清水理史の「イニシャルB」【特別編】

ついに本格普及期に入ったWi-Fi 7、バッファロー渾身の最新ルーターは「何もあきらめなかった」からこその超高コスパ

ヒートシンクまで新設計、徹底的に無駄を削った筋肉質なWi-Fi 7ルーター第2弾「WXR9300BE6P」の開発秘話を聞いた……

バッファローが放つWi-Fi 7ルーターの第2弾「WXR9300BE6P」

 バッファローから第2弾となるWi-Fi 7ルーター「WXR9300BE6P」が登場した。Wi-Fi 7ならではの4096QAM、320MHz幅、MLOに対応した製品だが、価格はAmazonの予約時点の価格で3万1480円と手に取りやすい設定がなされている。価格の秘密は、基板の隅々にまで至るハードウェア設計のコダワリと、茨の道を選んでまでも作り込まれたソフトウェア面でのコダワリだ。聞けば聞くほど驚かされる製品開発秘話をバッファローの開発チームに聞いた。

普及期を迎えたWi-Fi 7市場に「コダワリの逸品」を「3万円台」で

 バッファローから登場した「WXR9300BE6P」は、5764Mbps(6GHz)+2882Mbps(5GHz)+688Mbps(2.4GHz)の合計9334Mbpsの無線LANと、10Gbpsの有線WANに対応したWi-Fi 7ルーターだ。

 Wi-Fiルーターをはじめとする通信機器は今年の初めから各社で先行して製品がリリースされてきたが、今年の夏以降、iPhone 16シリーズ、Google Pixel 9シリーズなどのスマートフォンで採用済となっているほか、Copilot+ PCとして知られる一部のPCでも採用が進んでおり、ようやく誰もがWi-Fi 7を使える時代が到来した印象がある。

 その一方で、買い手であるユーザーの製品を選ぶ目も肥えてきている。これまでは、単にWi-Fi 7対応というだけでも価値があったが、Wi-Fi 7対応製品が増えてきたことで、性能や機能、使いやすさ、デザイン、そして価格と、多くの人が自分の価値に合う製品を探し始めている。

 つまり、Wi-Fi 7対応ルーターにも、ユーザーが真に求めている「ニーズ」を満たす製品作りが求められるようになりつつあるわけだ。

 そんな中、バッファローが出した回答が、この「WXR9300BE6P」となる。

 株式会社バッファロー コンシューママーケティング部 次長 下村洋平氏(以下、下村氏)は、その開発コンセプトについて次のように語った。

株式会社バッファロー コンシューママーケティング部 次長 下村洋平氏

 「WXR9300BE6Pは、Wi-Fi 7に対応したトライバンドのハイパフォーマンスモデルです。Wi-Fi 7ならではの4096QAMや320MHz対応、MLOといった機能を搭載しつつ、『スマート引っ越し』『Wi-Fi EasyMesh』などの提供で今までのバッファロー製品と同じように使えることを目指しながら、手の届きやすい3万円台という価格を実現した製品となります」という。

 確かに現状のWi-Fi 7ルーターは、機能を重視しすぎるとその価格に驚かされ、リーズナブルさに惹かれると物足りなさを感じることもある。「そろそろWi-Fi 7が欲しいけど、価格的にも、機能的にも、自分にちょうどいい製品が見当たらない」と悩んでいた人も少なくないはずだ。

 また、同社 コンシューママーケティング部 BSSマーケティング課 BSSマーケティング係 永谷卓也氏(以下、永谷氏)は、「今回の製品は、iPhone 16などのWi-Fi 7対応端末や、10Gbpsのインターネット環境を快適に使いたい人に、ぜひ使ってほしい製品です。位置付けとしては、4年前に発売したWXR-5700AX7シリーズの後継となる製品です。好評だった従来機のサイズ感や豊富な機能、使い勝手の良さはそのままに、プラス1万円程の3万円台の価格を実現し、気軽に最新のWi-Fi 7対応製品に買い替えられるようにしました」という。

株式会社バッファロー コンシューママーケティング部 BSSマーケティング課 BSSマーケティング係 永谷卓也氏

 言わば、バッファローが「WXR9300BE6P」の開発で目指したのは、ユーザーが本当に求めている製品の開発だ。Wi-Fi 7の規格を詰め込むだけでなく、実際にユーザーが使う状況を考えて機能をカスタマイズ、追加したり、手の届きやすい価格に設定したりしたことになる。

4本しかないアンテナのどこにどの帯域を割り当てるか?

