特集
Wi-Fi 5の多くはすでにサポート終了、Wi-Fi 6も徐々に…。「セキュリティを意識した更新」が求められるWi-Fiルーターのライフサイクル新常識
2025年9月30日 06:00
「可能な限り長く」から「販売終了から5年」、そして「販売終了から3年」へ? Wi-Fiルーターのサポート状況が変化しつつある。すでにWi-Fi 5対応製品の多くがサポート終了となり、初期のWi-Fi 6対応製品も2026年1月からサポート終了の機器が登場し始める。今年も11月11日に迫った「Wi-Fiルーター見直しの日」を前に、Wi-Fiルーターのサポート期間について考えてみた。
地味だが衝撃的なニュース
2025年7月1日、Atermシリーズで知られるNECプラットフォームズのサイトに以下のお知らせが掲載された。
要するに、Atermシリーズのサポート期限が、従来の「販売終了から約5年間」から「販売終了から約3年間」に短縮されるというものだ(2025年12月1日から適用)。
古くは、明確なサポート期限の定めがなく、できる限りサポートされるという状況だったWi-Fiルーターのサポート期限は、ここ数年で「販売終了から約5年」というのが業界の共通認識となっていた。しかし、今回のAtermの例により、さらに短いライフサイクルが主流になる可能性が出てきた。
もうひとつ、サポート関連の注目ニュースを挙げておきたい。
今年の夏から来年にかけて、いよいよWi-Fi 6対応ルーターもサポートが終了するモデルが登場し始める。エレコムの「WRC-X3000GS」が2025年8月でサポート終了しているほか、バッファローの「WXR-5950AX12」も2026年1月にサポートが終了する。
これまで「古いWi-Fiルーター」というと、Wi-Fi 5もしくはそれ以前の製品という認識が一般的だったが、すでに初期のWi-Fi 6製品も含まれるようになっている。直観的な「古さ」のイメージと、Wi-Fiの規格が一致しないケースも出てきたことで、明確にサポート期限を確認して、Wi-Fiルーターを継続利用するか、買い替えるかを検討しなければならない状況になってきた。
サポート終了のWi-Fiルーターを利用する危険
サポートが終了したWi-Fiルーターを継続して使うことが、なぜ危険なのかをおさらいしておこう。
Wi-Fiルーターメーカーは、製品に対する「サポート」として、ハードウェア的なサポートと、ソフトウェア的なサポートを提供している。
ハードウェア的なサポートは、物理的な故障への対応だ。具体的には部品を供給し、修理に対応するという対応だ。もうひとつのソフトウェア的なサポートは、Wi-Fiルーターを動作させるためのソフトウェアの不具合への対応だ。
「サポートが終了する」ということは、ハードウェア的な保証がなくなることに加え、こうしたソフトウェアの脆弱性も修正されなくなるということになる。
昨今、家庭用のWi-Fiルーターが乗っ取られ、ボットとして第三者のネットワーク攻撃に悪用されるケースが増えているが、こうした乗っ取りの原因として、ソフトウェアの脆弱性が悪用されるケースが多い。
もちろん、脆弱性だけが原因ではなく、管理用のアカウントやパスワードが単純であるなどの設定上の不備も原因になるが、適切にメンテナンスや設定がされていないWi-Fiルーターは、悪意のある第三者の手によって外部から遠隔操作可能な状態にされてしまい、巨大な攻撃用ネットワーク「ボットネット」の一員として、交通・金融などの社会インフラへの攻撃や、特定企業に対する攻撃などに強制的に参加させられることになる。
つまり、知らず知らずのうちに、犯罪の手助けをすることにもなりかねないわけだ。
2018年以前に購入したWi-Fi 5世代製品に注意
それでは、具体的にどのような製品がサポート終了になっているのかを見ていこう。
詳細はメーカーのポリシーや製品の販売終了時期によって異なるため、自宅で使っている機種を個別に調査する必要があるが、目安として2018年以前に購入したWi-Fi 5対応製品は注意が必要だ。
例えば、今年、サポートが終了したWi-Fi 5対応製品をざっと上げると、バッファローの「WSR-2533DHP2(2025年2月終了)」、エレコムの「WRC-2533GST2SP(2025年8月)」、NECプラットフォームズの「Aterm WG2600 HP3(2025年8月終了)」などがある。
