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著作権保護期間の延長問題、隣接権や制限規定への意見が挙がる~文化審


 文化庁の文化審議会著作権分科会は27日、「過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会」の第8回会合を開催した。前回の会合に続き、著作権保護期間の延長をテーマとした議論が行なわれた。


著作隣接権についても延長を求める意見

27日に開催された「過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会」第8回会合
 会合では新たに著作隣接権の保護期間に関する資料として、各国のレコードについての保護期間の一覧が配布された。レコードの保護期間は米国や中南米などでは70年以上となっている国が多いが、欧州は各国とも50年となっており、全体としては70年以上の国は一部にとどまっているという現状が示された。

 実演家著作隣接権センター運営委員の椎名和夫氏は、著作権は「死後」の起算であるのに対して、実演やレコードといった著作隣接権は「固定後」の起算となっており、実演家の場合には存命中に権利が切れてしまう事態が頻繁に起こっていると指摘。実演家についても起算を死後に改めるか、固定後起算のままでも平均余命の伸びに合わせて少なくとも存命中は保護されるようにするなど、実演家の保護期間についても議論してほしいと要望した。

 日本レコード協会専務理事の生野秀年氏も、「著作権と著作隣接権の違いについては歴史的な面があると思うが、なぜこうした実質的な格差があるのかという根拠はよくわからない」とコメント。映画の保護期間が延長された際には、映画と他の著作物との保護期間の差を是正するという点が理由とされており、「映画が70年に延びたのであれば、レコードはなぜ50年のままでいいのかといった点も議論してほしい」と求めた。

 東京大学教授の中山信弘氏は、「著作権と著作隣接権には様々な違いがあり、期間の違いはその中の一部の問題」だとして、保護期間の部分だけを議論するのは問題があるのではないかと指摘。立教大学准教授の上野達弘氏も、著作隣接権という制度自体の問題ではないかとして、隣接権の中でも実演家の保護期間については考慮するといった方向もありうるのではないかとしながらも、そうした方策は国際調和の観点からは日本だけが突飛なことをすることになるのではないかと指摘した。


データベースの実効性と国際調和の意義が論点に

 日本文芸家協会常務理事の三田誠広氏は、「現在流通しているコンテンツのほとんどは最近作られたもので、全体から見れば古いものはごくわずかであり、保護期間を延ばすことによって利用者に与える損失もごくわずかではないか」とした上で、延長した場合の問題は許諾を得るためのコストが増加する点にあると指摘。こうした問題を、これまでに議論してきた裁定制度の簡易化やデータベースの整備などを進めることで、利用者側からも延長されては困るという声は少なくなるではないかとした。

 中山氏はこれに対して、経済的な利益がある権利者の情報は整備されたとしても、それ以外の権利者情報の整備は困難であり、「データベースがあれば大丈夫といった意見は楽観的すぎるのではないか」と意見を述べた。

 日本写真著作権協会常務理事の瀬尾太一氏は、「データベースは保護期間の問題とは別に必要なもので、そういう点では三田氏とは違うスタンスだ」とした上で、延長の問題は国際的な調和という観点から考えて、主要なコンテンツ供給国である欧米に合わせて70年にすべきだと主張。インターネットを通じてコンテンツが世界中を流通する現在では、日本では保護期間が切れているが、欧米では保護期間内といったコンテンツがあるという状況は、たとえば日本のサーバーからコンテンツを配信する際の阻害要因となるのではないかと訴えた。

 中山氏は「そうした問題はインターネットの特質であって、保護期間だけでなく各国の法律が異なる以上、あらゆるところで生じる問題ではないか」として、なぜ保護期間だけを問題とするのかと質問した。これに対して瀬尾氏は、「解決できるところから順に対処すべき問題で、その手始めが保護期間の問題であると思う」と回答し、保護期間が短いということで海外のコンテンツが日本には提供されないといった事態が起これば、消費者にとってもマイナス要因となるのではないかとした。

 IT・音楽ジャーナリストの津田大介氏は、「そうした問題は起こりうるだろうが、コンテンツビジネスという点から考えると、現実的には障害にはならないのではないか」と主張。コンテンツを提供するかどうかは主にビジネスの問題だが、ビジネス面では判断材料となるのはその国のマーケットの規模などであり、保護期間の問題はほとんど関係ないのではないかと指摘した。


制限規定の見直しという方向性の提案も

 上野氏は、「これまでの議論からは、権利制限の見直しという方向での検討も必要ではないか」と主張。「表現の自由や公正な利用をどう担保するのかといったことは著作権制度それ自体の問題で、保護期間の問題はそれが20年違うかどうかというだけの話。アーカイブや二次創作が大事であるとするならば、そこは権利制限できちんと確保していくことが重要ではないか」として、権利制限の見直しやフェアユース規定の導入なども論点としてあってもいいのではないかとした。

 これに対して瀬尾氏は、「少し違う次元の話ではないか」として、そうした議論はまた別の場が必要ではないかと主張。中山氏も、権利制限は著作物全体に及ぶ問題なので、議題としては大きすぎるのではないかとした。

 津田氏は「そういう視点も大事だと思う」として、小委員会に「保護と利用に関する」という名前がついているように、幅広く議論することは必要だと主張。ただし、延長を求める声としては、著作物を勝手に使われたくないといった意見も出ており、それと真っ向から対立する意見が受け入れられるかどうかは疑問だと述べた。

 三田氏も「著作権は非常に強い権利であるので、それが50年で切れるのはありがたい、延ばすのは困るという話にもなる。そうした強い権利というものがそのままでいいのかという点については、議論する必要があると思う」とコメント。また、提案している利用円滑策の実現可能性については、「たとえば『裁定制度の簡易化は無理だ』と文化庁が判断するのであれば、そもそも実現できない話ということになってしまう」として、今後は円滑策に対する文化庁の意見も求めていきたいと訴えた。


関連情報

URL
  文化審議会
  http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/bunka/index.htm

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( 三柳英樹 )
2007/09/28 11:30

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