特別企画

IoTスマートマンションはいま、執事の高みへ――AIとともに住まう、暮らしのネクストステージ

インヴァランスが来春、分譲開始

 20XX年。とある一人の男の、ある夜のストーリーをまずは紹介しよう。

PM8時。ここしばらく付きっきりだった大型プロジェクトも落ち着き、今日は久しぶりに早い時間に帰れそうだ。最寄り駅に到着し、改札口をスマートフォンのタッチで通過すると、そのまま画面を操作。アプリ「alyssa.」を立ち上げた。駅からマンションまで、コンビニに寄って帰っても10分ほど。駅でアプリを操作すると、ちょうど湯船にお湯がたまる。久しぶりにシャワーではなく、ゆっくりと湯船に浸かるつもりだ。

久しぶりにシャワーではなく、ゆっくりと湯船に浸かるつもりだ――

ちょっとしたおつまみとビールを買ってマンションへ。エレベーターを降りると、右手に持ったスマートフォンを操作する。すると玄関ドアの鍵がゆっくりと開いた。このマンションに引っ越してきてからというもの、カバンから鍵を出すことはなくなった気がする。以前はドアの前で鞄をひっくり返す、なんてこともあったが、今では自然にアプリを立ち上げてロックを解除している。

ドアを開けて家に入ると玄関、そしてダイニングに明かりが灯っていた。これもセンサーによるもの。暗い中で壁のスイッチを探すなんてこともない。ダイニングテーブルにカバンとスマートフォンを投げ出した。すでに湯船にお湯がたまっているようだ。ビールを開けたい気持ちを抑え、浴室に向かう。

PM9時。久しぶりの入浴は緊張していた筋肉をほぐして、身体にこびり付いていた疲れを取ってくれた。これで冷えたビールを飲む準備はできた。買ってきたおつまみとビールをリビングのテーブルに置き、一人の時間を楽しむことにする。

おもむろに壁にあるスピーカーに向かって話し掛けた。

「キャスパー、テレビつけて」

缶ビールのプルトップを引くと、間もなくテレビの電源が入り、世界のマーケットニュースが流れ出した。

「キャスパー、部屋を少し暗くして」

さらにそうつぶやく。リビングは間接照明をメインにした落ち着いた明かりに変わる。ムードのある明かりにも簡単に切り替えられる。以前は家で何か操作するときはリモコンを探したり、壁まで歩いて行く必要があった。しかし、今やその必要はない。座ったままで多くのことができる。それはまるで執事や、メイドがそばにいるようにも感じる。

AM0時。缶ビールを数本飲み干したころ、眠気がやってきた。ベッドに体を沈め、「アリッサ、おやすみ」とつぶやく。すると部屋の電気は消え、わずかに開けてあったカーテンも閉まり、部屋も眠りについた。

深夜に目が覚め、トイレに向かった。そのときも自然に常夜灯が点り、そしてトイレにもまぶしくない程度の照明が点る。おかげで目が冴えてしまうこともなく再び眠りにつけた。

AM6時。いつもの時間に目が覚める。すでに部屋のカーテンは開いており、朝のニュース番組もついていた。これは何度か自分で操作したところ、アリッサが覚えて自動的にやってくれるようになったこと。AIがルーティンワークを覚えてくれるので、ちょっとした手間がどんどん減っていくのを感じる。入居してから数カ月だが、どんどん便利になっていく。この部屋の快適さはもはや手放せない。

この部屋の快適さはもはや手放せない――

 スマートフォン操作や音声で各種家電をコントロールしたり、ネットサービスを利用できるスマートデバイスが広がっている。日本でも「Google Home」や「Amazon Echo」など、スマート(AI)スピーカーの販売がスタートしており、注目度が上がっている。前述の物語は、スマートフォンとスマートスピーカーを組み合わせた生活のワンシーンだ。これは決して未来の出来事ではない。多くは、すでに分譲されているスマートマンションで実際にできること。そして半分は、来年分譲を予定しているスマートマンションで実現する。手掛けるのは、2004年創業の不動産デベロッパーである株式会社インヴァランスだ。

ガス機器もスマホアプリから遠隔操作が可能
IoTビルトインの分譲マンションならでは

「alyssa.」の入居者向けコントロール画面。ガス機器の遠隔コントロールは後付けできない機能だ

 主に投資向けマンションの開発を行なっているインヴァランスでは、都心部で100棟以上のマンションの分譲と管理を行っている。同社が今年2月に導入したのが、スマートフォンアプリ「alyssa.」だ。このアプリには2つの機能がある。

 1つ目がオーナーに向けた投資管理機能で、例えば家賃の入金チェックや督促、入居者情報管理、そして不動産投資、管理に関する最新情報をアプリで確認できる。投資用マンションを購入した後も、アプリを介して身近にケアしてくれるというわけだ。

 そしてもう1つが、入居者用のスマートホームを実現する機能だ。この「入居者向けサービス」では玄関の鍵を遠隔操作できるスマートロック(電子錠)をはじめとして、部屋の照明やエアコンのオンオフができる家電のコントロール機能、そしてお風呂のお湯をためたり、床暖房のオンオフができるガス機器の操作機能を備えている。

