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新型コロナウイルス対策、各社の「記者会見」はどう対応しているのか?

中止?延期?ウェビナー?それとも……

記者会見の様子(※写真の発表会と記事は関係ありません)

 新型コロナウイルス感染症の拡大にあわせて、記者会見の中止や延期が急増している。

 筆者は、ITおよびエレクトロニクス業界を中心に取材を行っているが、この業界だけでも、先週から今週にかけて、会見の中止および延期の通知が相次いでいる。

 今回は、そうした状況や企業側の対応をまとめてみたい。

取材予定で真っ黒だった手帳が真っ白に……

筆者愛用の手帳
25日~28日に書かれていたのは21の記者会見や取材予定。うち8つの会見がキャンセルになった

 実は、筆者のスケジュール管理は手書きの手帳だ。

 フリーランスという立場では、組織やグループ、他人とスケジュールを共有する必要が基本的にはないこと、取材日程を決めたり、時間調整をする際には、外出先のことが多く、常にPCの電源が入っていたり、スマホのアプリを起動しているという環境にはないこと、そして、30年ほど同じ手帳を毎年使っており、その使い方に慣れていることも、手書きの手帳を使用している理由のひとつだ。

 1週間ごとに見開きでページが構成されているこの手帳を開いてみると、2月25日(火)~28日(金)までの4日間に予定されていた記者会見やイベント取材は21件。これに、単独取材が何件も加わるから手帳は真っ黒だ。

 もちろん、すべての取材に回れるわけではない。だが、1日平均で5件の企業や団体が主催する会見が行われている計算であり、このペースは毎週同じだ。

 今週のページを見ると、そのうち、8件の会見に横線が引かれている。この横線は、すべて中止あるいは延期になった会見である。改めて見てみると、ここまで横線が多いのは正直驚きだ。

 そして、中止や延期にならなかった会見でも、新型コロナウイルス感染症対策を行っている。Webを使ってセミナーを行う「ウェビナー」の活用がその最たる例だ。

 また、3月2日~3月6日のスケジュールを見てみると、いまのところ予定されている会見は6件。一日平均1件強に留まる。

 毎年、ゴールデンウイーク中などの長期連休期間中は、予定が空白になっているページが生まれるが、ここまで空白となったページは、2011年3月の東日本大震災直後以来だ。

 多くの企業が、3月に入ってからの会見を先送りにしていることが想定される。

2月上旬、徐々に「イベント中止」や「延期」の連絡が………

 取材の中止や延期の連絡は、2月上旬から少しずつあった。

 だが、そのすべてがイベント関連の取材であり、お客様向けイベントや内覧会の中止にあわせて、会場取材がなくなったり、イベントがなくなったため、イベント会場で予定していた会見も中止するというものであった。

 また、記者会見の場合では、外資系企業が、本社のVIPの来日が中止になっために、会見を取りやめたという例があった。この来日中止は、日本だけでなく、中国訪問などのアジアツアーを予定しており、中国訪問を中止する流れで、来日がなくなったものだった。そして、本社VIPが来日できなかったケースでは、VIPが本社からビデオ会議で参加するという例もあった。

 そのほか、工場見学のプレスツアー終了後に、参加した記者による懇親会を予定していた企業もあったが、「不要不急のイベントは中止するように」との通達をもとに、当日になって懇親会だけを中止にした例もあった。

 2月12日頃から、広報担当者とメールや電話をする際に、他社の動きはどうかという質問が入るようになった。この頃から、広報部門でも記者会見の開催について具体的な検討を開始したように感じる。週が明けた17日になると、複数の広報担当者が他社の状況について問い合わせてくるようになった。

2月中旬、20~30人規模の会見も「中止」の対象に

 手元の通知で、最初に単独会見の延期の連絡があったのは、2月18日早朝にメールを出したキヤノンITソリューションズが最初だった。

 親会社であるキヤノンMJグループが、新型コロナウイルス感染症の影響により、すべてのイベントを中止また延期することを決定。2月27日に開催予定の同社社長出席による事業方針説明会見を延期することにした。

 多くのお客様が集まるイベントの中止はあったが、記者会見をイベントのひとつと見なし、会見を中止にしたことには、この時点では正直驚いた。20~30人規模の会見は、見方を変えれば、大型の会議のレベルであり、企業内の会議室に収まる。しかも、出席者の対象は限定される。「イベント」の対象にはならないと考えていたからだ。

