被災地企業の名物をネット通販する「復興デパートメント」発足


 東日本大震災からの復興を目指し、被災地の中小企業によるインターネット通販への参入を支援するためのプロジェクト「復興デパートメント」が12月14日、発足した。

 オンラインショップ運営実務の一部代行、あるいは習得支援などでインターネット通販参入のハードルを下げ、被災者の自立的復興を助けるのが狙いだ。発足の14日には、現地の生産者、被災者をサポートするNPO、大手企業など、プロジェクト参加団体による記者会見兼試食会が都内で開催された。

NPOが被災企業のIT面をサポート、「Yahoo!ショッピング」で生産物を全国販売

 復興デパートメントは、オープン志向の復興支援プロジェクト。東日本大震災からの復興を目指す被災企業や生産者、さらには復興を支援したい企業など、さまざまな立場の個人ないし団体の参加を呼びかけている。

 この中で、復興の支援を目的に「復興デパートメントパートナー」として参加しているメンバーは発足時点で15団体。ソフトバンクモバイル株式会社、ふんばろう東日本支援プロジェクト(ボランティア団体)、株式会社インテリジェンス(人材サービス)、東急不動産株式会社などが名前を連ねている。また、ヤフー株式会社がプロジェクトの事務局を担当する。

発表会には「復興デパートメント」に出店する企業や協力企業・団体が出席、それぞれ支援や現地の状況を語った「復興デパートメント」代表の喜多埜裕明氏(ヤフー株式会社取締役COO)

 14日の記者会見では、プロジェクトの代表を務める喜多埜裕明氏(ヤフー株式会社取締役COO)が設立趣旨説明を行った。「ヤフーではこれまでも寄付の受付などをしていたが、(震災から約9カ月が経過した)これからのフェーズでは、募金などの直接的な支援だけでなく、(ITの専門家である)我々だからこそできる支援もあるのではないか」と発想の原点を説明する。

 復興デパートメントでは、ITとインターネットを利活用することで、被災者が自立的かつ自発的に生産物販売を行える体制作りを目指す。東北地方内で生産し、その地域内での消費にとどまっていた製品を全国通販することでビジネス規模が拡大すれば、現地での雇用にも繋がる。プロジェクトの特徴は、この「早期のビジネス化」を、パートナー団体をはじめとした各分野の専門家がフォローしていくことだと喜多埜氏は解説する。

 とはいえ、商品や農作物の生産現場では、すべての人々がITに習熟しているわけではない。通販サイトの開設にも一定のスキルを要する。この課題の対処として、復興デパートメントの「支部」を設ける。生産者のとりまとめやオンラインストアでの販売を支部が代行することで、ITに詳しくない生産者でも容易にネット通販へ参入することができる。

 支部の運営は、被災地で活動するNPO法人がおもに担当する。一方、ITに詳しい生産者が、支部を経ずに直接出店するケースも想定されている。「これまで実店舗を運営していた方の中には、地震や津波で建物に直接の被害を受け、その復旧に数千万円かかるという人もいる。そういった場所は周辺の住民自体が減り、売り先も少ない。しかし生産のノウハウが残っていれば(実店舗を必要とせず低コストで始められる)このシステムは有効ではないか。」(喜多埜氏)


復興デパートメントの活動内容ITに詳しいNPO法人がプロジェクトの“支部”として活動、より多くの生産者がネット通販に参入できるようにする

 通販用ウェブサイトの構築にあたっては、基本的に「Yahoo!ショッピング」のシステムをそのまま利用して、Yahoo!ショッピングへ出店する格好となる。なお、Yahoo!ショッピングでは現在、被災地の新規出店者を対象としてキャンペーンが行われており、初期費用および月額システム手数料の無料化、売上ロイヤリティの低減(一律3%)が行われている。このため、被災地の新規出店者は初期費用ゼロで通販ビジネスを開始することができる。