 では、具体的にどのような点にこだわって開発された製品なのだろうか?

 同社 ネットワーク開発部 プロダクト第二開発課長 小野陽氏(以下、小野氏)は、ハードウェア設計において多くの制約をクリアしなければならなかった苦労を次のように語った。

株式会社バッファロー ネットワーク開発部 プロダクト第二開発課長 小野陽氏

 「本製品は、従来製品のWXR-5700AX7シリーズと同程度のサイズにするという、厳しい条件の中で開発がスタートしました。従来製品はWi-Fi 6のデュアルバンド対応製品でしたが、今回のWXR9300BE6PはWi-Fi 7で、6GHz帯が増えたトライバンド対応製品となっています。同じサイズの筐体に、アンテナ数も多く、発熱も大きい上位スペックの仕様を詰め込むのは容易ではありません。そこで、特にアンテナと熱設計についてかなりの試行錯誤を繰り返しました」。

従来品と同程度の筐体を採用。そこにアンテナの数も発熱も多いトライバンドの中身を詰め込んだ
4本の外付けアンテナに6本のアンテナを搭載
縦置きのほか、壁掛けもできる

 最近ではアンテナを内蔵する製品も多いが、通信エリアの広さやパフォーマンス面では外付けアンテナの方が有利となる。とはいえ、WXR9300BE6Pは、フラグシップモデルのWXR18000BE10Pと比べても一回り本体サイズが小さく、アンテナの数も4本しかない。2ストリーム×3帯域の計6本のアンテナの搭載には相当な工夫が必要そうに見える。

 小野氏によると、「アンテナの設計では、各周波数で使うアンテナの配置に工夫しました」という。

 「本製品は4本のアンテナを左側から1、2、3、4番としたときに、1番と3番に2.4GHzと5GHzを収め、2番と4番を6GHz専用としています。本体右側面にあるUSB 3.2(Gen1)のポートと2.4GHz帯が干渉するのを避けるために距離を保つ場所に配置しています(小野氏)」。

本体右側にあるUSBポートから近いアンテナを6GHz専用とすることで2.4GHz帯が干渉するのを防いでいる

 「一方で6GHz帯は、共用しない方が性能の向上に期待できるので独立で配置し、さらにアンテナを稼働させたときに2本のアンテナの距離が近すぎると十分に性能を発揮できないので、2番と4番に離して設置しました(小野氏)」ということだ。

 なお、アンテナも従来品と同程度のサイズを使用しているが、中のアンテナは新設計となっている。小野氏によると、コストを削るところ、費用を惜しまないところを細かく精査したということだ。

 このようなアンテナへのこだわりは、設計段階だけでなく、ユーザーの手元に届いた後の設置段階にも及んでいる。同社は以前から、外付けアンテナモデルのパッケージに「アンテナ設定ガイド」を同梱しているが、当然のことながら、これは一般論ではなく、製品ごとに実際に検証した結果が反映されている。

 永谷氏によると、「実際に弊社のテスト環境で、ユーザーの家庭を想定した複数の設置方法で、アンテナの向きや角度を細かく調整しながら、検証を繰り返して、実践的なアンテナの設定ノウハウをガイドに落とし込んでいます」という。

 しっかりと時間とコストをかけられたガイドなので、本製品を購入した際は忘れずに見て欲しい。

アンテナごとの首振りや回転により電波を飛ばす方向が調整できる
製品別にアンテナの設定を紹介したガイドが同梱されている

ヒートシンクのフィンにまでコダワリが詰まりまくった新設計基板

 ハードウェアのコダワリはアンテナだけでない。小野氏が熱く語ったのはWi-Fiルーターの心臓部とも言える基板部分だ。

 「WXR9300BE6Pでは、筐体サイズが決まっていたため、中に収められる基板のサイズも限られていました。Wi-Fi 7対応によって増えた部品点数を物理的に収納しつつ、さらに増えた消費電力と発熱をどう抑えるか? が大きな課題でした」という。

 それなら、フラグシップモデルのWXR18000BE10Pクラスの大きな筐体にしてしまうのも手だが、そこであきらめないのが同社の開発陣の執念とも言えるところだ。

 小野氏によると、「コストを下げるためにWi-Fi 7対応チップを見直すと同時に、メインのWi-Fi 7対応チップと相性のいいFEM(フロントエンドモジュール:パワー・アンプや低ノイズ・アンプなどを一体化したチップ)を選定することで、全体として消費電力を抑えられるように工夫しました。消費電力を抑えられれば発熱も抑えられます」という。

