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「空飛ぶクルマ」が福島県で試験飛行→三重県でサービス実証実験、両県が「空の移動革命」実現に向けた協定書

協定書を持ち、握手する福島県の内堀雅雄知事(右)と三重県の鈴木英敬知事(左)

 経済産業省および国土交通省が2日、地方公共団体による「空の移動革命に向けた構想発表会」を行い、福島県と三重県が「空飛ぶクルマと空の移動革命の実現」に関する協力ですると発表した。

 政府では、有識者による「空の移動革命に向けた官民協議会」を設置。2018年12月にはロードマップをとりまとめ、その内容を公表している。

 今回の発表会では、福島県と三重県が協定を締結した。福島県の内堀雅雄知事と三重県の鈴木英敬知事が協定書に調印した。両者は、事業者に対して、空飛ぶクルマの開発から活用までを支援し、空の移動体革命の実現に向けて共同で取り組むことになる。

 具体的には、「実証実験などを実施する事業者に対する支援および関係機関との調整」「実証実験において得られた知見および情報の共有」「実証実験などを踏まえた制度や体制の整備に向けた関係機関などへの提言」「空の移動革命の実現に向けた機運醸成」などで協力する。

 現在、福島県では、「福島ロボットテストフィールド」を開設。この施設が、空の移動革命に向けた官民協議会の策定したロードマップにおいて、空飛ぶクルマの試験飛行の唯一の拠点として整備される予定で、関連法令を遵守しながらの試験飛行が可能になるという。

 また、三重県では、空飛ぶクルマを活用した新たなビジネス創出による産業発展を図るために、空飛ぶクルマの実証実験を行う事業者の支援に乗り出しているところだ。

協定書に調印する福島県の内堀雅雄知事(右)と三重県の鈴木英敬知事(左)
調印された協定書

 福島県の内堀知事は、「東日本大震災から8年あまり経過している。福島の復興は着実に進んでいるが、福島県の東側にある浜通りは、地震、津波、原発事故、風評被害という全てを受けている地域であり、まだまだ厳しい状況が続いている。この地域を、『福島イノベーション・コースト構想』というビジョンによって、大きく再生していきたいと考えている。この構想の中核になるのが福島ロボットテストフィールドである。ここでは、空飛ぶクルマの試験飛行ができる。すでに30を超える企業や研究機関がドローンや空飛ぶクルマの研究開発を進めている。今回の三重県との協定を機に、福島イノベーション・コースト構想が、さらに前に進むことを期待している。三重県と力を合わせて、空の移動革命を進め、日本の技術を高めたい」と述べた。

福島県の内堀雅雄知事

 また、三重県の鈴木知事は、あいさつのなかで、自らが自動車の免許を取得するために大学1年生のときに通った自動車教習所が福島県南相馬市であったことを披露。さらに、全国知事会の危機管理防災特別委員長であり、東日本大震災復興本部の副本部長を務めていることにも触れながら、「また福島県とご縁ができた。福島県の復興に全力に取り組むことに強い気持ちを持っている」と切り出し、「福島県とは、これまでにも農業生産工程管理(GAP)の取得で提携している。今回の協定締結によって、福島県の復興を進め、三重県の人口減少など課題解決が進み、次世代や未来でも手を組み、Win-Winの関係を築きたい」とした。

三重県の鈴木英敬知事

 一方、経済産業省の関芳弘副大臣は、「空飛ぶクルマの実現に向けては、世界各国での取り組みが始まっている。日本は、世界に先駆けて、技術開発やビジネスモデルの確立、法制度の整備などに取り組んでいかなくてはならない。今回の協定を通じて、実証実験を行う事業者への支援を行うことは素晴らしいことである。福島県の福島ロボットテストフィールドを活用することで、空飛ぶクルマの開発が進むことを期待している。一方で三重県では観光利用や離島の生活支援など、具体的なサービスを見据えた実証実験が行われることを期待している。空飛ぶクルマの実現に向けて、官民の関係者をリードしていってもらいたい。経済産業省も全力で支援をしたい」とコメント。

