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NICT、量子通信を長距離化する新しい中継増幅技術の実証に成功

 独立行政法人情報通信研究機構(NICT)は13日、量子通信を長距離化する新しい中継増幅技術の実証に成功したと発表した。

 今回実証に成功した方式は、光信号の量子力学的性質を保ったまま、遠く離れた地点に大きな信号として増幅して再生する「量子増幅転送」と呼んでいるもの。盗聴不可能な暗号通信である量子暗号や、究極的な低電力・大容量通信を可能にする量子通信の実現には、光信号の量子力学的性質を保ったまま、その振幅を増幅する技術が必要だが、従来の光増幅技術では雑音の混入は原理的に避けられず、量子力学的性質を保ったまま光信号を増幅することは不可能だった。

 今回の方式では、受信側にあらかじめ大きな振幅を持つ「量子重ね合わせ状態」という特殊な光を用意しておき、その一部を分岐して光回線を介して送信者へ送り共有しておく。送信者は、この共有した光を送りたい信号と合波し、2つのビームの光子を検出して、その結果に応じて受信側で量子重ね合わせ状態を適切にフィルタリングし、信号の再生増幅を行う。

量子増幅転送の仕組み

 実験では、高純度の量子重ね合わせ状態を生成・制御することで、信号エネルギーの80%が失われる大きな損失を持つ光回線でも、無雑音のまま最大3倍まで増幅された信号を受信側で再生することに成功。受信側で用意する量子重ね合わせ状態の振幅をさらに大きくすることができれば、原理的に距離や増倍利得をいくらでも増やすことが可能で、量子暗号の長距離化や量子通信の実現に大きな突破口を与えるものだとしている。

 NICTでは今後、光集積化技術を用いて実験系をさらに小型化し、量子暗号の長距離化や量子受信機の研究開発に適用していき、最終的には量子暗号や量子コンピューター、量子通信を光インフラの上でシステム統合するインターフェイス技術の開発につなげていくとしている。

(三柳 英樹)