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なぜ、IT知識がある人ほど情報モラルが「ひとごと」になるのか

 SNSや動画サービスが誰でも簡単に利用できるようになり、楽しい反面、情報モラルを身につけてトラブルに巻き込まれないようにしようという意識が高まっている。

 学校や職場で講習会も開催されているが、なぜかITに詳しい人が教えようとする時ほど、普通の人に上手く話が伝わらないことがあるという。なぜそうした問題が起きるのか。情報モラルの講習会を全国各地で数多く実施しているトーンモバイルの工藤陽介氏が、その理由と対策を紹介した。

トーンモバイルの工藤陽介氏は情報モラルの講習会の講師として年に100回は呼ばれるという

学びには「共感と理解」が必要

 セミナー「なぜ、IT技術者は普通の人に情報モラルを教えられないのか」は、毎年秋に大阪で開催される、オープンソースと様々なコミュニティのためのお祭りイベント「関西オープンフォーラム(KOF)」で行われたもの。参加者の多くがIT関係者で、情報モラルについて教える側になる機会があるため今回のテーマが設けられた。

 子どもたちや非IT系の人たちが情報モラルやセキュリティに対しどのような考え方をしているのか、また、どうすれば理解してもらえるかを知ってもらうのが目的だ。

 講師の工藤氏が所属するトーンモバイルは、月額1000円の低価格サービスを提供するMVNOだが、料金に最初から見守り機能やWebフィルタリングが含まれており、安心に使えることを売りにしている。

 利用者が子どもとシニアに極端に偏っており、情報モラルに対する関心が高いことから、会社として啓発活動にも力を入れている。

 工藤氏は年100回ほどのペースで、子どもから保護者、教師、自治体まで幅広く情報モラルを教えているが、参加者から「知らないことばかりで勉強になった」「さすが専門家なので詳しい話が聞けた」と言われる時ほど話が伝わっていないと感じるのだという。

 学びに結びつけるには「共感」と「理解」が大事であり、3つのポイントに気をつけてスライドを作ることを提案している。

共感と理解を得られるスライド作成をする3つのポイント

「あるある話」で他人事を自分事にする

 一つ目は「参加者の知識(認識)を揃える」。たとえばフィルタリングの話をする場合、普通の人はそもそも何か知らないし、かといってITの知識がある人にあわせて説明すると理解が進まないので、最初に両者の認識を揃える必要があるという。

ITに関する話題を取り上げる時は参加者の認識を揃えておく

 よくあるのはブラウザという単語ではわからないからと講師が勝手にホームページと定義して話を進めると、ITがわかる人はそこにモヤモヤしてつまずいてしまう。最初に簡単なクイズをして、この場ではこういう使い方をしますと定義することでその後の理解がスムーズになる。

 二つ目は「共感できるストーリーで伝える」。「パスワードを忘れてはいけません」とダイレクトに言ってもその場限りで忘れられてしまうが、具体的に困りそうなシチュエーションでストーリーを作り、さらに「こういうことってあるよね~」と共感してもらいながら説明する記憶に残りやすくなる。

 他にも間にクイズをはさんだり、参加者を指名してどう思うか聞くなどすると共感度が上がるという。

 三つ目は「参加者に口と手を動かしてもらう」。特にSNSの炎上やバイトテロを防ぐため、未成年のネット利用をどうすればいいかといった正解の無い問題を取り上げる場合、いくつか用意した意見のどれにあてはまるか手をあげてもらい、それから隣の人と議論すると自分事として考えてもらいやすくする。その場合、席を移動するなど話しやすい状態にするのも忘れない。

クイズや問題を交えて参加者の手と口を動かしてもらう

普通を知ってもらうことが被害を防ぐ

 「ネット被害の多くは『自分が尊敬するアーティストが好きな人に悪い人はいない』といった謎理論にハマるからトラブルになるのであって、普通に考えれば防げるのです。大事なのはその普通に共感できるかどうか。

 情報モラルを教えるのに必要なのは知識を教えるのではなく、自分事として考えてもらえるよう、誰もがわかるようなストーリーを作って参加者みんなで考えながら理解していくことです。」

 情報モラルの問題はIT技術やサービスにあわせて変化していくが、工藤氏が提案するポイントを理解しておけば柔軟な対応ができそうだ。