誇っており、スペースシャトルの倍以上の荷物を宇宙に運ぶことができるそうだ。さらに驚いたのは、ブースターロケットを地球に戻し、垂直着陸に成功させたことだった。この映像に胸が高鳴った方は多いのではないだろうか。

 マスク氏ほど目立たないが、アマゾン創業者のジェフ・ベゾス氏もブルーオリジンという民間宇宙開発会社に投資している。実はブルーオリジンの設立は2000年で、スペースXより早いのだ。こちらもロケットを回収するという同様の再利用コンセプトを持っている。ちなみに、日本のホリエモンこと堀江貴文氏も、インターステラテクノロジズという宇宙ベンチャーに投資していた。

 どうも、IT長者は宇宙が好きなようだ。たしかに、ITが好きな人には「宇宙もの」が好きな人が多いように思う。コンピュータがマイクロコンピュータという名で一般に使えるようになった当時、その利用目的の1つは「スタートレック」ゲームをやることだった。往年のマニアなら、キャラクタベースのモノクロCRTやプリンターを使った素朴なゲームの記憶があることだろう。いまでも続く、人気のスペースオペラ「スターウォーズ」のファンがIT好きに多いことも、身の回りを見渡せばわかる。

 そういう自分も宇宙が好きだ。天体観望の趣味があることは前にもこのコラムで書いたが、宇宙には子供の頃から強い興味があった。「宇宙家族ロビンソン(原題:Lost in Space)」という米国テレビドラマをご存知だろうか。日本での放送は1966年~1968年だったが、1998年に「ロスト・イン・スペース」として映画化されたので若い人でもご存知かもしれない。宇宙家族ロビンソンは、ジュピター2号という円盤型の宇宙船にロビンソン一家らが乗り込み、アルファ・ケンタウリへの移住の先駆けになるというストーリーだった。私は小学生の頃だったが、毎週楽しみにしていた一番のお気に入り番組だった。

 ホーキング博士の構想もアルファ・ケンタウリだし、スペースXやブルーオリジンが目指しているのも、まさにこの移住計画だ。宇宙家族ロビンソンの放送から半世紀が経ったいま、その構想が現実味を帯びてきたということだ。地球があと100年というのは最大限に暗い話だが、次のフロンティアとして宇宙を目指すことは壮大な夢のある話だ。

 IT長者が、この夢のプロジェクトに投資するのはいい話だと思う。IT長者には、世界の富を独り占めにしているとの悪評もあるが、儲けたお金を人類の未来のために投資してくれるのは歓迎だ。少なくても、高級車のコレクションに使わるより遥かにいい。

 ホーキング博士は、人類への脅威の1つとして資本主義を上げてもおられるが、IT長者が宇宙に投資できるのもまた資本主義の賜物ではある。国が投資するというこれまでの方法もあるが、昨今の情勢を見ているとそれだけではむずかしそうだ。私自身は、宇宙は好きだが地球の自然も大いに好きなので自分が宇宙移民になりたいとは思わないが、人類未来のためのIT長者の民間宇宙開発は応援したい。

井芹 昌信(いせり まさのぶ)

株式会社インプレスR&D 代表取締役社長。株式会社インプレスホールディングス主幹。1994年創刊のインターネット情報誌『iNTERNET magazine』や1996年創刊の電子メール新聞『INTERNET Watch』の初代編集長を務める。