 スマートロックやエアコンのオンオフなどはすでに対応製品が数多く登場しており、目新しいものではない。ただし、それぞれアプリや設定が異なっており、複数のスマート機器を使い分けるのは決して簡単とは言えないのだ。対して「alyssa.」なら、これらをまとめて管理できる。

 そして、分譲マンションに最初から付いているからこそ実現しているのが、ガス機器関連の遠隔操作機能だ。ガス機器は火を使うため、さまざまな法律で遠隔操作に規制がある。インヴァランスではガス機器と無線機器の配置や、利用する無線規格の種類まで研究することで、ガス機器の遠隔操作を実現。これにより、冒頭の物語のように帰宅前に浴槽へのお湯張りを実現しているのだ。このスマートフォンアプリ「alyssa.」を導入したマンションはすでに5棟分譲されているという。

音声認識・操作はもちろん
入居者のカーテンの開け方・閉め方までAIが学習・再現

 来春に分譲予定のマンションでは、「alyssa.」を使った家電や設備の遠隔操作だけではない、さらなる使い方ができるようになる予定だ。それは米シリコンバレーのベンチャー企業BOT(Brain of Things)社が開発するスマートホーム用のAIを採用した、ビルドインタイプのスマートホームだ。インヴァランスが所有するマンション「LUXUDEAR高輪」にテスト導入されたシステムを実際に体験することができた。

AIスマートホームを導入した1LDKの部屋。壁や天井にさまざまな機器が取り付けられている

 部屋には、リビングや寝室、洗面所の壁にスマートスピーカーが埋め込まれており、部屋のどこからでも、「キャスパー!」と話しかけることでさまざまな操作ができた。冒頭の例のように照明をコントロールしたり、カーテンの開け閉めも可能だ。

右上のスピーカー/マイクが、BOT社がアメリカ市場で導入しているもの。これも日本市場に合うサイズに変えていくという
天井に取り付けられた各種センサーとカメラ。カメラは動きを検知するだけなのでプライバシーが漏れる心配はない。また、動きの検知・認識はローカルで行うため、映像がクラウドに上がることもないそうだ

 この、BOT社のスマートホームAIがすごいのは、単に音声認識するだけでなく、入居者の行動を学習し、それを覚えることにある。天井には各種センサーと、行動を見守り、検知するためのカメラを設置。また、ホームコントローラーは各種家電、そして設備を操作するために、Wi-FiやBluetoothだけでなく、ZigBeeやZ-Waveなどのスマートハウス向け通信規格にも積極的に対応。デバイスだけでなく、スイッチ類1つ1つにセンサーを取り付けることで、より細かく状況判断を行い、学習する仕組みだ。

 例えば、冒頭の物語にあるように「おやすみ」や「おはよう」などのキーワードを認識すると、自動的に照明がついたりカーテンが開いたり、複数の家電を同時にコントロールできる。さらにそれを何度か繰り返していると、朝6時になると、AIが判断して自動的にカーテンや照明が動作するようになるという。

 また、毎朝、リビングのカーテンは全開で、寝室は一部だけ閉めておく、といった操作をしていればそれを覚えて再現してくれるという。

AIスマートホームによって
かつてSF映画やマンガで見たような暮らしが目の前に

「alyssa.」で操作できるIoT機器とAIスマートホームの仕組みをいち早く導入した「LUXUDEAR高輪」。ここの一室でさまざまな検証を行っている

 現在、都内の物件にスタッフが実際に住み、使い勝手や日本語ならではの課題の洗い出しなどを行なっている段階だ。そして来春以降、より多くのセンサーを内蔵し、最新のワイヤレス規格に対応した「alyssa.」の新型ホームコントローラーが導入される予定だ。AIスマートホームの分譲はそのタイミングで開始となる。さらにインヴァランスの小暮学社長によると、「alyssa.」をはじめとするAIスマートホームの仕組み自体の販売も検討しているとしており、他社が手がける新築マンションにも導入が広がっていく可能性は高そうだ。

 インヴァランスはすでに「alyssa.」のソフトウエア開発に加え、ホームコントローラーの開発部隊も社内に組み込むことでスピードを重視して展開を始めている。また、AIを開発しているBOT社にも出資しており、共同開発を行なっている。

 現在、すでにスマートホーム機器は数多く登場しているが、その多くがデバイスレベルではバラバラの状態。アプリも別でシステムとしてまとまったと言えるものは生まれていない。しかし、「alyssa.」とBOT社が開発するスマートホームAIは、部屋の設計の段階から組み込めるからこそ、統合したシステムとなる。

 また、今後のアプリ開発や各種家電、設備との連携はできる限りオープンにやっていきたいと小暮社長は語る。連携できる、そしてAIにより自動的に制御できる機器は今後さらに増える可能性がある。

 スマートフォンアプリや音声でさまざまな家電・設備が操作でき、さらには好みを学習して自動的に先回りしてくれる部屋。かつてSF映画やマンガで見たような未来の暮らしが目の前までやってきたことを「LUXUDEAR高輪」のAIスマートホームは教えてくれた。これらを実現したマンションが来春分譲され、さらに賃貸にも出回ると、毎日の暮らし方も変わり始めそうだ。

【お詫びと訂正 2017年12月5日 11:40】
 記事初出時、「キャスパー!」と話しかけることでエアコンのオンオフができるとの説明がありましたが、スマートスピーカー/マイクからのエアコン操作にはまだ対応しておりません。お詫びして訂正いたします。