国公私立大学図書館が団結、電子ジャーナル購入で大規模コンソーシアム設立
国公私立大学図書館と国立情報学研究所は10月13日、従来の電子ジャーナル・コンソーシアムの連携を強化、新たな組織を立ち上げるための協定を締結すると発表した。協定をもとに、国公立大学の500近い加盟図書館を持つ大規模コンソーシアム形成に向けて活動を開始。大学の研究活動で必要とされる電子ジャーナルを安定的に提供できる体制を整える。
左から東京大学附属図書館長 古田元夫氏、慶應義塾大学メディアセンター所長 田村俊作氏、国立情報学研究所長 坂内正夫氏、横浜市立大学学術情報センター長 中西新太郎氏 |
●寡占市場を背景に毎年値上げする大手出版社に統一交渉で対抗
学術情報誌の中で現在中心となるものはインターネットを介して頒布される電子ジャーナルとなるが、こうしたアカデミック向けの電子ジャーナルは大手版元の寡占市場となっており、自然科学分野の学術誌では1995年から毎年平均8%の値上げ率となっている。
もっとも値上がり率の高い化学の学術誌では、1995年に1000ドルだったものが現在は3800ドル程度まで値上げされているという。
文部科学省の調査によると、大学図書館における電子ジャーナルの利用可能な種類数は、平成16年度において約123万種類であったものが、平成20年度には約247万種類と約124万種類(100.8%)の増加となっており、研究活動には欠かせないものとなっているが、度重なる値上げにより、すでに大学の図書購入予算で賄うことが難しいところまできている。
学術情報基盤としての電子ジャーナル。現在では研究に必須のものとなっている | 大学図書館の電子ジャーナル・コンソーシアム。これまでは国立大学と公私立大学で別組織を作っていた | 電子ジャーナルの総利用可能種類数と平均利用可能種類数。2004年から2008年までで2倍に増加 |
寡占市場を背景に、研究者には必読の学術誌を武器にして値上げを重ねるエルゼビア(Elsevier)社をはじめとした海外の大手学術誌出版社に対抗し得る価格交渉力を得るため、日本では2000年に国立大学の電子ジャーナル・タスクフォース「JANUL」が設立され、現在国立大学の図書館協会会員館91館が参加、34の出版社と交渉にあたっている。
また、私立大学は2003年、私立大学図書館コンソーシアムを設立。現在は公私立大学の図書館375館まで参加館が増えた電子ジャーナル・コンソーシアム「PULC」として35の出版社と交渉にあたっている。
しかし、こうした努力をしても寡占市場であることや研究者としては必読の学術誌は外せないことから、年々値上がりしているのが現状だ。
横浜市市立大学学術センター長の中西新太郎氏は「われわれのような公立大学は規模の小さいところが多く、予算の規模も小さい。現実に、書籍も紙媒体の資料が1冊も買えないという状態になっても、まだ電子学術情報の基盤を満たすことができないという状況に追い込まれている」と切実な現状を訴えた。
パッケージ販売されている電子ジャーナルの価格は、「パッケージの内容によりさまざまで、年間百数十万円程度から、高いものでは2億円といったものまである。大学ごとにどういうパッケージを揃えることができるかは大学の予算による」(慶應義塾大学メディアセンター所長 田村俊作氏)という。
現在、電子ジャーナルの購読費用として「(日本の大学図書館の)トータルで2百数十億は払っているのではないか」(横浜市立大学学術情報センター長 中西新太郎氏)。
前出の中西氏は、「情報の購入予算が1億5千万程度のところで、新しく1千万単位のものを購入しようとすれば、予算組みの根本から見直す必要がある」と、研究者から新規購読の要望があっても簡単には応えられないほど高額になっていると説明した。
学術雑誌の値上がり状況 | 電子ジャーナルにかかる総経費と平均経費 | コンソーシアム連携強化による期待される効果 |
●別組織だった国立大学と公私立大学のコンソーシアムがひとつに
こうした背景から、これまで別組織であった国立大学の電子ジャーナル・タスクフォース「JANUL」と公私立大学の「PULC」がタッグを組み、より大きな交渉力を得ようというのが今回の協定のメインの趣旨となる。
両組織が手を結び、1つにまとまることで、参加図書館数は466館となるが、米国のコンソーシアムLyrasis(参加機関約2,000)に次ぐ規模となり、世界でも有数の大規模コンソーシアムとなる。
新たな電子ジャーナルコンソーシアムの役割としては、大手出版社との統一的な契約交渉が第一となるが、国立情報学研究所で手掛けてきた電子ジャーナルバックアップファイルの整備や利用促進支援などにおいても今後活動していく予定だ。
関連情報
(工藤 ひろえ)
2010/10/13 15:54
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