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ヤフーとLINEの成り立ちを振り返り、統合の意味と可能性を考える
協議中の「経営統合」で何を目指すのか?
2019年11月14日 20:57
ヤフーとLINE、両社の経営統合の意味とは
さて、こうした背景を持つ両者が経営統合を検討するということにどのような意味があるのだろうか。
経営統合のための協議内容はもちろん発表されているわけではないし、今後、規制当局の判断も加わる可能性もあり、いまの段階ではあくまでも外野の推測の域を越えるものではないが、いくつかの観点で整理してみよう。
【事業効率化の観点】QRコード決済サービスの統合が視野?
ヤフーのサービス群に対する月間ログインユーザー数は約5000万件で、QRコード決済サービス「PayPay」の累計ユーザー数は1900万人を超えるとされている。
また、アプリ「LINE」の月間アクティブユーザー数は8200万人で、QRコード決済サービス「LINE Pay」の登録ユーザー数は3690万人を超える。もちろん、世界規模ではフェイスブックやグーグルが桁違いの巨大なユーザー基盤を持っているが、日本の人口1億2000万人と考えると、国内で考えるならフェイスブックやツイッターよりも広く浸透し、幅広い世代に根ざしている。
そのような中、ソフトバンクにとってもLINEにとっても、力を入れているQRコード決済サービスは「顧客の経済活動を記録・管理する」という意味において、非常に戦略的なサービスといえる。
しかし、サービスの立ち上がり時期でもあり、サービスは市場で乱立し、両者ともサービスの認知を広め、ユーザーの利用を定着させるための施策であるキャッシュバックキャンペーンなどを積極的に行ってきた。さらに、LINEが5月に実施した「300億円祭」以後、増加したユーザー数が急激に減少したと発表している。PayPay、LINE Payはシェアで上位に位置しているが、このままいくと、誰も勝者がいない消耗戦に突入するのではないかとも心配になる。
こうした状況から、QRコード決済サービスの統合、すなわち基盤技術の共通化、IDの統合、ブランドの統合、マーケティング施策の統合による経営資源の効率化はあり得るのではないだろうか。
【新サービス創出の観点】スコアリングサービスの展開や、アクテビティの向上も?
今後の新サービスはペイメントのみならず、新たな少額融資などといった金融サービスも考えられるし、スコアリングサービスも注目できる。
これはある個人の(ウェブを使った)サービス利用履歴、日常の活動履歴、売買履歴(経済活動履歴)などを分析して、個人の信用度をスコアとして数値化、信用情報として提供しようとするサービスだ。これによってスピーディーな少額融資を実行したり、サービス内容などを優遇したりすることができるようになるとされており、従来の「表示情報のパーソナライズ」からさらに進んだサービスとしての展開が見込まれている。
そのためにも、(ユーザーの意思でオプトインしてもらうことにはなるが)一人ひとりの顧客の履歴を多く取得する必要も出てくるが、両社が手を結ぶことで、ばく大なデータを扱うことができる可能性もある。
さらに、両者とも日本市場ではそれなりの顧客基盤の構築が完了していることから、新たな顧客獲得施策よりも、一人当たりから生まれる売り上げの拡大が狙いになると思われる。ユーザーのアクティビティを活性化させるような新たなサービスを相互に提供する必要もあるだろう。
すでに、広く認知されているコンテンツやサービスを持つヤフーと、モバイルプラットフォーマーとしてのLINEによる統合、さらには共通するとも推測される顧客一人ひとりのアクティビティ活発化も重要なポイントではないだろうか。
【国際的競争の観点】GAFAやBATJに対抗するIT勢力として
いうまでもなく、日本を含む国際市場ではGAFA(G:グーグル、A:アマゾン、F:フェイスブック、A:アップル)が圧倒的に強いプラットフォーマーとして君臨している。また、中国ではBATJ(B:百度(バイドゥ)、A:阿里巴巴(アリババ)、T:騰訊(テンセント)、J:京東(ジンドン))などとも呼ばれる巨大IT企業が勢力を伸ばしている。とりわけ中国は巨大な人口を誇り、さらに世界各国に広がるチャイナコミュニティを形成している。
日本は、地理的にこの西と東のプラットフォーマーに挟まれ、市場に攻め込まれつつあるという見方もできる。とりわけ、市場が大きい日本におけるプラットフォームのイニシアティブをどこの企業グループが握るかということは今後の焦点である。
すでにヤフーとLINEはともに日本市場において、高いブランド価値や一般化したサービスを持っていることから、こうした資産を生かしていかなければ、長期的にはこれらの国際企業とは伍していけないのではという判断があってもおかしくはない。
【直近の業績の観点】業績数字の上積み効果も?WeWorkの影響もあるか?
経営統合の最終形態は明らかになっていないが、ソフトバンクと韓国ネイバーが同じ比率で出資をした持株会社を設立し、その下にZホールディングスを位置付け、ヤフーとLINEを100%保有するという案が報じられている。
それはソフトバンクの連結子会社となるとされていることから、ソフトバンクグループ全体としては業績数字への上積み効果も期待できるだろう。すでに大きく報じられたように、直近の四半期決算において、WeWorkによる巨額の評価損を計上していることから、体制の立て直しが急務でもあり、その意味でもLINEとの経営統合の意味はありそうだ。
まとめ
一方で、ここまで日本の社会的な基盤となり、そして今後もさらに拡大することを目指す企業の50%が外国(韓国)資本であるという点に懸念をする声もある。
昨今の政治的な日韓関係の悪化に代表されるように、さらには、そもそもこうした社会的なインフラを担うプラットフォーム事業を、国外の資本によって支配された場合に、日本の情報インフラとしてのリスクをどう見るかという観点だ。
このように考えると「ヤフーとLINEの経営統合」は、両者の経営上の都合にとどまらず、「日本のITプラットフォーマー」という事業にとっての分水嶺といっても過言でなさそうだ。
もちろん、日本に閉じたサービスで全てを固めることが素晴らしいことかと問われれば、そうともいえず、かつてのフィーチャーフォーンのようにガラパゴス化していいこと何一つないと考えるのが筆者の立場だが、少なくとも東西から攻め込みつつある巨大IT企業勢力に対し、バランスを取っていく存在としての意味もあるだろう。
一方、インターネットを一つの文明として考えるなら、すでに「国」という枠組みのなかで考えていること自体も古いなりつつあるかもしれない。仮にそうだとしても、東西に続く第三の基軸となる企業連合が登場し、ユーザーにとってのよりよい選択肢が増えることは、市場競争を促進し、技術力やサービス品質の向上を促すことになるという意味も大きいだろう。