 もちろん、2月16日には、共同通信社のハイヤー運転手が新型コロナウイルスに感染したというニュースがあり、メディア周辺にも緊張感が走っていたのは事実だ。だが、この時期に社長会見延期を決定したキヤノンITソリューションの判断は、その後、IT関連各社が同様に判断を下す先掛けとなった。

 ちなみに、NECネッツエスアイは、社長出席による新たなオフィスの内覧会を、2月20日に予定していたが、2月18日夕刻にこれを中止にするとの通知をメディアに送信している。

各社の対応は大きく分けて4種類「中止または延期」「ウェビナー併用」「ウェビナー完全移行」「特別フォロー」

 冒頭に触れたように、今週だけで8件の会見が中止あるいは延期となり、そのほかにも会見のやり方を変更する形で実施する例が出ている。

 ここで、各社が取った対策方法のいくつかを紹介しておきたい。なお、社名は一部伏せているが、これは各社の製品戦略や広報戦略に影響を及ぼすことに配慮したものであり、ご了承いただきたい。

その1:会見中止および延期型

 会見を中止、延期にする例は、ここにきて増加している。先に触れたキヤノンITソリューションズやNECネッツエスアイのように、社長会見でもそれは例外ではない。

 通知では、「新型コロナウイルス感染症が拡大している状況を受け、ご来場の皆様および関係者の健康・安全面を第一に考慮した結果、中止を決定いたしました」、「直前のご案内にて大変恐縮ですが、昨今の新型コロナウイルスによる最新の状況や今後の影響を考慮し、記者の皆様、お客様、および関係者の安全を配慮する観点から、記者説明会を延期することといたしました」などといった文言が並んでいる。

 ここでは、会見を中止にしたが、設定されていた会見開始予定時間にあわせて、リリースを配布するといった措置を取ったり、問い合わせに対応するといった措置を取るケースも多い。

 ちなみに、スベイン・バルセロナが開催予定だったMWCが中止になり、ここで発表する予定だった製品、サービスを、ウェブやリリースで発表するという例も出ている。

その2:ウェビナー併用型

 会見は開催したものの、ウェビナーによる動画配信を同時に行うという判断をした企業もあった。

 サイボウズが、2月25日に開催した社長による事業戦略説明会は、東京・日本橋の同社本社で開催したものの、ウェビナーでの参加も可能にした。ここでは、社長による説明と、会場からの質疑応答は、ウェビナー参加者は聞くだけという一方通行のものであったが、そのあとに、ウェビナーによる参加者が書き込んだ質問事項を司会者が読み上げて、社長が回答するという時間を設けた。

 だが、ウェビナーでの参加は、メディア関係者はあまり慣れていないのが実態。事前に参加を申し込んだり、zoomのアプリをインストールしたり、対応するブラウザがGoogle Chromeに限定されたりといったよう制限に困っていたメディア関係者がいたのも事実だ。

その3:ウェビナー完全移行型

 会見やイベントを中止し、ウェビナーによる参加だけに限定するものもあった。

 コーナーストーンは、2月26日に、パレスホテル東京で、ユーザーおよびパートナー向けフォーラムを開催する予定であったが、会場での開催を中止。ウェビナーだけの参加に限定した。そのため、メディアの取材もウェビナーを通じたものに限定された。

 やはりここでも事前準備が必要など、ウェビナーに参加するための環境づくりに苦労をしたメディア関係者もいた。

 とくに、長時間のイベント取材になれば、電源やネットワーク環境の確保が重要になる。とくにフリーランスの場合、都心部にオフィスがあるわけではなく、ウェビナーで取材ができる安定した環境を整えるとすれば、自宅などに限定される。コーナーストーンのイベントは午後1時30分からスタートし、約4時間に渡る内容。午前中に都心部で取材をしたあとに、自宅に戻り、さらに、夕方からの都心での会合に出席するということになったというフリーランス記者もいた。

 ちなみに、日本オラクルでは、決算発表を電話会議だけで行うといったことを何年も続けている。今回の動きに伴って、会見をウェビナーや電話会議、ビデオ会議で行うという例が増えるかもしれない。

