被災地で役立つ書籍・記事の無償ウェブ公開を推進、出版業界団体が呼び掛け


 社団法人日本書籍出版協会(書協)は、東日本大震災の被災地支援の一環として、被災地で役立つ書籍や記事のウェブによる無償提供を推進する。協会の会員出版社に対し、医療や看護、介護、心のケア、原子力、放射能、災害復興事業などに関するコンテンツの提供を期間限定で検討してほしいと呼び掛ける文書を送付した。

医学書院、学芸出版社、岩波書店などがすでに実施

 震災発生後、著者の了解を得た上で、すでに自主的に取り組んでいた出版社もある。

医学書院の震災関連記事無料公開ページ

 医学書院では、同社発行の雑誌「病院」「公衆衛生」「助産雑誌」などから、震災関連記事をPDFで公開している。また、「救急マニュアル 第3版」「医学書院医学大辞典 第2版」などの書籍の内容をウェブで閲覧できる「今日の診療 WEB版 法人サービス」を医療従事者を対象に4月30日まで無償提供中だ。

 学芸出版社では、震災後の都市計画やまちづくりなどに関する書籍を公開。岩波書店では、「育育児典CD-ROM版」病気編を6月末まで公開するほか、雑誌「世界」「科学」の中から、原子力発電に関する一部論文を公開している。講談社でも、新書「ブルーバックス」シリーズで2001年に発行された書籍「日本の原子力施設全データ」の一部を公開している。

 医学書院の金原優代表取締役社長が書協の副理事長を務めていることもあり、今回、会員出版社に対して広く呼び掛けることにした。同様の取り組みは、一般社団法人日本医書出版協会、社団法人自然科学書協会でもすでに行っているという。

「被災地への公衆送信権の時限的制限」容認の姿勢も

 書協ではまた、全国の図書館が出版物の複製物などをインターネットなどを使って被災地の施設に送信するといった活動について、会員出版社に対して理解を求めている。

 これは、社団法人日本図書館協会から書協をはじめとする権利者団体などに対して協力依頼があったことを受けての対応だ。このような行為は本来、著作権者および出版権者の許諾が必要だという。しかし書協では事態の緊急性を考慮し、趣旨を理解した旨を日本図書館協会に対して回答するとともに、会員出版社に対して書協側から理解と協力を呼び掛けることにした。

 日本図書館協会によると、被災地の救援や生活基盤の復旧のために必要な資料や情報を提供したり、読書のニーズに応えることは図書館が担うべき役割でもあるが、被災地の図書館ではこれが困難だという。そこで全国の図書館が、医療や法律、行政に関する情報のコピーを、被災地の図書館や病院などの公共施設、救援活動を行っている団体や個人などにメールやファックスで送信することを容認してほしいとしている。

 さらに、子供への絵本の読み聞かせや高齢者向けのお話し会の実施および中継、それらを録画・録音したものの配信、絵本の版面の公衆送信なども挙げている。特に読み聞かせは子供の心的外傷性後ストレス障害の予防に役立つとされていることからも重要だと訴え、「被災地への公衆送信権の時限的制限」を容認する特別な配慮を権利者側に求めたかたちだ。

 なお、こうした特別措置は、東日本大震災の被災により資料や情報の入手が困難な期間・地域に限定するものとし、復興がある程度なされた段階で複製物などは廃棄するとしている。

被災地へ本を寄贈、すでに3万冊、近く雑誌8000冊も

 書協など出版業界団体による東日本大震災に対する取り組みとしては、「<大震災>出版対策本部」がある。

<大震災>出版対策本部のウェブサイト

 これは、書協、社団法人日本雑誌協会(雑協)、財団法人日本出版クラブの3団体が3月23日付で設置したもの。併せて、社団法人日本出版取次協会、日本書店商業組合連合会も参加する「<大震災>出版対策連絡協議会」も立ち上げ、支援活動などを推進している。

 例えば、被災地への「図書寄贈プロジェクト」が日本出版クラブを中心として動いており、すでに3月24日、段ボール箱約600箱・約3万冊の図書を発送したという。雑協でも避難所に雑誌を寄贈するとしており、4月6日には約8000冊の雑誌をトラックで東京から送り出す予定。


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(永沢 茂)

2011/4/5 11:02