iNTERNET magazine Reboot
第三木曜コラム #8(最終回)
長年の夢、田舎の母でも使えるテレビ電話ついに実現! 作ったのはコンピュータ企業でも通信企業でもないあの会社だった
Amazonエコースポットで日課になった朝テレビ電話
2019年3月28日 12:00
テレビ電話は憧れだった
「テレビ電話」、それはずっと前から多くの人の憧れの機器だったと思う。私が子供の頃は、ウルトラマンのウルトラ警備隊が腕時計型のを使っていてカッコよかったのを覚えている。その後の映像技術、通信技術の進歩により技術的にはいつでも実現できるようになっていて、実際にそれらしい機器やサービスはいくつもあった。しかし、機器操作に不慣れな人や高齢者でも使える機器となるといまだに定番になった製品はないと思う。相手の顔を見ながら電話できる、そんな分かりやすい象徴的な機器を夢見て、コンピュータメーカーや通信企業は何度もチャレンジしてきた歴史があるが、失敗の山を作ってきたと言ってもいいだろう。そんなことから、「テレビ電話は売れない」という説を唱える人もいたくらいだ。
インターネットができてモバイルが定着した現在は、この状況はずいぶん変わった。パソコン、タブレット、スマホなどの標準デバイスを使って、テレビ電話のような機能を実現するアプリがいくつも登場した。たとえば、スカイプでビジネス用途のテレビ会議はできるようになった。しかし、普通の人が気軽に使える「電話」というわけではなかった。LINEのビデオ通話はかなりいい線いっていると思うが、やはりスマホ操作に慣れていない人にはむずかしい。
実家の母とのやりとりにテレビ電話があれば
実は、私にはテレビ電話を使いたいニーズがあった。私の実家は熊本県の益城町(ましきまち)にある。聞き覚えがあるだろうか、3年前の熊本地震で最も被害が大きかった町である。うちの実家も全壊になったが、昨年にやっと建て替えがかなった。ただ地震の影響もあり父が他界し、持病を抱えた母の一人暮らしとなっているので、できるだけ毎朝、電話するようにしている。そんなとき、テレビ電話だといいのにと思うシーンが何度もあり、母でも使えるテレビ電話はないかと思っていたのだった。
エコースポットが使えそう
ある時ネットを見ていて、アマゾンのスマートスピーカー「エコースポット」が目に留まった。ひょっとして、と思った。エコースポットはカメラとディスプレーを備えたエコーシリーズの一機種で昨年の夏に発売されていた。エコーは発売早々に入手し1年前にこのコラムでレポートを書いているので使い勝手も分かっていた。
一番の決め手は声で指示できることだ。母は86歳の割にはチャレンジ精神がありスマホも使ってみたいというので調達している。ただ、スマホの画面操作はやはりむずかしいらしく、電話とメールがやっとで、いまだに写真を撮るのもおぼつかない。でも、声や耳には問題はないので、音声インターフェイスならいけるだろうと思った。
さっそく2台購入し、いずれも私のデバイスとしてセットアップしテストしてみた。結果は映像も音声も問題ないし、使い勝手もいいものだった。エコーは機器ごとに名前を付けられるので、1台を私の名前の「マサノブ」とし、実家に持っていくつもりのもう1台を「クマモト」とした。
今月初旬に実家に帰郷する機会があったので、「クマモト」を持っていき設置してきた。私のスマホに登録しておいたので、Wi-Fiの再設定だけですぐにつながった。そして、いよいよ東京にテレビ電話。指令は「アレクサ、マサノブに電話して」だ。なんと、一発目から母の声で問題なく認識し、東京に接続できた、すばらしい! 通信機器は大抵が一発では動かないものだが、本当にユーザーにやさしくできていると感心した。
「呼びかけ」機能は有用
もう1つ、エコースポットに興味があったのが「呼びかけ」機能だ。呼びかけとは、相手の応答なしでいきなり接続してくれる機能だ。つまり、いきなり「おはよう」などと話しかけられるのだ。これはセキュリティー的には十分配慮しないといけない機能だが、分かっている間柄ならとても便利な機能だ。あるとき、母に何度電話しても応答がないことがあった。とても心配になり、近所の人にお願いして様子を見に行ってもらったことがある。そんなときは、強制的に接続し、相手の様子を映像で見られ、こちらから声をかけることができる機能があればありがたい。
母が指令を忘れないように、壁に「アレクサ、マサノブに電話して」というメモを張ってきたことが功を奏したようで、最近は母からかかってくることも多い。映像で見えることはすばらしく、顔が見られることで健康状態も分かるし、「この書類は何だっけ」などの時も書類を見せてもらえる。きのうは庭の桜が咲き始めたのを見せてもらった。エコーは小さいので移動も簡単だ。いまや、エコースポットのおかげで母との朝テレビ電話が日課になっている。
作ったのはアマゾン社
デジタルが始まって約半世紀、ついに誰でも使えるテレビ電話が実現されたと言ってもいいのだろう。ただそれを作ったのは、テレビの雄だったソニーではなく、コンピュータメーカーのNECでもなく、通信会社のNTTでもなかった。さらに言えば、それはマイクロソフトでもアップルでもなく、ショッピングサービスのアマゾン社だった。このことこそが時代の変遷を表しているのだろう。開発の視点がプロダクトアウトからマーケットインになり、ハードウェアからサービスになった。それを顧客目線で真剣に取り組んできたアマゾン社だからできたことなのだろう。時代が大きく変わってきたことを実感できる出来事だった。
(本第三木曜コラムは今回で終了します。ありがとうございました。)
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「iNTERNET magazine Reboot」は、ネットニュースの分析や独自取材を通して、デジタルテクノロジーによるビジネス変化を捉えるインプレスR&D編集のコーナーです。産業・教育・地域など、あらゆる社会の現場に、Reboot(再始動)を起こす視点を提供します。
井芹 昌信(いせり まさのぶ)
株式会社インプレスR&D 代表取締役社長。株式会社インプレスホールディングス主幹。1994年創刊のインターネット情報誌『iNTERNET magazine』や1996年創刊の電子メール新聞『INTERNET Watch』の初代編集長を務める。