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AWS、一般提供開始した生成AIサービス「Amazon Q」、および「Bedrock」と今後の戦略を説明
選択肢の豊富さ、最適化手段の多様さで、顧客を「さまざまな角度から支援」
2024年5月20日 06:45
アマゾン ウェブ サービス ジャパン(AWSジャパン)は5月16日、同社の生成AI戦略について発表を行い、2024年4月30日に米国での一般提供開始を発表した生成AIアシスタント「Amazon Q」について、国内で初めて説明した。
現時点でAmazon Qの日本語版は提供されていないが、同社サービス&テクノロジー事業統括本部の小林正人氏(技術本部長)は、「AWSはお客様の要望に基づいてサービスを開発しており、Amazon Qに対しても、日本語対応の要望を多くもらっている。現時点では時期が明確にできない」と述べている。
法人のさまざまな用途に対応するサービス構成
Amazon Qは、「Amazon Q Business」、「Amazon Q in QuickSight」、「Amazon Q Developer」、「Amazon Q Data Integration in AWS Glue」などで構成されている。
2種類のサブスクで提供されるAIアシスタント
「Amazon Q Business」
Amazon Q Businessは、企業システム内のデータや情報に基づいてタスクを完了する生成AIアシスタントであり、さまざまなドキュメントやシステム、アプリケーションを通じて蓄積された膨大なデータから知見を得て、ユーザーからの問い合わせに最適な回答を行うという。「問い合わせに対して、社内の規定に紐づく適切な回答が行えるようにする。40以上のビジネスツールと簡単に接続できるコネクタを用意しているほか、セキュリティとプライバシーを念頭に構成しており、既存のIDやアクセス権限を統合しながら、個々のユーザーにあわせて、パーソナライズ化した応答が可能になっている」という。組織や職責などにあわせて、回答可能な範囲を設定するといった制御もできる。
月額3ドルで利用できる「Amazon Q Business Lite」と、月額20ドルで利用可能な「Amazon Q Business Pro」の2つのサブスクリプションモデルで構成され、現在、米国東部(バージニア北部)、米国西部(オレゴン)のリージョンで一般利用を開始している。
また、プログラミングの経験がなくても、組織のデータに基づいた生成AIを組み込んだアプリケーションを開発できる「Amazon Q Apps」を、プレビューとして提供を開始している。「自然言語による入力や、Amazon Q Businessとの会話の結果から、必要なタスクを実行し、開発できるのが特徴であり、コーディングが不要となる。開発したアプリケーションは、個人で利用するだけでなく、Amazon Q Apps Libraryに登録すれば社内で共有ができる」(小林氏)という。
AIによる総合BIサービス
「Amazon Q in QuickSight」
「Amazon Q in QuickSight」は、統合BIサービスであり、Amazon Qを連携させることで、「生成BI」アシスタントとしての機能が利用できる。自然言語により、ダッシュボード作成を数分で実現するという。例えば、「先月の地域ごとの売上げを、棒グラフで表示してください」と入力するだけで、求めるデータをグラフ化して表示する。また、「先月、売上げが伸びた理由はなにか」といった問い合わせにも回答できる。
可視性が高いダッシュボードを作成したり、複雑な集計が必要なデータでも専門知識なしに利用できたりすることで、分析者の作業を加速し、データに基づくビジネス判断を支援することが可能になるという。Amazon Q inQuickSightは、米国東部、米国西部、欧州(アイルランド)リージョンで一般利用を開始している。
開発者向け生成AIアシスタント
「Amazon Q Developer」
「Amazon Q Developer」は、ソフトウェア開発のライフサイクル全体にわたる開発者体験を一新する生成AIアシスタントと位置づけている。高精度なコーディングレコメンド機能や高度なセキュリティ脆弱性スキャンおよび修正機能を搭載。さらに、クラウド環境のトラブルシュートやインスタンス選択、 SQL クエリの最適化などを実行でき、AWSの請求情報や傾向についての解析にも対応していることから、AWS 環境を最適化することができるという。
「開発者は、コードを書く時間以外にも、設計方針に関する資料を調べたり、周辺システムとの連携方法の確認、古いバージョンのプログラム変更のための調査を行ったりといったことに時間が割かれている。これらの作業の効率化や時間削減に貢献し、価値の高い仕事に集中することを支援する生成AIアシスタントである」と、小林氏は同サービスを位置づけた。無料で利用できる「Amazon Q Developer Free Tier」と、月額19ドルで利用できる「Amazon Q Developer Pro Tier」が用意されている。
生成AIによるデータ統合パイプライン構築環境
「Amazon Q Data Integration in AWS Glue」
「Amazon Q Data Integration in AWS Glue」は、サーバーレスデータ統合サービスであるAWS Glueで実行できるデータ統合パイプラインを、生成AIを活用することで、自然言語で、容易に構築することができるサービスだ。Amazon Qとの会話を通じて、ジョブの作成やトラブルシュート、AWS Glueやデータ統合に関する知見を得ることが可能になるという。
