ストリーミング配信の現場、IIJが進めるSilverlight配信の利点は


「Microsoft Developers Forum 2009」のサイト。イベント当日の模様をストリーミングで視聴できる

 マイクロソフトの開発者向けイベント「Microsoft Developers Forum 2009」が5日、東京・六本木のアカデミーヒルズで開催された。イベントでは、来日した米Microsoftのスティーブ・バルマー氏による講演と、次期開発環境「Visual Studio 2010」などの解説が開発者向けに行われた。

 このイベントの模様は、インターネットイニシアティブ(IIJ)によって、Silverlightを利用したHD 720P品質のストリーミングにより同時生中継されたほか、イベント終了後も12月25日まで視聴できる。

 この動画配信では、「Live Smooth Streaming」と呼ばれる技術を使用しており、生中継の最中にも見たいシーンまで巻き戻せる「追いかけ再生」に対応している点が特徴となる。中継を担当しているIIJでは、これまでにも「ReMIX Tokyo 09」などのイベントでLive Smooth Streaming技術とSilverlightを利用したライブ配信を行うなど、Silverlightを利用したストリーミング配信を積極的に進めている。

 IIJが、Silverlightによるストリーミングを積極的に進めている背景には、どのような利点があるのか。IIJアプリケーションサービス部デジタルコンテンツ配信課の岡庭大輔氏に話を伺った。

ビットレート自動切り替え、ライブ中の巻き戻し再生など多くのメリット

IIJの岡庭大輔氏

 IIJでは、2009年7月の「ReMIX Tokyo 09」、8月の「tech・ed Japan 2009」に続いて、今回の「Microsoft Developers Forum 2009」と、マイクロソフトのイベントをSilverlightを使って配信している。また、ライブ!ユニーバースが主催した2009年7月の日食中継プロジェクト「LIVE! ECLIPSE 2009」でも、配信にLive Smooth StreamingとSilverlightを利用した。

 Live Smooth StreamingとSilverlightを使った配信のメリットはどこにあるのか。岡庭氏は「まずクライアント側については、Silverlightはマルチプラットフォームなので、WindowsだけでなくMacでも見ることができる点があります。次に、クライアント側の状況に応じて、自動的に映像品質を切り替えて再生する『Adaptive Stream』と呼ばれる技術を使っている点が挙げられます」と語る。

 Adaptive Stream技術では、複数のビットレートによる映像配信が、クライアント側のCPU使用率や回線状況に応じて、最適と思われるビットレートの映像に自動的に切り替わる。特に、HD品質の動画配信では、ユーザーの環境によっては処理が追いつかずに再生がコマ落ちになってしまうこともあるが、この仕組みであれば「ユーザーに入口で512kbpsとか1Mbpsといった画質を選んでもらう必要もなく、最適な動画が自動的に配信できる」点がメリットになるという。

 また、視聴者側のメリットとしてはさらに、中継中でも映像を過去に巻き戻すことができる点が挙げられる。「見てもらえばわかるのですが、再生時にもバッファリングはほとんど無く、いつでも好きなところから再生できます。また、配信が終わった時点でVODにも対応しているので、いつでも見返すことができます。」

回線状況やCPU使用率に応じて、最適なビットレートに自動的に切り替わる「Microsoft Developers Forum 2009」の講演の模様

HTTPを配信プロトコルとして使うことで、配信事業者にもメリットが

 今回の中継では、イベント会場内に中継用のブースを用意し、そこから配信用のサーバーにストリーム用のデータを送り出している。米Inlet Technologiesの機材を用いて、4種類(512kbps、1Mbps、1.5Mbps、2.5Mbps)のビットレートによる動画を同時にエンコードしている。実際にはさらに日本語と英語の2チャンネルがあるので、計8ストリームを同時にエンコードしている。

 映像を中継する現場の仕組み自体は、通常の映像配信とさほど変わらないが、こうして送り出した4種類のビットレートの動画が、Live Smooth StreamingとSilverlightの組み合わせによりユーザー側で自動的に最適なビットレートが選択され、スムーズに動画が再生できる仕組みとなっている。また、VOD用の動画としても同時にサーバーに蓄積されるため、中継終了後に改めてエンコードするといった手間もかからない。「イベント終了後に即座にVOD配信が可能となり、ユーザー側にも配信側にもメリットが大きい」と岡庭氏は語る。

エンコードにはInlet Technologiesの機材を使用8ストリームを同時にエンコードしている

 また、この仕組みでは配信用のプロトコルとしてHTTPを使っている点も、配信事業者としてはメリットだという。「従来のストリーミング配信では、RTSPのような専用プロトコルを使っていたため、Web用とストリーミング用の両方の設備が必要でした。配信プロトコルがHTTPであれば、ストリーミング用にも例えばキャッシュ用のHTTPプロキシーであるとか、既存のWeb用の配信設備が使えるので、設備が集約できます。」

 岡庭氏は、「Live Smooth StreamingとSilverlightの組み合わせは、HD品質の動画に対応し、ビットレートの自動選択ができ、ライブ中に巻き戻しもできて、中継終了後にすぐにVOD配信も可能といった数多くのメリットがあり、配信サービスの可能性が広がった」と語る。IIJでは、自社の「大規模コンテンツ配信サービス」において既にLive Smooth Streamingに対応しており、「クライアント側もSilverlightなので、たとえばTwitterのタイムラインを流すとか、作り込めばもっと面白いことができる。テレビよりも魅力的なプラットフォームになる可能性がある」として、今後さらに採用例を増やしていきたいとした。

WindowsとMacのどちらでも映像を見ることができる中継現場の映像機器

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(三柳 英樹)

2009/11/11 06:00