サイズの限られた基板上にWi-Fi 7のモジュールを配置する必要がある
コスト削減のためRFモジュールのカバーなど共通化されている

 すでにノウハウがある既存モデルとは異なるチップ類を選択することは、ある意味、非効率的だ。しかし、あえてその道を選ぶことで、開発に手間をかけてでも、制約を乗り越えようとする姿勢は素晴らしい。

 また、実際の基板を見ながら、新規設計したヒートシンクについても熱く語ってくれた。

 「基板を見ると、ヒートシンクが意外に小さいと感じたかもしれません(筆者注:Wi-Fi 7、10Gbps対応製品は一般的に巨大で重いヒートシンクが付けられている)。WXR9300BE6Pでは、サイズや形状を一から見直した新設計のヒートシンクを採用しています。フィンの数、フィンの高さ、フィン同士の間隔などを見直し、何度もシミュレーションを繰り返すことで、安定動作に影響のない最適な形状にしています」とのことだ。

新設計のヒートシンク。意外に小さいし、フィンが少ないが、効率的に放熱できる

 確かに、全体的なサイズも小さいが、フィンの高さがまちまちで、間隔も広い。小野氏によると、フィンが少なく、複雑な切削をしなくて済むため、コスト削減にも効果があるという。

 海外製品では、放熱のためにファンを搭載する場合もあるのだが、物理的に動作するファンのような部品は長期的な利用を考えると故障のリスクを持っている。愚直にファンレスにこだわるだけでなく、フィン1枚の形状まで徹底的に追及することで、Wi-Fi 7+10Gbpsでも、ここまでヒートシンクを小型化できたのは、ある意味、発明といっていい。

 ぜひ、本製品を店頭で見かけたら、背面を眺めてほしい。格子の隙間の裏には、開発者の思いが詰まったヒートシンクが隠れているのだ。

一部対応だけで妥協しなかった「MLO」対応

 一方、ソフトウェア面での工夫としては、Wi-Fi 7の新機能となる「MLO」対応が挙げられる。

 MLO(Multi-Link Operation)は、2.4GHz、5GHz、6GHzの複数の帯域を組み合わせて利用する通信方式だ。一般的には、2.4GHz+5GHz+6GHzなど複数の帯域を同時に利用することで通信速度を向上させるモード(MLMR)が良く知られているが、MLOには複数のモードがあり、そのサポート状況は製品によって異なる。

 同社 ネットワーク開発部 内製FW第三開発課 FW開発係 太田雅矢氏(以下、太田氏)は、MLOの実装について「あえて茨の道を選んだ」とその開発過程を振り返った。

株式会社バッファロー ネットワーク開発部 内製FW第三開発課 FW開発係 太田雅矢氏

 「まるで霧の中を進むような開発でした。Wi-Fiチップの対応機能としては、MLOが記載されているのですが、いざ動かしてみると思い通りに動作しない。ある程度、実装して検証しようとしても、そもそも開発が始まった段階では、MLOに対応した端末が存在せず、MLOを試せない。ようやく試せるようになっても、うまく動作しなかったときに、アクセスポイント側に問題があるのか? 端末側に問題があるのか? が分からない、という状況が続きました」ということだ。

 筆者もMLOのテストを何度かしたが、MLOは非常に動作が複雑で、しかも確認が難しい。それを1年以上前の開発段階から試行錯誤してきたのだから頭が下がる。

 しかも、太田氏は、ただMLOを実装するだけでなく、バッファロー製品としての品質で実装しなければならなかった。バッファロー製品は、Wi-Fi 6対応モデル以降「Wi-Fi EasyMesh」に対応しており、アクセスポイント同士を簡単にメッシュ接続できるようになっている。WXR9300BE6Pも、これに対応する必要があるが、メッシュ構成時に「バックホールでMLOの2.4GHz+5GHz+6GHz同時通信を実現する」ことが必要となっていた。

EasyMesh接続でもMLOのバックホールを構成する必要があった。最終的に特許を出願済み

 太田氏は、「そもそも開発当時はWi-Fi EasyMeshの仕様にMLOでの接続が規定されていませんでした(現状はWi-Fi EasyMeshでMLOの規定が追加されたとのこと)。また、メッシュ構成時にエージェント側(メッシュ接続の親機と子機の関係の子機側の名称)でもMLOによるクライアント接続をサポートする必要がありました。これらをファームウェアで実装することはまったく新しいチャレンジでした」という。

