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早稲田・慶應の大学図書館、和書の電子化を推進するプロジェクト。紀伊國屋書店・出版社らと共同で

 早稲田大学図書館と慶應義塾大学メディアセンターは、紀伊國屋書店と共同で、岩波書店、講談社、光文社、裳華房、日本評論社が保有するコンテンツの電子書籍を貸し出す実験的プロジェクトを開始した。10月1日から約1年半の期間限定で、各出版社が合計で約1200点の電子書籍を提供する。

 このプロジェクトは、2021年5月に両大学が立ち上げた「早慶和書電子化推進コンソーシアム」が進める。同コンソーシアムは、大学図書館の要望を出版社に伝え、両者にとってプラスとなることを目指している。

 大学図書館で扱う電子書籍の課題として、和書よりも洋書が圧倒的に多いということが挙げられる。具体的には、現在、日本国内の大学図書館で利用できる和書の電子書籍は12万点だ。これに対して洋書は195万点にアクセスできるため、大学で利用できる電子書籍は洋書の方が圧倒的に多い。

 また、学術機関向けの専門性が高いコンテンツは、電子化されるまで一定の期間がかかることも課題として挙げている。

 このような状況の中、和書の電子書籍を増やす理由の1つとして、コロナ禍により大学図書館への来館や蔵書の利用ができなくなったことを挙げている。

 そのほかにも、和書の電子書籍では、1)大学図書館が購入可能な和書の電子書籍タイトルが少ない、2)冊子体と電子書籍の同時出版がなされないケースが多い、3)大学図書館での利用時の条件の制限や使いにくさ(同時アクセス数の制限、ダウンロード不可など)、4)電子書籍を大学図書館の検索システムで発見するために必要なデータの精度や質の向上が不十分、5)購読モデルの選択肢が限られている(大学の要望に合ったコンテンツのサブスクリプション、利用実績に基づいたタイトル購入等の選択肢がない)――といった課題があるという。

 今回のプロジェクトで提供される約1200点の電子書籍のうち半数は、これまでは個人向けのみの提供で、図書館向けには提供されていなかったタイトルだという。

 なお、同コンソーシアムは、これまでにも図書館システムの共同運用などを行ってきた実績がある。

 2019年9月には図書館運用の共同化を実施。両大学の蔵書が検索できるとともに、論文や記事、ウェブ上で公開されている学術情報も横断検索ができるようになった。2021年5月に同コンソーシアムを設立したのち、2022年4月からは、学術和書の電子図書館サービスを提供する紀伊國屋書店をパートナーとして、複数の出版社と電子書籍における課題や要望を共有しながら調整を進め、今回のプロジェクトにつながった。

 コンソーシアムでは、「将来的な日本全体の和書の電子化推進につながるとよいと考えている」として、参加する出版社と大学の拡大を進めるとしている。