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400Gbpsの長距離回線が世界で初めて実用化、東京 - 大阪間の学術ネット
日米間 416.3Gbpsの実験も
2019年12月10日 10:30
大学共同利用機関法人情報・システム研究機構国立情報学研究所(NII)は、学術情報ネットワーク「SINET5」の東京―大阪間に、長距離伝送では世界最高水準となる400Gbps回線を構築し、12月9日から運用を開始する。
また、100Gbpsの国際回線を5本用いて、日米間で416.3Gbpsの転送速度を記録したことも発表した。
国際回線も100Gbps化実現、遅延や障害対策も
学術情報ネットワーク「SINET 5」は、日本全国の大学や研究機関などが利用するために構築された学術情報基盤であり、国立情報学研究所が構築および運用を行っている。
SINETは、「Science Information NETwork」の略称。「大学実験施設などの共同利用」、「各研究分野での連携力強化」、「世界各国との国際連携」、「学術情報の発信やビッグデータの共有」、「大学教育の質的向上」、「地方創生や地方大学の知識集約型拠点化・産学連携のための基盤」といった用途で利用されている。
国内47都道府県を100Gbpsで接続するとともに、欧州、米国、アジアの国際回線も100Gbps化を実現。国内の各ノード間をメッシュ状で結んでいることから、各ノードを最短経路で接続して、遅延を最小化。
さらに障害時には即時に経路を切り替える堅牢性や、両端のノードの設定だけで新たなサービスを導入できるといった柔軟性も兼ね備えている。
現在、全国86のすべての国立大学をはじめ、公立大学、私立大学、短期大学、高等専門学校、大学共同利用機関、独立行政法人など、923の大学および研究機関などが利用している。
世界初、長距離での400Gbps回線実現で安定した通信が可能に
今回の東京―大阪間への400Gbps回線の構築は、世界初となる長距離での400Gbps回線の実用化とみられている。
東京―大阪間に、コアが従来よりも大きく、伝搬で発生する信号の歪みを抑制するコア低損失大口径ファイバーケーブルを敷設。また信号強度と位相情報の組み合わせによって、一度に多くの情報を転送することができる最先端の高度デジタルコヒーレント光伝送装置を利用して、光ファイバー総距離で600km以上の回線を新たに構築し、通信容量を増強。大容量の長距離伝送を実現した。
国立情報学研究所の漆谷重雄副所長は、「大学および研究機関が集中する関東エリアと関西エリアでのデータ需要増が通信容量を圧迫している状況を解決するために増強した。
大容量のデータ通信による回線占有などの懸念がなくなり、安定した通信が確保されるだけでなく、大学間連携や大型研究プロジェクトなどにおいて、さらなるデータ増や新規の超大容量データ転送にも、対応可能な基盤が整うことになる。関東エリアと関西エリアの通信において、品質が劣化する原因となる通信の混雑状況をなくし、安定した通信を可能にすることができる」などとしている。
研究機関などにおける災害時のデータバックアップ、大型研究プロジェクトによる大規模データ転送、フルスペック8K非圧縮映像を活用した医療分野での研究利用などを想定している。
「100Mbpsの一般的なインターネット回線では、50GBのブレーレイディスクのダウンロードに約1時間かかるが、400Gbps回線では約1秒でダウンロードできる。144Gbps以上の帯域が必要とされるフルスペック8K非圧縮映像を、リアルタイムで利用でき、画像を見ながら遠隔地のロボットアームを操作し、手術を補助するといった使い方も行える」(国立情報学研究所アーキテクチャ科学研究系准教授の栗本崇氏)としている。
日本国内では、新たな大型実験設備が稼働するなど、日本はアジアの研究開発拠点としての役割を担っているほか、海外に実験設備があるプロジェクトにおいても、日本をデータミラーサイトとして活用する例が出ている。
国際回線の100Gbpsと東京―関西間の400Gbps化により、大規模データへの国内外の研究者のアクセス環境がさらに向上することから、日本の国際連携研究力の強化につながるとした。
大容量データ転送や災害時にも対応で高まる評価
現在、SINET5では、大型実験設備やスーパーコンピュータ、観測器などを接続しているほか、国際施設とも接続。昨今では商用クラウドサービスとの接続利用も拡大している。
「理化学研究所や産総研などの研究機関や大学情報基盤センターなどが保有するスーパーコンピュータの利用における大容量データ転送の活発化にも対応できる。インターネットに加えて、セキュアなVPNサービス、機動的に通信環境を設定するVPNサービスのほか、昨年からはセキュアな環境で利用できるモバイルサービスを提供している。
また、SINETに直結したセキュアな25社の商用サービスを、198の加入機関が利用できるようになっている。さらに、42国立大学46病院の災害時用データをL2VPNでセキュアにバックアップしたり、大学病院の医療画像データを、SINETを介して、大量、高速、セキュアに収集し、AI技術の活用により、高精度な医療画像データの解析技術や診断技術を開発したりといった点にも貢献している」(NIIの漆谷副所長)という。
2016年4月の熊本地震、2016年8月の北海道豪雨、2018年7月の西日本豪雨、2018年9月の北海道胆振東部地震では、いずれも被災によって光ファイバーが切断したが、SINET 5は、瞬時に経路を切り替えて、安定した運用を継続させており、災害時にも有効な仕組みとしての評価も高まっている。
2022年には日本国内が400Gbps回線で結ばれる?
一方、100Gbpsの国際回線を5本用いて、日米間で416.3Gbpsの転送速度を記録したことも発表した。
NIIが開発したファイル転送プロトコル「MMCFTP」を用いて、東京とデンバー間に設置した1組のサーバーを接続。ファイル転送実験を行った。5回線を利用して、96TBのデータを東京からデンバーに7回転送し、30分強で転送が完了したという。
MMCFTPは、「Massively Multi-Connection File Transfer Protocolの略称で、従来のファイル転送プロトコルが1本あるいは、少数本の仮想通信路を使うのに対して、多くの仮想通信路を使うファイル転送方式。
多くの仮想通信路を使用することで、CPUのマルチコアを有効活用し、今回の実験では64コア中40コアを使用。遠距離回線により、多くの仮想通信路を配分し、回線ごとのトラフィックを平準化し、距離の異なる複数回線を有効利用するという。
「実運用のネットワークを使った実験であり、ほかのデータが流れているなかで行った。実用的という点でも、意味を持った大きな成果だといえる」(NIIの漆谷副所長)とした。
なお、SINET5は、2021年度まで運用を行う一方、2022年度からは、次期プラットフォームを構築する予定であり、日本国内を400Gbps回線で結ぶ計画である。
2021年~2022年頃の共用開始を目指している、兵庫県神戸市の理化学研究所のスーパーコンピュータ「富岳」による利用拡大にも対応することができそうだ。