経済産業省の関芳弘副大臣

 国土交通省の大塚高司副大臣は、「空の移動革命は、官民における議論のもと、2019年度中の試験飛行や実証実験の実施、2023年中の事業開始を目標とするロードマップが策定されたところである。この目標達成に向け、福島県と三重県が、全国47都道府県の先陣を切って、空飛ぶクルマの開発から活用までを支援する協定を結んだことに敬意を表する。国土交通省としても、試験飛行の許可にあたっての助言や離着陸の場所、空域の調整などを通じて、両県と連携したい。両県の取り組みが、試験飛行や実証実験、あるいは実現を踏まえた制度や体制の整備を後押しすることを期待している」と述べた。

国土交通省の大塚高司副大臣

 東京大学名誉教授であり、福島ロボットテストフィールド所長の鈴木真二氏は、「空飛ぶクルマによって、人類は新たな移動手段を獲得しようとしている。だが、新たなモノを社会に実装するにはさまざまな壁を超える必要がある。ライト兄弟は、米ノースカロライナ州キティーホークの砂地で墜落を繰り返しながら実験をした。危険を乗り越えてこそ、新たな技術をモノにできるといって挑戦し、その後の社会実装の取り組みによって、飛行機が使えるようになっている。空飛ぶクルマも我々が使いこなすには、実証実験が必要であり、福島ロボットテストフィールドは、ライト兄弟のキティーホークの砂地に相当する。空飛ぶクルマの実装に向けて、今日の協定が第一歩になることを期待している」と語った。

東京大学名誉教授/福島ロボットテストフィールド所長の鈴木真二氏

 さらに、株式会社SkyDrive代表取締役の福澤知浩氏は、「今回の両県の協定は、スタートアップ企業にとって心強いものになる。SkyDriveは空飛ぶクルマの開発を行っている企業であるが、開発において大切なのは、圧倒的に広い場所で、ひたすら飛行試験を繰り返すことである。福島ロボットテストフィールドは、日本最大面積の飛行試験場であるというだけでなく、インフラ面もそろっている。ここで開発をさせてもらいたい。三重県とは、離島地域での活用や産業活用、観光活用で、一緒に実証実験の計画を進めている。これをともにビジネスに発展させたい。空飛ぶクルマの産業は140兆円規模になる。この産業のなかで日本のプレーヤーが生きていくためには、官民の連携が重要になる」などと述べ、また、テトラ・アビエーション株式会社代表取締役の中井佑氏は、「当社は、空を飛ぶことに特化した1人乗りの製品の開発を行っている。いまは、米ボーイングが主催し、2020年2月に行われる国際コンテンストの最終ステージで優勝することを目指している。空を巡って、法律や安全、社会のあり方が変わる転換点にある。今回のような提携が、ダイバーシティに富んだプレーヤーが参加したり、多くの産業を巻き込むかたちで、空の移動革命という産業を発展させたりといったことにつながるだろう。新たな経済を生み出すことを期待している」と語った。

株式会社SkyDrive代表取締役の福澤知浩氏
テトラ・アビエーション株式会社代表取締役の中井佑氏

 最後に登壇したDrone Fundの代表パートナーである千葉功太郎氏は、「当社は空飛ぶ領域のスタートアップ企業に特化したミートアップファンドであり、これは世界に3社しかない。空はもっと使った方がいい。日本はドローンやエアモビリティでは遅れていると言われる。確かに、ドローンなどの製品開発では中国や米国が進んでいる。だが、日本は官民学が一緒になって2023年までに事業化するということを掲げ、自治体も実証実験や社会実装に取り組むことを宣言している。こんな先進国はない。日本は新しいことに臆病だと言われるが、空に関してはアグレッシブであり、いい意味でリスクを取っている。いまこそ、空の産業革命を推し進めるチャンスである。空は自由であり、既存の交通インフラに頼ることなく、自由に行きたいところに飛べる。クルマに次ぐ、日本の新たな産業になると期待している」などとした。

Drone Fund代表パートナーの千葉功太郎氏