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「とう道」の地下迷宮、都内に総延長290km~ネット社会を支える知られざるトンネル網

 東京都内の地下には、総延長290km弱に及ぶ、地図には載っていない地下トンネル網が張り巡らされている。

 といっても怪しい話ではない。東日本電信電話株式会社(NTT東日本)は、都内の局舎の間を、通信ケーブルが通るトンネル「とう道」で結んでいる。東京の地下鉄の総延長が約300km、首都高速が約320kmだというから、約290kmというのはかなりの長さだ。

 NTT東日本は11月26日、新宿の同社本社において、記者向けに電気通信設備の見学会を開催。とう道から、局舎に引き込んだケーブルを接続する配線盤、電話回線の加入者交換機、NGNの収容ルーター、さらにそれらを支える電源設備まで披露した。

「とう洞」の中

複雑に入り組んだ広大な地下ダンジョン

 とう道は漢字では「洞道」と書き、配線や配管のためのトンネルや地下構造物のことをいう。

 長くつながった地下道ということで、筆者は真っすぐな道が伸びているかのように想像していた。しかし実際には立坑や分岐などが入るため、階段を昇降したり、向きを変えたりして、複雑に入りくんだ地下ダンジョンを形成している。

 案内をしてくれたエヌ・ティ・ティ・インフラネット株式会社の濱中理平さんも「とても迷路のようです。歩いていくと、すぐにどっちに行ったらいいか分からなくなって、迷子になりやすい。作業員も工夫して、とう道名を付せん紙やテープで貼り付けたりしています。それぞれのとう道名は頭に入っているので、それを目安にします」と説明する。

 冒頭で書いた通り、東京のとう道は合計290km弱。その先は、管路という細い管が電柱や建物などにつながっている。なお、全国のとう道は合計610kmで、その約半分が東京にあることになる。

 ちなみにベテランの濱中さんにしても「東京のとう道を退職までに全制覇したいと思っていますが、まず無理でしょうね(笑)」という。

「とう道」の説明。横坑と立坑が混じって、地下ダンジョンを形成している
案内してくれたエヌ・ティ・ティ・インフラネット株式会社の濱中理平さん(設備部 アーバンデザインセンタ 東日本センタ 設備担当 課長代理)

 とう道には2種類ある。地上から掘って作る、断面の四角い「開削とう道(く形とう道)」と、地下鉄や河川の下などをシールドマシンでトンネル工事のように掘る、断面の丸い「シールドとう道(円形とう道)」だ。断面の大きさは、NTTではシールドとう道で直径5.5mが最大。濱中さんによると、このサイズは「メタルケーブルが800本以上入る大きさ。ただ、今は光ファイバーケーブルなので、そんなにサイズが必要ないんですけど」という。

 NTTの使うとう道は、NTTが単独で作ったとう道や、ほかの通信・電力会社と共同で掘削したとう道、法定の共同溝の3種類がある。共同で使う場合、中に壁を作ってほかの事業者のケーブルのところに入れないようにしているという。

 とう道を通るケーブルは、ある程度の長さのものを接続点(クロージャ)でつなげる。メタルケーブルは重いので1単位が最大250mだが、光ケーブルはそれより軽いので1~1.5km単位となっている。

 なお、とう道を通るケーブルの一部には防火繊維のカバーがかけられていた。これは、1984年の世田谷局ケーブル火災の後に付けられたものだ。ただし、今は作業に火が出ないようになっているため、実際は必須ではないという。

「開削とう道」と「シールドとう道」
「とう道」を通るケーブル。太い方がメタルケーブル、細い方が光ファイバーケーブル
ケーブルとケーブルをつなぐ接続点(クロージャ)
一部のケーブルには防火繊維のカバーがかけられている

NTTの局舎は潜水艦?

 NTTの通信回線は、徹底的につながり続けることが求められる。そのためのさまざまな工夫が、とう道や局舎になされている。

 とう道は局舎に真っすぐつながっているわけではない。大災害などでとう道に水が流れこんできた時などに備えて、局舎に入る前に隔壁が設けられている。ケーブルも人も、一度その隔壁の上を越える構造になっている。濱中さんによると、この構造は「潜水艦工法」と呼ばれているそうだ。

「とう道」と局舎の間には防水のための隔壁が設けられており、ケーブルも人も一度その上を越える構造になっている

 とう道は地下なので、地下水やガスなどが湧き出してくる可能性がある。そのほか、都市ガスがパイプから漏れてくることや、閉鎖されているので細菌によって酸素が消費されて酸欠になることもありうる。もちろん、火災の可能性もある。そのため、とう道には浸水センサーや火災センサー、酸欠ガスセンサー、可燃性センサーなどが設置されている。

 これらがとう道に張り巡らされたシステムケーブルにより、局舎からの入口にある「とう道管理システム」につながっている。そして、昼間は都内で、夜間や休日はさいたま新都心で、システムを監視し、何かあったら作業員が駆け付けるようになっている。

 そのほか、浸水があった場合は、センサーで自動的にポンプが作動し、水をかき出すようになっている。

「とう道」の管理
センサーがつながるシステムケーブル
天井の可燃性ガスセンサー(赤い装置)。上をガス管が通っているという
避難誘導灯。非常時にはサイレン、スピーカー音声などで知らせ、避難誘導灯で避難路を示す
局舎からの入口にある「とう道管理システム」

 なお、ケーブルの故障を避けるため、通信ケーブルのカバー内には、常に乾燥した空気を送り込んで63.7キロパスカルの圧力をかけている。さらに約500mごとに圧力センサーが付けられているため、ケーブルのカバーに穴があいて気圧が下がると、担当者が駆け付けて補修するという。また、水に漬かっても水が入ってこないようになっている。「そのため、99.9いくつか%といっていいぐらい、ケーブルの故障はありません」と濱中さんは太鼓判を押す。

通信ケーブルには細い管から常に空気を送り込んで63.7キロパスカルの圧力をかけている

局舎に入ったメタルケーブルと光ファイバーの通信の処理

 とう洞がつながる局舎の設備もいろいろ見せてもらった。ただし、セキュリティ上の問題からほとんどの箇所で写真撮影が禁止されていたので、ご了承いただきたい。

局舎の通信設備の構成(説明資料より)

 電力会社からは電力を交流6600Vで受電する。これを交流200Vに変換して各フロアに送る。通信装置は直流48V(一部ビルでは直流380V)の電源で動作するため、各フロアに設けられた整流装置で電力を変換する。

 また、停電時など給電が途絶えた時には、エンジンによる発電装置で発電する。これは、自動で切り替わるという。

 そのほか、エンジンに問題があった時などのために、常に蓄電池に電力を蓄えて、必要な時にはここから電力を供給する。蓄電池の場合は、直流48Vでそのまま各フロアに電力を送るようになっている。

 蓄電池の給電時間は基本的に「人が駆け付ける間ぐらい」を想定しており、その間に移動電源車が駆け付けて給電するという。

電源設備の構成
通常時の電力系統
エンジンによる発電時の電力系統
蓄電池利用時の電力系統

 とう道から局舎に引き込まれたメタルケーブルと光ファイバーケーブルは、それぞれMDFとFTM/IDMという配線盤で局内の設備につながる。光ファイバーケーブルの場合はさらに、スプリッターでケーブルを集約して局内設備に接続する。

 その先は、メタルケーブルは加入者交換機などに、光ファイバーケーブルからの信号は収容ルーターなどに収容され、最終的にインターネットや相手の電話につながる。

外部から入ったメタルケーブルを局内につなぐ配線盤「MDF」
MDFとFTMの説明(説明資料より)

(高橋 正和)