iNTERNET magazine Reboot

第三木曜コラム #7

村井純先生のすごいところと、後進に見習ってほしいこと

祝! 仏レジオン・ドヌール勲章受章

 今月の13日に慶應義塾大学の村井純先生が仏レジオン・ドヌール勲章を受章されたことはINTERNET Watchのニュースでも報じているが、それは私が書いた記事だった。

 私は、村井先生が最初に書かれた本にあたる『プロフェショナルUNIX(1985年、アスキー刊)』の編集をした縁があり、以来いろいろな場面に立ち会わせていただいている。今回もご招待で出席させていただけたのだった。村井先生はこの賞のほかにも、2005年にポステルアワード、2011年にIEEEインターネット賞、2013年にインターネット殿堂などを受章されている。本当に素晴らしいことだと思う。

レジオン・ドヌール勲章授章式にて。(右から)安西祐一郎先生、村井純先生、ローラン・ピック駐日フランス大使

村井先生の5つのすばらしいこと(安西先生の祝辞より)

 今回のレジオン・ドヌール勲章の授章式では、慶應義塾大学理工学部名誉教授の安西祐一郎先生が祝辞を述べられたのだが、そこで語られたのは村井先生のすばらしいところシリーズという内容だったのでご紹介したい。

 その1は「世界」。各国の会議などで「ジュン・ムライ」の名を聞かないことはないという話から、日本だけでなく世界でインターネットを創ってきた業績がすばらしいと評された。

 その2は「標準化」。アドレスやサイバーセキュリティなど。地道にリードされてきたことがすばらしいと。

 その3は「技術的」。村井先生が、かつて「自分はアセンブラ1行で勝負している」と言ったというエピソードを披露され、しっかりした技術があることがすばらしいと。

 その4は「教育者」。著名な大学教育者を両親に持つ家系に育ち、自身もすばらしい教育者だと。

 最後のその5は「いい人」(ここで会場は大うけしていた)。いつも、自分だけでなくみんなのことも考えている。それがなかったらここまで来られなかったと評された。

 大学の師として近くで見てこられた安西先生のお言葉だけに、説得力と重みがあった。祝辞の後に安西先生とお話しできたのだが、村井先生のことを「こんな人は他にいない」と評価されていたのが印象的だった。

井芹が思うすばらしいこと

 安西先生のご評価とは別の視点になるが、私も常々村井先生の活動をすばらしいと思っていたので、これまでのお付き合いで村井先生から感じてきたことを、順不同ながら思いつくままにご披露したいと思う。

 それは、「面白いことを追及する」、「やんちゃな心(いつまでも少年のような)」、「音楽に造詣が深い」、「芸術・文化に興味あり」、「よく働く」、「標語を作るのがうまい」、「お金(ビジネス)のこともちゃんと考える」、「お酒が好き」、「仲間を大事にする」、などである。村井先生はネットワーク技術が専門領域になるわけだが、学術・技術だけでなく、人のこと、文化のこと、お金のことも考慮されているバランスがすばらしい。それが多くの人にできないことだし、すごいことだと思う。

 昨今のデジタルは、さらに加速度を増して進展しているように感じる。各産業分野ではデジタルトランスフォーメーションが進んでいるが、デジタルの台頭は産業に止まらず、社会全体をトランスフォーメーションしていくことだろう。これからの世の中をリードしていくには、「文系・理系」のような従来型の日本的発想ではだめだと思う。そこで必要になるのは、縦割りで規定された職人ではなく、専門領域を持ちながらも全体を横断して見る視点や総合的に俯瞰して考察できる視点、そして別の分野の人たちと協業していける力量ではないだろうか。村井先生は、もっとも先頭に立ちそれを体現されてきた、日本が誇るリーダーだと思う。

 今回のレジオン・ドヌール勲章受章は、このことを日本以上に世界が認めてくれていることの証左だといえるだろう。これからの社会を創っていく人たちにとって、村井先生の存在と一連の活動は大きな指針になると思うのだ。

「iNTERNET magazine Reboot」コーナーについて

「iNTERNET magazine Reboot」は、ネットニュースの分析や独自取材を通して、デジタルテクノロジーによるビジネス変化を捉えるインプレスR&D編集のコーナーです。産業・教育・地域など、あらゆる社会の現場に、Reboot(再始動)を起こす視点を提供します。

井芹 昌信(いせり まさのぶ)

株式会社インプレスR&D 代表取締役社長。株式会社インプレスホールディングス主幹。1994年創刊のインターネット情報誌『iNTERNET magazine』や1996年創刊の電子メール新聞『INTERNET Watch』の初代編集長を務める。