 太田氏は最終的に実装を成功させたわけだが、この機能はバッファローが特許を出願済みだ。開発に加えて、特許の出願までしなければならないのは、かなりの労力だったはずだ。

 なお、この実装のおかげで、WXR9300BE6Pは、同じWXR9300BE6Pとの組み合わせ、上位モデルのWXR18000BE10Pとの組み合わせに加えて、他社製のWi-Fi EasyMesh対応Wi-Fi 7対応ルーターとの間でMLOによるバックホール接続も可能となっている。

 このほか、MLOの複数モードもサポートしている。

 太田氏によると、「MLOには、同時モード(MLMR)、切り替えモード(MLSR)、さらに細かく言えば「eMLSR」など複数のモードがありますが、WXR9300BE6Pは、いずれのモードにも対応し、それぞれをどの周波数帯でも利用できます」という。

MLOの複数モードをサポート

 Wi-Fi 7対応を謳うWi-Fiルーターやスマートフォン、PCであっても、MLOのモードのどれをサポートしているかは製品によって異なる。また、現状はMLOがまださほど注目されていないため、どのモードに対応しているかを公表しているメーカーも少ない。

 その点、バッファローは、基本的にどのモードであってもつながるように製品を設計している。このため、WXR9300BE6Pを利用していれば、接続する機器がどのモードをサポートしている場合でもMLOで接続できることになる。

視線の先に常に顧客がある商品開発

 このように、WXR9300BE6Pは、ある意味、開発者の「意地」が詰まった製品と言える。

 しかし、その「意地」は自分たちの満足のためでなく、常にその視線の先に顧客があるように感じられた。ハードウェア開発を担当した小野氏は「マニアックな話をしましたが、バッファロー製品として使いやすく仕上げてあるので、ぜひ初心者の方にも使ってほしい」と強調し、ソフトウェア開発を担当した太田氏も「見た目は従来モデルのWXR-5700AX7シリーズと同じですが、中身はほぼ作り直した新設計なので、ぜひ体験してほしい」と新製品に対しての思いを述べた。

 Wi-Fi 7という新しい規格を、どうやったらユーザーが迷わず、便利に活用できるか、実際に使って快適と感じられるかが、つねに根底にある印象だ。

 また、マーケティング担当の永谷氏は「回線自動判別機能など国内の回線状況を考慮した細かな配慮もしている」ことを強調し、同じく下村氏も「スマート引っ越し機能を使えば、弊社製のWi-Fi 5の古いモデルからもWi-Fi設定だけでなくISP設定やルーター設定なども含めて簡単に移行できる」点をあらためて紹介してくれた。

スマホアプリも一新し、使い勝手を向上

 同社は、新製品が完成すると、それを回線事業者に提供し、問題なく接続できるかどうかを検証してもらったり、機能のフィードバックを受けたりしているという。さまざまな視点から安心できる製品作りに努力している印象だ。

 ハードウェア設計、ソフトウェア開発、部材調達、製造管理、品質管理、サポート、マーケティング、営業など、製品に携わるすべての関係者が、あきらめず、ユーザーのための製品作りに取り組んだ結果と言えるだろう。

 もしかすると、他社はもっとスマートで効率的な開発手法を取っているのかもしれないが、こうした泥臭さがバッファローらしいとも言える点だ。

価格も性能も最後まであきらめなかったバッファローの開発陣

ぜひ使ってみて欲しい

 以上、バッファローの「WXR9300BE6P」についてバッファローに話を聞いたが、想像以上にいろいろな人の思いが詰まった製品と言える。

 冒頭でも触れたようにWi-Fi 7は、対応製品が増え、これから普及期に入っていく。こうした中、ユーザーに自社製品を選んでもらうにはどうすればいいかが真剣に考えられ、その結果、何も妥協せずに生まれた製品という印象だ。

 スペック的に見てもお買い得感の高い製品だが、こうした熱い開発の思いに触れると、余計に使ってみたいと感じさせられる。店頭では見えないが、ぜひ背面から中にあるヒートシンクを想像してほしい。見えないところにこそ本製品への開発者の思いが詰まっている。

清水 理史

製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 11」ほか多数の著書がある。