トピック
Win11とvProの最強セキュリティから、生成AIのオンプレ化まで、分科会の見どころをピックアップ【Intel Connection 2023】
京大のスパコンは「GPUよりCPU」、インテル社長と自民党 副幹事長が語る「AIの可能性」など5講演をレポート
- 提供:
- インテル株式会社
2023年6月30日 06:00
Intelの日本法人インテル株式会社(以下両社合わせてIntel)は6月19日~20日の2日間にわたり、東京ミッドタウンホールにおいて同社の年次イベント「Intel Connection 2023」を開催した。この中でIntelは同社の安定したサプライチェーン、進化するムーアの法則、そして最近話題の生成AIを含むAIの民主化という3つの柱で、同社のソリューションなどに関しての説明を行った。
同イベントは、Intelやゲストによる基調講演や、同社の現場担当者やパートナーによる講演となる分科会などから構成されているが、本リポートでは、特に分科会の中から注目の講演を取り上げて紹介していきたい。
安定したサプライチェーン、ムーアの法則の進化、AIの民主化という3つの柱を掲げたIntel
Intelは同社製品を採用する顧客、あるいは同社製品向けのソフトウエアやハードウエアを開発する開発者向けのイベントとしてIDF(Intel Developer Forum)を開催しており、日本でもIDF Japanとして開催してきた歴史がある。
そのIDFは2015年にサンフランシスコで行われたイベントを最後に開催されなくなっていたのだが、2021年にサンフランシスコとバーチャルのハイブリッド形式で開催された「Intel Innovation 2021(イノベーション)」というイベントでそうした顧客、開発者向けの年次イベントが復活した形となる。
その後Intelは初夏に「Intel Vision」という同社のロードマップなどの戦略を顧客に説明するイベントを開催し、秋に技術的な話題を中心にしたIntel Innovationを開催する形を確立し、Vision、Innovationの最後の二文字をとって「on」シリーズとして同社の年次イベントを年に2回米国で開催する体制になっている。本年も9月19日~20日の2日間に米国カリフォルニア州サンノゼ市においてIntel Innovation 2023が開催される予定になっている。
そうしたIntel本国での「on」シリーズに加えて、日本のようなIntel現地法人が開催する「on」シリーズのイベントの名称が「Connection」とされており、本年日本で初めて開催されたのが今回の「Intel Connection 2023」になる。Intel Connection 2023では、インテル株式会社のトップエグゼクティブとゲストによる基調講演や、IT業界のスピーカーによる「分科会」から構成されており、両日の午前中が基調講演、午後が分科会というスケジュールで行われた。
初日(6月19日)の基調講演には、インテル株式会社 代表取締役社長 鈴木国正氏が登壇し、同社の基本戦略などに関して説明した。
鈴木氏は「Intelとしてはレジリエンスを備えたサプライチェーンの構築、国内のサプライヤーの皆さまとのより深い関係を含む進化するムーアの法則、そしてAIの民主化という3つのフォーカスで事業に取り組んでいる。特に昨今話題になっている生成AIに関しては、クラウド+エッジ、そして学習+推論という2軸での成長を目指していくが、重要な事は生成AIを責任あるAIにしていくことだ」と説明し、インテルのテクノロジーによって顧客が生成AIを活用できるような環境を提供していくが、それと同時に社会に対して責任あるAIにしていくと強調した。
鈴木氏の講演には、前半には衆議院議員 自由民主党 副幹事長 小林史明氏が、後半には株式会社デジタルガレージ 取締役 共同創業者 チーフアーキテクト、千葉工業大学変革センター センター長 伊藤穰一氏が登壇(伊藤氏はオンライン参加)し、それぞれ国や地方公共団体のデジタル・トランスフォーメーションについて、AIの可能性などに関して議論が行われた。
小林議員は「パンデミックになったあとデジタル化に向けてさまざまな見直しを行う中で、押印を必要とする法律の改正などに取り組んだ。すると電子契約の市場が2年で3倍になるなどの経済効果があった。これまで、さまざまな法律などの制約を変えてほしいと思っていても政治は取り組んでくれないという印象があったと思うが、これからはそうではなく法律の改正も含めて取り組んで行きたい」と述べ、与党・自民党としてデジタル・トランスフォーメーションの実現に制約になっている法律の改正など積極的に取り組んでいくという姿勢を表明した。