前述したように多くのメーカーが販売終了から5年をサポート期間として想定しているので、すでにサポートが終了しているか、来年にはサポートが終了する製品の販売終了は今から5年前の2020年前後となる。Wi-Fiルーターの販売期間は約2年なので、2018年前後に購入したWi-Fi 5世代の多くの製品が、サポート終了に該当する可能性が高い。
もちろん、Wi-Fi 5対応であっても現行モデルとして販売されている製品もあるため、「Wi-Fi 5=サポート終了」というわけではない点には注意してほしい。
バッファロー、エレコム、NECプラットフォームズ、アイ・オー・データ機器、TP-Linkに関しては、メーカーのサポートページや保証内容の案内ページにて、サポートが終了した製品のリストを確認したり、型番で検索したりできるので、確実にサポート状況を確認したいのであれば、これらのサイトを利用するのが確実だ。
- バッファロー(商品サポート状況一覧)
- エレコム(サポート終了・終了予定リスト)
- NECプラットフォームズ(Atermのサポート期間について)
- アイ・オー・データ機器(修理・サポート終了品検索)※型番で検索
- TP-Link(Warranty & RMA Policy※「EOL(廃盤製品)製品につきましてはこちら〜」の部分を展開
サポート終了で即危険ということではないが…
もちろん、サポートが終了したからといって、Wi-Fiルーターとして使えなくなるわけではない。インターネットにもつながるし、Wi-Fiも接続できる。
しかし、メーカーがサポート終了を公表していることで、悪意のある第三者にとっても攻撃計画を立てやすくなっている側面もある。サポートが終了した機種の中から、過去の売れ筋の機種を調べ、その中でも現役で稼働している可能性が高い機種に絞り込み、脆弱性があるかどうかを調べることで、労力を減らすことができる可能性がある。
実際、すでに自宅のWi-Fiルーターが乗っ取られている可能性もある。ボット化したWi-Fiルーターは、普段は通常通り動作し、攻撃の指令を受け取ったときだけ異常なパケットの送信を開始する。見た目や普段の状態では判断できないわけだ。
このため、心配な場合は、「am I infected ?」のようなサイトを利用することで、自宅のWi-Fiルーターが感染しているかどうかを診断できる。
もしも、サポートが終了した機種を使っている場合は、なるべく早く、最新のWi-Fi 6やWi-Fi 7対応の最新モデルに買い替えることをおすすめする。
また、今後は、「古くなかったから買い替える」という対処的な買い替えではなく、製品ライフサイクルを意識した定期的な買い替えが必要になる。メーカーが製品ライフサイクルを基盤とした開発、サポート体制を構築している以上、われわれユーザーもそのサイクルを意識した上で製品を定期的に買い替えていかないと、「気づいたらサポート終了」という状況から、いつまでたっても抜け出せなくなってしまう。
具体的には、購入から3年で使っているWi-Fiルーターを「見直す」、具体的には、製品のサポート状況を確認することをおすすめする。購入から3年が経過すると、製品によっては販売終了になっているケースがあるので、まずはこの段階でサポート状況を確認し、期限が公表されている場合は、それまでに買い替えを検討する。このサイクルを繰り返せば、うっかりサポート切れの製品を使い続けることを避けられる。
3年への短縮はメリットもある
そういった意味では、冒頭で紹介したNECプラットフォームズのサポート期間短縮は、「Wi-Fiルーターの見直し」を改めて意識させるきっかけとして、業界にとっても、われわれユーザーにとっても、非常に大きな意味を持つ判断と言える。
少なくとも「動いている間はWi-Fiルーターを使い続ける」という考えを見直すきっかけになるのではないだろうか。他メーカーも追従するかどうかはわからないし、短縮の理由を正確に推測できるわけでもないが、昨今の激化するサイバー攻撃を考えると、ある程度の期間で定期的に買い替え、新しいセキュリティ水準に合わせていく意識は必要だろう。
ここからは、個人的な意見になるが、「販売終了から3年」というサポート期限は、個人的には悪くない選択だと思える。もちろん、シンプルにサポート期間が短くなるのは、ユーザーにとってデメリットではある。
しかし、製品のライフサイクルが短くなることによって、各メーカーから新製品がより多く登場する可能性も高くなる。筆者的には、いろいろな新製品が登場して、市場が盛り上がってくれるほうがうれしい。
いずれにせよ、現状、サポートにかかるWi-Fiルーターメーカーの負担が大きくなっていることは事実なので、業界全体でサポートの在り方を見直すきっかけになればいいと思う。