 また、プロジェクト発足にあたって、同名のウェブサイト「復興デパートメント」を開設。ポータルサイト「Yahoo! JAPAN」のTOPページなどとも連携し、各ストアへの顧客誘導を図る。このほか、YouTube上でCM動画配信、FacebookやTwitterなどの各種ソーシャルメディアも活用して、集客を行っていく。

 なお、発足時点での支部数は5カ所。これらの支部を通じ11の生産者が商品販売を行っている。単独出店者なども含めると、約50の生産者が実際のプロジェクト参加を申し込んでいるという。今後は生産者だけでなく、支部の数自体も増やしていきたいとしている。

 このほか、復興デパートメントの各支部では、人材教育も行っていく。プロジェクトに参加する人材サービス会社の協力も仰ぎ、生産者みずから通販サイトを運営できるよう、座学、実地研修の両面でサポートを実施する予定という。

 最後に喜多埜氏は「生産者による直売は、ITに詳しい方を中心にすでに始まっている。しかし今回のプロジェクトによって皆が助け合い、そういった事例を1つでも多く作りたいというのが、参加者共通の願いでもある。一丸となって頑張っていきたい」と、その決意を語っている。


人材教育も視野にプロジェクトの長期ビジョン


生産者、パートナーがプロジェクトへの期待を語る

 記者会見では、復興デパートメントに参加する生産者、支部の実務を担当するNPOやパートナー団体の関係者が列席。プロジェクトへの期待感を一言ずつ語った。

記者会見に出席した生産者とNPOの皆さん
「最初の3カ月は立ち上がることができなかった」と語った高砂長寿味噌本舗の高砂光延社長

 生産者の1人として出席した株式会社高砂長寿味噌本舗の高砂光延氏は「東松島の高台にある味噌工場は倒壊を免れたが、石巻にある醤油工場がほぼ全壊し、最初の3カ月はまったく立ち上がることができなかった。ただ、30人の社員もおり、廃業するわけにはいかない。皆でもう1度やりなおそうと頑張っている。今回は(復興デパートメントという)チャンスをいただいたので、我々の味噌醤油を全国に広められるよう頑張っていきたい」と述べた。

 復興デパートメントで支部業務を担当するNPO法人の1つ「オンザロード」の魚谷浩氏は「4月から災害ボランティアとして石巻で活動を開始して以来、出会った人々から地元の良いものをたくさん教えていただいた。今回販売するものはどれもおいしいものばかりだが、やはり我々が伝える努力をしなければ、伝わらない。『買って復興、食べて復興、全力復興』を胸に頑張る」と語った。

 パートナー団体の1つである「ふんばろう東日本支援プロジェクト」代表の西條剛央氏は「被災地の人々は建物が流されてしまってお金がない。そのため、被災地の人が被災地の人にモノを売ろうとしても、安くせざるをえず、復興に必要なお金が回っていかない。被災地の商品を被災地外に売れることは非常に意味がある」と述べ、購買力が落ちた被災地だけから、インターネットへと販路を広げる重要性を指摘。

 「無傷の大企業が被災地にやってきたら、(ハンデを背負った)被災地の事業者は勝てない。そういう意味でも、このプロジェクトは被災企業がもっとも望んでいる支援だ」と、被災地の実情を交えながら、復興デパートメントへの期待を示した。

 芸能人や著名人も復興デパートメントへの賛同を表明しており、記者会見では泉谷しげる、箭内道彦、道場六三郎の3氏によるビデオメッセージが披露された。

 記者会見では、復興デパートメントを通じて販売される食品類の試食会も行われた。まんじゅうやせんべいといった菓子類、仙台味噌を使った味噌汁や石巻名物の焼きそば、ヨーグルト、クラムチャウダーなどに関係者が舌鼓を打っていた。


泉谷しげる氏ら、プロジェクトに賛同する著名人のビデオメッセージが上映された記者会見終了後には試食会も

販売商品の一例道場六三郎氏も愛用する高砂長寿味噌本舗の味噌を使ったみそ汁



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(森田 秀一)

2011/12/15 06:00