Twitterなどで加熱するイラン抗議行動、米国の民主化戦略との関係も


 イラン大統領選挙のやり直しを求める抗議行動は、インターネットにも大きな広がりを見せている。イランからの利用者急増を受けて、米ネット企業もペルシャ語対応を急遽強化し始め、イランの民主化をもくろむ米国務省もこれに関係していることを認めた。

 イラン大統領選挙は、6月12日にとりあえず平和裏に完了したが、アハマディネジャド現大統領が当選した選挙結果を巡って、翌13日には落選したムサビ首相支持派による抗議行動が若者を中心に起こり始めた。この頃から、Twitterにはイランからのメッセージが溢れ、YouTubeにも動画が多数投稿され始めた。

 特に大きな注目を集めたのは15日、Twitterが予定していたインフラのアップグレード作業を延期すると発表したことだ。Twitterは公式ブログの中で、「Twitterは、現在イランにおいて重要なコミュニケーションツールの役割を果たしている」とコメントし、メンテナンスの時間を影響が最小限となるよう、イラン時間の深夜に変更した。

 この決定の背後には、米国国務省による要請があると報道された。Twitterは即座に「国務省は我々の意思決定プロセスに影響を与えることはない」とコメントしたが、国務省は定例記者会見で担当者がTwitterと接触を持ったことを認めた。ただし、要請を行ったわけではなく、単に一般的な事柄について助言を行っただけだとしている。

 18日には、Googleの機械翻訳サービス「Google Translate」のペルシャ語版が急遽公開された。Googleによれば、ペルシャ語版は公開品質には達していなかったが、「ペルシャ語版を発表することは、イランで進行中の出来事を考えると、とりわけ重要なことだと感じている」とコメント。さらにFacebookも18日、ユーザーインターフェイスのペルシャ語版を急遽発表。これには400人を超えるペルシャ語ボランティアが参加し、翻訳作業が進められたとしている。

 イランの当局者も、この状況を黙って見ているだけというわけでもないようだ。セキュリティ企業の米Arbor Network Securityは、イラン政府がインターネットトラフィックを一時停止させるなどの措置を取った可能性が高いと指摘。抗議行動が活発化したイラン時間の13日午後6時頃、イランはインターネットへの接続をほぼ切断したが、しかしその後徐々にトラフィックは回復し、16日までには平常時の70%程度のトラフィックにまで回復したという観測結果を挙げている。

 また、多数の動画が投稿されているYouTubeでも、イランからのトラフィックレベルの低下を観測したという。YouTubeでは、イランからのトラフィックレベルは通常の10%前後にまで落ち込んでいるが、それでもYouTubeに投稿されたデモや暴力などの生々しい映像は世界各地のメディアに取り上げられるなど、世論に大きな影響を持つに至った。

 イランがなぜトラフィックを完全に遮断しないのか、その理由についてArbor Network Securityは、「ミャンマーとは異なり、イランは外の世界との商業的・技術的な関係を持っている。言い換えれば、政府はビジネスに影響を与えること無しにインターネットを切断することができず、切断すればさらなる社会的不安をもたらす可能性がある。これは、イラン政府の壊れやすい均衡状態を示しており、インターネットが民主的変化に影響を与えるテストケースになると言うことだ」との見解を示している。

 さらに、イラン当局からの追及を免れるための、検閲回避ソフトの利用も急増しているようだ。身元を隠すために代表的な仕組みを提供している「Tor」は、13日以降イランからのものと思われるIPアドレスの利用者数が10倍近くにまではね上がった様子を伝えている。

 米国務省のケリー報道官は16日の記者会見の中で、国務省がTwitterのようなソーシャルメディアを使用し、民主的価値観を持つコミュニティの発展を後押ししているとの趣旨のコメントを行った。そしてその一環として、Twitterに助言したことを認めている。イラン国内のデモが抗議行動の最前線であるとすれば、インターネットは第2の前線になったということができるかもしれない。


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(青木 大我 taiga@scientist.com)

2009/6/22 11:42