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思春期発達デイケアでお絵描きタブレット「raytrektab」活用、心療内科クリニックの「アートセラピー」に導入

 思春期や若年成人を対象としたデイケア(通所リハビリテーション)において、タブレット端末やPCなどのデジタルデバイスを使ったクリエイティブなプログラムに取り組んでいるクリニックがある。2018年1月に東京・上野駅近くで開院した「ストレスケア東京上野駅前クリニック」だ。

 同院は、診療・カウンセリングと思春期発達デイケアを中心とした心療内科・精神科クリニック。主に中学生から30代までの人を中心に、クリエイティブなプログラムやコミュニケーション、運動、交流外出、集団療法などを行う「思春期発達デイケア」を実施している。

 デイケアに通所しているメンバーは、不登校や引きこもり、休学・休職中、コミュニケーションが苦手で自信を失っている人など、さまざまな悩みを抱えており、そのような人たちの心の奥に眠っている「やりたいこと」を引き出し、クリエイティブな活動を支援するプログラムとなっている。

 この「思春期発達デイケア」のプログラムの1つとして実施しているのが、絵画やクラフトなどを行う「アートセラピー」だ。色鉛筆やパステルなどを使った「絵画教室ベーシック」や、水彩やさまざまな技法を使った「絵画教室クラシック」、粘土やハーバリウム、折り紙などを使った「クラフト」など多彩なメニューがある。

 このプログラムに今年5月、新たに追加したのが、タブレットを使ってキャラクターのイラストやマンガを描く「絵画教室デジタル」だ。

クリエイティブに自分を表現し、生きる力につなげていく

 絵画教室デジタルは、毎週金曜日の午後に行われており、毎回、約10人のメンバーが参加する。使用しているのは、株式会社サードウェーブのWindowsタブレット「raytrektab 10インチモデル」だ。同製品には、筆圧4096階調で、5gと軽量なWacom製の「三菱鉛筆9800 デジタイザーペン」と、ペイントツール「CLIP STUDIO PAINT DEBUT」が付属しており、すぐにイラスト制作を楽しめる。

 アートセラピーの現場を実際に見せていただいた。広々としたデイケアルームに入ると、さまざまな年齢層のメンバーがデジタイザーペンを操作している。この日のテーマは「マンガの1コマを描いてみよう!」だった。ひたすら黙々と絵を描いている人もいれば、ときおりスタッフと談笑しながら描いている人もいる。こうしてそれぞれが自由に好きな絵を描き、最後に集まったメンバー同士でその日に描いた作品を発表して終了する。メンバーの絵の力量はさまざまだが、中にはプロ並みのクオリティの高いイラストを描く人もいた。

10インチのWindowsタブレット「raytrektab」を使用
アナログの絵画教室で描いた作品

 このアートセラピーを始めた理由として、院長の細川大雅氏は「当院は主に思春期の方が来られることが多いのですが、不登校や引きこもりなどで悩んでいる方に医療としてなにができるかを考えたときに、薬だけに頼るのではなく、アートを通して自分というものをうまく出していくことで自信につながれば、それが彼らにとって生きていくエネルギーになるのではないかと思って始めました」と語る。

 同院のような思春期専門のクリニックは日本ではあまり例がなく、デイケアで思春期を対象としたアートセラピーや集団療法などを実施しているクリニックも前例がほとんどないため、医師もまた試行錯誤で取り組んでいるという。

 「アートセラピーという取り組み自体は昔からありますが、それは主に、絵を描くことで自分の心理を把握するために行うものでした。当院で行うアートセラピーは、それに加えてクリエイティブに自分を表現して、生きる力につなげていこうというものです。」(細川院長)

 当初、色鉛筆や水彩を使って、絵画の講師を呼んでアナログで実施していたアートセラピーに、タブレットを使ったデジタルのプログラムを追加したのはなぜだったのだろうか? 医師の緒方優氏によると、デジタルの場合はインターネットへの公開が容易だからだという。

 「アナログの場合、完成した絵はクリニック内に掲示したり、家に持ち帰って自分で見たりするだけですが、デジタルで作品を作ることで、もっといろいろな人に見てもらうことで自分を表現したり、そこで新たなコミュニケーションが生まれたりするのではないかと考えました。インターネットで公開するだけでなく、LINEのスタンプを作って販売するなど、自分オリジナルのプロダクトを売ることで、より自分を表現し、強みを明らかにできます。」(緒方医師)

 「家で絵を描いているだけでは、なかなか社会とつながるのが難しいですが、デジタルで描いて広く公開することで、社会からなにかしら反応を得られます。そういうことを通じて社会につながっていくというのは、非常に大切なことです。」(細川院長)

(左から)ストレスケア東京上野駅前クリニックの細川大雅院長、緒方優医師、株式会社サードウェーブ営業統括本部の田中基文氏田中氏

自己表現・自己の強みを見つけるというニーズにマッチ

 デジタルのプログラムを始めるにあたって細川氏は、どのような端末を使うのか悩んだという。

 「最初に手持ちのタブレットで試してみたのですが、今ひとつ感触が良くありませんでした。操作方法も分かりにくく、やはりデジタルの導入は難しいなと思っていました。もしかしたらこれは機材の問題ではないかと思い、秋葉原でいろいろと店を回って試していたら、raytrektabを見つけて、これは使いやすいと思ってサードウェーブさんにお願いすることにしました。」(細川院長)

 「最初から20~30万円の大きな液晶タブレットを導入するのは敷居が高いし、機能が多くてもそれを使いこなすのは難しい。raytrektabなら大きさもちょうどよくて、机に置くだけでなく膝の上に置いて使うこともできるし、デジタイザーペンの筆圧感知も良い。使いやすいペイントツール『CLIP STUDIO PAINT DEBUT』もインストールされているので、アナログで絵を書き慣れている人から、あまり絵を描いたことがない人まで、幅広い人たちがすぐにデジタルに移行できます。」(緒方医師)

 アートセラピーへのタブレット導入について依頼を受けたサードウェーブ営業統括本部の田中基文氏によると、同社にとってもこのような案件は初めてだったという。

 「raytrektabはもともと、女性からの『手軽にイラストを描いてみたい』という要望から始まった機種ですが、デイケアに使われるというのは初めてのケースです。細川先生から、この取り組みについて相談されまして、タブレットやPCの活用によってメンバーの方にぜひ良くなっていただきたいと思い、ご協力させていただきました。納品したのはraytrektabを10台と、デスクトップPCの『GALLERIA』です。raytrektabで描いたものを本格的に編集していただくために、高性能のグラフィックカードを搭載しています。」(田中氏)

 デジタルのアートセラピーについてはメンバーからの評判も良く、金曜日の午後はこれまでクラフトや工作などいろいろと試行錯誤していたのが、「絵画教室デジタル」を開始してからはメンバーの参加率が高いという。最後に同プログラムの今後の方針について、緒方氏に聞いてみた。

 「メンバーからは『絵を描いていると楽しい』という声をよく聞きます。タブレットを使ったアートセラピーはメンバーの自己表現や自己の強みを見つけるというニーズにマッチしているのだと思います。現在のところ、デスクトップPCはメインに使っていませんが、今後はraytrektabで描いた作品をクラウド経由でPCに移して、Photoshopで加工したり、After Effectsでアニメを作ったりする機会を作ってみたいと考えています。」(緒方医師)

デイケアルームの一角にある大型モニターで操作方法を説明
Adobeのツールがインストールされた「GALLERIA」