その4:特別フォロー型

 ある企業では、新型コロナウイルス感染症の影響で会見を中止したものの、特定のメディアを対象に少人数で会見を開催したり、個別に取材対応を行うといった例もあった。

 特定領域や専門分野にフォーカスした製品などの場合、専門的な媒体に掲載してもらいたかったり、ニュースリリースの説明だけでは理解が難しい内容のために、取材によって補足をしたいといった場合もある。

 こうしたときに、広報部門が苦肉の策として取ったのが、特定メディアや記者に限定したフォローだ。会見中止といった通知を正式に出している都合上、他のメディアにはわからない形で開催しなくてはならず、広報部門にとってもリスクの高いやり方だといえる。

「個別取材」は普通に継続ただし「マスク姿」は日常の光景に

 その一方で、個別取材での中止や延期はいまのところない。

 筆者は、25日、26日の2日間で、3件の単独取材を行ったが、それらは予定通りすべて実施された。3月に向けても、いまのところ、単独取材の予定には変更がない。

 だが、取材相手が、マスクのまま登場することは日常的になった。私もそのあたりは気にならないので、相手にはマスクを着用したままにしてもらっている。最後に写真を撮影する際には、マスクを取ってもらうが、初めて会う取材相手だと、その時点になって、「こんな顔だったんだ」ということがわかったりする。

 また、こんなこともあった。

 ある企業の単独取材では、取材が始まる前に、「大河原さん、会議室の扉を開けておいてもいいですか」と言われた。空気の循環をすることが目的であり、新型コロナウイルス対策の一環との判断だったようだ。

 会議室そのものが一番奥であり、人通りが少ないこともわかっていたので、快く了承し、扉を開けたまま取材をした。先方も、「気が散るようでしたら、言ってください」と配慮をしてくれたが、気が散ることはまったくなく取材は終了した。

 あとで聞くと、これは会社全体や広報部門でルール化されているものではなく、現場の判断だったというが、これからはマスク着用が当然だったり、会議室の扉を開放し行うといった取材現場が増えるかもしれない。

 2月26日に開かれた新型コロナウイルス感染症対策本部の会合で、安倍晋三首相が、大型イベントでは、大規模感染リスクがあることを指摘。今後2週間にわたって、中止や延期、規模縮小を、政府が要請する方針を表明したことで、これからは予定されていたイベントの中止が相次ぎそうだ。

 こうした動きにあわせて、製品発表などについても、当初予定されていた会見が中止されたり、延期され、リリースだけで通知するといったことが起こりそうだ。

メディア側は「ネタ枯れ」懸念ただし新たな会見通知も……

 これを懸念しているのが、各編集部側だ。

 ITやエレクトロニクス分野の専門媒体の場合、会見や取材の機会が減れば、当然、ニュースも減ってくる。3月に入ってからの会見予定が大幅に減少していること、これがいつまで続くかわからないことで、「ネタ枯れ」の懸念が生まれている。

 実際、私がある編集部に、この間の連休中に入稿した原稿が、3月の掲載にまわることになった例がある。本来は今週に掲載されるものだったが、掲載時期がずれても「腐らない」原稿であれば、3月に回したいというのは、ネタ枯れ対策を視野に入れ始めた編集部の本音といえるだろう。

 では、この状況はいつまで続くのだろうか。

 現時点では、3月中の記者会見は大幅に減少することは明らかだ。

 外資系企業のなかには、3月中のイベントや会見を行わないことを明確に示している例もある。

 そうしたなか、別の企業では、2月25日に、3月3日に開催する会見の通知をメディア関係者に送信した。中止や延期の連絡が多いなかで、新たな会見通知がきたことはちょっと新鮮であり、経済活動が行われている証のひとつとして、個人的にはうれしくもあった。

 一方で外資系企業のなかでは、4月下旬にアジアで開催する予定のプライベートイベントの中止を発表。イベント関連の取材とはいえ、4月末まで取材中止の範囲が及んでいるのが実態だ。

 企業の会見の減少は、業界の活性化に対してはマイナスにしかならない。これが長期化することは、企業自身が、自分の首を締めることになりかねない。

 各社の広報部門の担当者には、むしろこの状況をチャンスと捉え、新たな広報の手法や、メディアとのつながり方を創出してもらいたいと思う。メディア関係者も、それに対する協力は惜しまないだろう。