「複雑なジョブについても自然言語で構築できる。20を超えるデータソースに接続するコネクタを提供し、カスタムJDBCやSparkの接続もサポートしている」と、小林氏はその特徴を説明した。
「Amazon Bedrock」は対応モデルを増やし、プロトタイピングなど新機能も
他方、AWSでは、基盤モデルをAPI経由で提供する「Amazon Bedrock」の機能拡張も、4月23日に米国で発表している。生成AIを組み込んだアプリケーションやシステムを容易に開発し、展開できるサービスであり、幅広い基盤モデルを選択できるのが特徴だ。
「Amazon Bedrockを通じて、必要なモデルを柔軟に選択でき、その選択肢を次々と広げている。約半年間で利用できる基盤モデルは2倍に増えている。選択できるということは、将来、より最適なモデルが登場したときに、乗り換えられる環境があることにつながる。基盤モデルを変えても、Amazon Bedrockの統一されたAPIにより、アプリケーションの書き換えは最小限に抑えることができる」と、小林氏は特徴を説明した。
Amazon Titanでの拡張のほか、Anthropic、Cohere、Metaの基盤モデルへの対応を発表している。
新たな機能として、Amazon Bedrockの主要な機能を活用した生成AIアプリケーションのプロトタイピング環境を実現する「Amazon Bedrock Studio」のプレビューを英語版で提供開始したほか、カスタマイズされたモデルをAmazon Bedrockにインポートし、生成AIアプリケーションでの活用を容易にするAmazon Bedrockカスタムモデルインポート機能のプレビューも開始。Amazon Bedrockのモデル評価機能も、一般利用できるようになった。
また、フルマネージドなRAG機能である「Knowledge bases for Amazon Bedrock」や、複数の作業ステップが必要なタスクを実行させる生成AIエージェントの「Agents for Amazon Bedrock」、組織のユースケースと責任あるAIの利用ポリシーに基づいて、生成Iアプリケーションにセーフティ機能を追加する「Guardrails for Amazon Bedrock」を東京リージョンで対応すると発表した。
「生成AIを、もっとフィットした状態で利用したい」という声に応える
今回の説明会では、AWSの生成AIの基本戦略についても改めて説明を行った。
小林氏は、「AWSは、生成AI搭載アプリケーションが、ビジネス価値の創出につながると考えている。そのためには、ユーザーが直接利用するアプリケーションこそが大切であり、最適な基盤モデルを選択でき、それを組み込むことでより高い価値と便利さを提供できなくてはならない」と基本的な考え方を示した。続けて、「基盤モデルを利用してみたが、かゆいところに手が届いていないという声が多い。一般的な知識については公開されているモデルを活用できるが、企業特有のルールを反映したり、業務特有の価値判断を行ったりする場合には、ユーザー自身が持っているデータを活用し、アプリケーションに搭載されたAIが企業固有の業務やルール、業界固有の状況を知っている必要がある。踏み込んだ高度化が必要であり、そのためには、データが必要である。生成AIを、もっとフィットした状態で利用したいという企業が増えている」と述べ、ユーザーの利用環境への最適化を重視する姿勢を示した。
例として、AWS自らも、Amazon.comのカスタマーレビュー、買い物アドバイザーのRufus、毎週数10億件のやりとりを処理しているAlexa、海外で展開している処方薬の提供をサポートするAmazon Pharmacyなどに生成AIを活用し、データによって最適化したサービスを提供している、と小林氏は説明した。
AWSでは、データに基づいた生成AIを活用できるように、検索拡張生成(RAG)、ファインチューニング、継続的な事前トレーニングの3つの手法に対して、容易にアプローチできるようにサービスの拡充を進めているという。また、カスタマイズした生成AIの開発や、生成AIを搭載したアプリケーションの開発のために必要なデータ関連サービスを提供し、機能拡張を行っている。「どの手法が最適であるかどうかは、目的によって変わってくる。AWSは、ユーザーの目的にあわせて、さまざまな選択肢を用意することを重視している」(小林氏)。
AWSでは、3つの階層から生成AIにアプローチしているという。
1つ目は、基盤モデルを一から作りたいというユーザーに対するサービス群として、基盤モデルのトレーニングと推論を行うためのインフラの提供だ。ここでは、機械学習モデルの構築などをサポートするSageMakerのほか、AIアクセラレータのTrainium、AWSインスタンスのEC2 Capacity Blocksなどがある。
2つ目は、既存モデルをカスタマイズしたり、基盤モデルを組み込んだアプリケーション開発を支援したりするツール群の提供であり、Amazon Bedrockにより、それを実現している。
3つ目は、生成AIを組み込んだ構築済みのアプリケーションを提供するもので、AWSでは、Amazon Qが、この領域を担うことになる。
また、生成AIの活用を支援するために、AWSが数千社の顧客との対話を通じて得られたAI導入を成功させるためのベストプラクティスを活用した「戦略フレームワーク」を提供している。加えて、AIによって顧客プロダクトの価値強化の計画を策定し、ユースケースの発見を支援する「ワークショップ」の開催、生成AIを組み込んだアプリケーションの発見、調達、販売する「AWS Marketplace」を提供していることも紹介。「お客様の生成AIへのチャレンジを、さまざまな角度から支援している」と、小林氏は締めくくった。