ダウングレード権行使のWindows 10 PCの提供は今年度まで、それまでにWindows 11へ移行を
株式会社日本HP エンタープライズ営業統括 営業戦略部 部長 松本英樹氏は「Windows 11 への移行とモダン管理」というタイトルで講演し、来年に迫るダウングレード権を行使してのWindows 10プレインストールPCの提供終了に伴って、企業がWindows 11にどのように乗り換えていくかに関しての説明を行った。
松本氏は「現在、HPをはじめとした多くのPCメーカーがWindows 10プレインストールPCを提供しているが、それはWindows 11のダウングレード権を行使した形での提供となっている。しかし、そのダウングレードの提供は2024年の3月31日で終了し、新しいPCを購入するときにはWindows 11を導入していただく形となる。また、2025年の10月14日にはWindows 10のサポート終了も迫っており、企業ユーザーにとって今後緩やかにWindows 11へ移行していくことが重要になる」と述べ、多くの企業にとってWindows 10からWindows 11へと軟着陸させていくことが重要だと強調した。
Windows 11はWindows 10のアップデートバージョンとして2021年にリリースされたこともあり、ベースとなる部分はかなり共通化されている。このため企業側でも従来のWindowsのアップグレードに比べると容易に乗り換えることが可能だと評価していると松本氏は指摘。加えてWindows 11ならではのメリットとしてセキュリティーやAIの拡張について説明した。
松本氏は「われわれの調査によれば、サイバー脅威が発生する場所の82%はエンドポイント、つまり従業員が利用しているPCだというのが管理者の認識で、ハイブリッドワークなどが当たり前になるにつれてその脅威は増している。そこで、OSが起動する前から脅威の監視を行うというのがトレンドで、Windows 11に関してもそうした機能が標準搭載されている」と述べ、Windows 11を採用するメリットは、エンドポイントのセキュリティーを実現することだと説明した。
松本氏は「HPはWolf Securityと呼ばれる独自のセキュリティー機能をファームウエアに実装することで、OSの起動前も含めてPCのデータを保護する仕組みを用意している。また、インテル vPro プラットフォームに対応したモデルでは、vProに用意されているハードウエアセキュリティーの機能を活用して、ファームウエアやメモリへの侵入を防ぐことができる。それらによりWindows 11のセキュリティー仕様の要件を上回るような、より高度なセキュリティーが提供可能になる」と述べ、同社が東京の工場でも生産してより広範囲に提供するようになったvProに対応したノートPCとの組み合わせがセキュリティー的にも最強のモデルだと説明した。
また、松本氏はIntelの最新CPUである第13世代インテルCoreプロセッサーが採用している「パフォーマンス・ハイブリッド・アーキテクチャ」に関して触れ、Pコア(高性能コア)とEコア(高効率コア)の2つをうまく組み合わせて、CPUに内蔵されている「インテル・スレッド・ディレクター」がWindows 11と連携しながら最適なコアに割り振って実行していくことで、高性能を実現していることに言及した。
松本氏は「われわれの検証ではWindows 10からWindows 11にするだけで約10%程度性能が向上する」と述べ、最新CPUの性能を生かす意味でもWindows 11にするメリットがあると強調した。
また、これからWindows 11の導入を検討している企業には「Windows Autopilot」と呼ばれる、Windows 11に標準搭載されている自動プロビジョニング機能の活用を呼びかけた。
Windows AutopilotはWindows OSのアクティベーションする時に、あらかじめ管理者が設定しておいて設定に基づいて自動で初期導入ソフトウエア(例えばMicrosoft 365アプリやZoomなどの必須アプリ)を自動でインストールする仕組みで、従来多くの企業が行っていた初期イメージの導入という作業を、クラウドベースで行うような機能だ。
松本氏は「Windows Autopilotを利用すると、在宅勤務や多拠点にPCを配布する場合でも、メーカーから直送したPCをユーザーに直送して、管理者は一切手を触れないゼロタッチで使い始められる」と述べ、Windows 11に切り替える場合には同時にWindows Autopilotの導入を行うと、管理者にとっても管理がより楽になると強調した。
