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NICT、量子暗号の長距離化に必要な「量子もつれ交換」を1000倍以上高速化

 独立行政法人情報通信研究機構(NICT)は20日、電気通信大学と共同で、量子情報通信ネットワークの基本操作である「量子もつれ交換」を従来技術の1000倍以上に高速化することに成功したと発表した。これにより、光ファイバーネットワーク上で、量子もつれ光子対に対する回線交換や量子暗号を長距離化するための中継実験を行うことが可能になる。

 量子もつれ光子対は、離れた2地点にある光子の間に強い結び付き(いわゆる量子もつれ相関)を持つため、通常のレーザー光では実現できない安全な通信(量子暗号)や高速の計算(量子計算)を実現できる。複数の量子もつれ光子対をネットワーク上で伝送し、必要な地点間で量子もつれ相関を自在に形成するためのプロトコルが量子もつれ交換だが、光ファイバーに適した通信波長帯における量子もつれ交換の処理速度は、これまで最大でも10秒ごとに1回程度だったため、プロトコル自体の原理実証はできても、実ネットワーク環境下の通信実験には至っていなかった。

 NICTでは、量子もつれ交換を高速化する要素技術として、2013年11月に通信波長帯超伝導光子検出器の大幅な高感度化(検出効率30%→80%)に成功。2014年12月には、光ファイバー通信波長帯において、高輝度・高純度量子もつれ光を生成できる周期分極反転ポタシウムタイタニルフォスフェート(KTiOPO4)結晶を用いた独自の高純度かつ高速の「量子もつれ光源」を開発した。

 今回、これらの要素技術を統合し、さらに2つの独立な量子もつれ光源から生成された2組の量子もつれ光子対の光子を極めて高精度で干渉させるための同期技術を確立することにより、1秒間に108回の量子もつれ交換を行う装置の開発に成功した。これは、従来の速度の1000倍以上に相当する。

 NICTでは、今回の成果により、これまでは速度が遅すぎて不可能だった光ファイバーネットワーク上での量子もつれ交換実験が可能になり、量子暗号の長距離化に向けた研究開発が大きく前進すると説明。今後も産学官の機関と連携し、量子暗号の長距離化や量子計算機のネットワーク化に向けた研究開発を進めていくとしている。

量子もつれ交換の実験装置の構成
量子もつれ交換の実験装置

(三柳 英樹)