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中国政府による“VPN規制強化”の実際と中国におけるVPNへのニーズの現状

 1月下旬、中国政府がVPN規制を強化することを発表したとの報道があった。中国に渡航した経験がある人の多くは、「中国ではGoogle、YouTube、Facebook、Twitterといったサービスにアクセスできない。しかし、VPNを使えばこれらのサイトにアクセスできる」という認識をしているかと思う。今回の“規制強化”によって、中国では今後、VPNが利用できなくなってしまうというのだろうか?

 この発表は、中国の情報産業省にあたる「工業和信息化部」というところから出された「関于清理規範互聯網接入服務市場的通知(インターネット接続サービス市場の整理・規範化に関する通知)」というもの。中国メディアも関心を示したことから、補足説明も行われている。

中国の工業和信息化部が1月22日付で発表した「関于清理規範互聯網接入服務市場的通知(インターネット接続サービス市場の整理・規範化に関する通知)」

 この「通知」では、「未許可のIDC(データセンター)、ISP(プロバイダー)、CDN(コンテンツデリバリーネットワーク)経営があり、又貸しなどの違法行為がある」とし、「海外が関係する業務においては、電信部門の許可を受けず、VPNを構築するなどの経営活動がある」とした上で、VPNを含むこの手の営業を行う違法業者の取り締まりを3月31日まで強化すると記されている。

 この手の通知は今回が初めてではなく、過去に何度となく「関于清理規範互聯網接入服務市場的通知」というタイトルでの違法業者一掃についての通知を発表している。また、補足説明では、「国際的な企業や貿易企業が業務のために適切な事業者による専用線などを利用すれば問題はない」と工信部が発表している。重ねて書くが、VPN自体は禁止ではなく、政府サイトにも登録フォームがあるなど許可されている。

 通知の中にある「又貸しなどの違法行為」に、インターネットVPNサービスが含まれる。「中国でFacebookやGoogleを見ることができる」という触れ込みで提供されている、個人契約できるインターネットVPNサービスがそれにあたる。特に対象となっているのは、これまでの傾向から見て、中国国内の業者であろう。オンラインショッピングサイト「淘宝網(タオバオ)」ではインターネットVPNサービスを販売しているが、今回の発表後に確認すると、「vp跨境n」(跨境=越境)といった具合に、「vpn」で検索されないような小細工で対処しているのが確認できた。また、「百度」などの検索サイトでも確認できる。

「淘宝網(タオバオ)」で販売されるインターネットVPNサービス

 外国人ビジネスマンなどが宿泊する5つ星ホテルではTwitterやFacebookなどに直にアクセスができるところもある。また、インド、中東、ロシア、アフリカなど外国人が多数買い付けに来る広州や義烏などの都市では、VPNサービスが売られている。法などの建前はあるが、通知の通りに厳しくすべてを管理するとは思えない。

 ただし、海外のVPNサービスは今後も問題なく使えるか?というと、そうとも言い切れない。GoogleやYouTubeが、あるとき予告なく使えなくなったように、それまで使えていたVPNサービスが、あるとき突然アクセスできなくなることがある。こうした場合、政府公式発表で「このサイトは違法だ」と名指しで指定することはなく、中国外務省で「特定のサイトが使えないということは、そのサイトは違法だということだ」といったコメントを出すことが多い。が、それとて外務省の見解であり、管轄外の可能性はある。

インターネットVPNサービスを販売する店

インターネットVPNはもはや必要とされていない?

 では、中国で、インターネットVPNや、その他抜け道による海外サイトを見たいというニーズは一般的にあるのか?

 Google Trendsに相当する「百度指数」を見ると、YouTube、Google、Steamを利用するためにインターネットVPNを利用したいというニーズが見えてくる。Googleの用途としては、外国へ留学するにあたっての情報収集や研究用途などが一例として挙げられる。一方で、FacebookやTwitterなどのSNSは、そもそもネットの知り合いがおらず同胞もいないので、使っても面白くないというのが“壁越え”経験者から聞いた声だ。また、海外で「Pokémon GO」が人気になったときは、利用したいとばかりにニーズが高まった。人気のサービスが海外で登場すると、アクセスニーズが高まる傾向がある。

 ネットの壁越えを伝えるあるニュースサイトには、「毎年、壁越えのハードルが上がる中で、VPNの利用者は減り、VPNサービスの利用料金が上がる中で、費用対効果でそこまでして利用しようとする人は減ってきている」と現状を書いた記事がある。また、Googleは2010年に撤退したが、それ以前からのGoogle利用者は、新規ネットユーザーが増え続ける中で、少数派となっている。中国のコンテンツやサービスが十分にある中で、撤退して6年以上経過し、壁越えのハードルが上がる中で、Googleなどにこだわり続ける人は減っているというのが自然だろう。

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中国のパブリックDNSで、外国に居ながらにして中国のネット環境に!?

 百度、騰訊(テンセント)、阿里巴巴(アリババ)といった中国のネット企業が「百度公共DNS」「騰訊公共DNS」「阿里公共DNS」といったパブリックDNSサーバーを提供している。「よりセキュアに快適にインターネッが利用できる」ことを謳ったパブリックDNSサーバーであり、FacebookやTwitterが利用できない中国のネット環境を外国に居ながらにして再現できる。