松本氏によれば、HPでもそうしたWindows Autopilotを実現する各種の支援サービスを行っているほか、Windows Autopilotを利用するに必要なMDM機能のIntuneを拡張する「HP Connect for Intune」を用意しており、リモートでUEFIファーウエアの設定を自動で行えることを説明した。それにより、例えばUSBポートはキーボードやマウスは使えるけれど、USBドライブは利用不可にする、そうした設定もMDM経由で自動化が可能になり、そうしたファームウエアの設定も含めてゼロタッチにできると説明した。
京都大学の新スパコンはGPUよりもCPU、CPUの実効性能には広帯域メモリが重要
6月19日、20日両日の午後には、分科会と呼ばれる、より詳細な内容を説明する講演が行われた。同時間に3つの分科会が並行して行われており、AI、デジタル・トランスフォーメーション、サステナビリティなど多岐にわたる分野で講演が行われた。
国立大学法人京都大学 学術情報メディアセンター 准教授 深沢圭一郎氏は、「第4世代インテル Xeon スケーラブル・プロセッサーを搭載した京都大学新スーパー・コンピューター・システムの狙い」と題する講演を行い、京都大学が最近導入したスーパーコンピューターの詳細を説明した。
深沢氏は最初に京都大学のスーパーコンピューターの歴史を振り返り、1969年のFACOM-230-60が最初の世代で、80年代からしばらくは富士通のベクターコンピューターが続き、2004年にスカラー型の最初の世代になり、x86 CPUが導入されたのは2008年だったことなどを振り返った。その後2010年代はCARY製のサーバー機器を採用した時代となり、XeonやXeon PhiなどIntel CPUを搭載した世代が続いたことを明らかにした。
深沢氏は「2021年にリプレースすることを検討していた現在のシステム稼働に向けてさまざまな検討を行ってきた。メニーコアでメモリ帯域を増やすことに特化したシステムA、メモリ多めの汎用システムとなるシステムB、さらにシステムBの一部をより大容量メモリにしたシステムCとして検討してきた。それと同時にGPU系も少々用意しているが、研究者が欲しいといっているのは汎用性が高いCPUの方で、今回もGPUよりもCPUを中心にシステムを構築してきた」と述べ、京都大学のスーパーコンピューターがCPUを中心としたシステムになっていることを説明した。
そしてそのCPUとしてさまざまな可能性を検討してきたそうだが、結局システムAにはインテル Xeon Maxプロセッサー(以下Xeon Max)を、システムBには第4世代 インテル Xeon Scalable Processor(以下第4世代Xeon SP)を採用することを決めたという。その最大の理由として深沢氏は「第4世代Xeon SPにはAMXというアクセラレーターが内蔵されており、ソフトウエアにより最適化することで、従来のCPUはもちろんのこと、1つ前の世代のGPUよりも速く学習することが可能になる」と述べ、AMXなどのAIを高速に処理できるアクセラレーターが第4世代Xeon SPを採用した決めてだったと説明した。
また、HBM2eメモリという広帯域なメモリをパッケージ内に混載しているXeon Maxを採用したのは、「CPUの性能が上がらなくても、メモリの性能が上がると実効性能が上がることがよくある。Xeon Maxを事前にテストしてメモリ性能が大きく上がることを確認できていたので、CPUの実効性能が上がることを期待して選択した」と述べ、Xeon Maxではメモリの帯域幅が大きく広がることで、それがCPUの実効性能にいい影響を与えることを評価したと述べた。
ChatGPTのようなLLMはオンプレミスでも実現可能
インテル株式会社 AIセンター・オブ・エクセレンス AIテクニカル・ソリューション・スペシャリスト 大内山浩氏は、Intelが提供するAIソリューション、特に現在話題になっている生成AIに関する説明を行った。
大内山氏は「IntelはAIを活用してさまざまなDXを起こすことに取り組んでおり、グローバルに多くの企業で採用されている。そうした中でAIを導入する上で企業が最大の課題としているのが導入コストだ。そのコストを削減するにはAI人材、開発プロセスの見直し、そしてハードウエアを含むシステムコストの見直しが重要になる」と述べ、それらすべてでIntelがソリューションを提供していると説明した。
例えばAI人材不足の解消という観点ではAI人材を増やし、かつローコードやノーコードと呼ばれるようなプログラムを書く素養がなくてもプログラムを簡単に作れるソリューションが大事で、IntelではGeTiというツールを提供していることなどを説明。また、三豊市との提携など地方公共団体に対してAI教育プログラムを提供していくなどに地道な取り組みを行っており、AI人材不足解消に取り組んでいることを説明した。
開発プロセスの短縮という観点では、MLopsやAutoMLなどの先進技術の提供、さらには「インテルAIリファレンス・キットなどの提供により知見を提供する取り組みが紹介された。
そしてシステムコストの削減という観点では、「AIであってもCPUでやりきることがコスト削減では重要になる。そこで第4世代 Xeon SPのようなAIに特化した製品強化を進めており、CPUだけでやりきれるようにしている」と述べ、AMXのようなAI向けのアクセラレーターを搭載した第4世代 Xeon SPのような製品を強化していくことで、企業がAIアプリケーションを構築するときのシステムコストを最小化していくと説明した。
その上で今話題の生成AIに関して説明し、OpenAIのChatGPTなどが採用しているLLM(大規模言語モデル)を処理する上でのポイントについて説明した。
「ChatGPTのLLMとなるGPTは、世代が上がる度に大規模化しており、クラウドにあるモデルしか利用できないと考えているところは少なくない。しかし、実際にはGPTを自社のデータセンターインフラ上で動かすことは可能だし、近年はより性能を落とさずにLLMのモデルをできるだけ小さくする取り組みが行われており、その処理もGPU一択ではなくなっている。Intelでは、Hugging FaceのようなLLMを提供するソフトウエアベンダと協業を進めており、Xeon SP上で動かしたときに最適になるようなモデルの提供を進めている」と述べ、クラウド上で動くGPTだけが選択肢と思われているLLMであっても、自社のデータセンターにあるCPUでそのまま運用できる可能性があると強調し、それにより低コスト・短期間で開発できると説明した。
パブリックセクターのDX成功には、民間の活力導入が重要と三豊市 山下市長
三豊市 市長 山下昭史氏は「三豊市が進める共助領域等のDXとそれを支える人材育成」と題した講演を行い、同市のAIを活用したDXの取り組みについて説明した。三豊市(みとよし)は香川県の西部にある地方自治体で、人口約6万人で総面積222.70km 2 (2023年2月1日現在)という規模の市になる。
山下市長は「地方自治体は少子高齢化などさまざまな問題を抱えているが、われわれは民間による自助と行政による公助だけでなく、両方が協力することで実現する共助という考え方で市政を進めており、市民、企業、行政が一体になってDXを推進している」と述べ、DXを手段としつつ民間と行政が一体になって新しい市政を進めていると強調した。
そうしたことの具体例として、ChatGPTを活用し、ゴミ出し案内をAIのチャットボットで行う取り組みをしていると説明した。山下市長は「ゴミの分別は非常に複雑で、市民からの問い合わせに職員が対応していると時間がとられるという課題があった。そこで、ChatGPTを利用したチャットボットを構築。最初は使いモノになるレベルではなかったが、市民もそこに参加して少しずつ改善していくことを目指している」と述べ、いわゆる「アジャイル」な開発を市民サービスに導入し、同時にそこに市民自身も参加していくことで、サービスの向上を実現する開発を行っていると説明した。
そうした三豊市は「MAiZM」(マイズム)と同市が呼んでいる「みとよAI社会推進機構」という取り組みを行っており、日本におけるAI研究者の第一人者として知られる東京大学 松尾豊教授の松尾研究室が三豊市にサテライト研究室を置くなどして、AI人材育成やAI技術による地域課題解決を目指しているとのこと。山下市長によればIntelとは包括的な連携の締結を行っており、Intelから専門家を派遣し、三豊市や近接自治体でDXやデータ分析などに関する研修を行い、地元事業者や市役所職員などが参加して、DXの進展を加速させる取り組みなどを行っていると説明した。
山下氏は、こうした取り組みを行うきっかけとして「市の職員がSNSに海岸で撮影した画像を投稿したところ、海外からの観光客が大きく増えたという体験がある。そうしたデジタルパワーを認識したことが今のDXにつながっている」とのことで、今後もDXを市政の活性化に役立てて、住みやすい市を作っていきたいと説明した。