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「日本版フェアユース規定」の導入を提言、知財戦略本部の専門調査会


デジタル・ネット時代における知財制度専門調査会の第9回会合
 政府の知的財産戦略本部に設置された「デジタル・ネット時代における知財制度専門調査会」は29日、今後の知財制度のあり方に関する報告書案を提示した。報告書案では、権利者の利益を不当に害しない公正な利用であれば許諾なしに著作物を利用できるようにする、いわゆる「フェアユース規定」の導入を提言している。専門調査会では、パブリックコメントなどを経て年内に報告書をまとめる。具体的な法制化に向けては、文化審議会で検討が行われる見通し。

 現行の著作権法では、私的使用のための複製や引用のための利用、図書館、学校など教育機関における複製など、個別のケースごとに許諾なしに著作物が利用できるとする「権利制限規定」が設けられている。専門調査会では、インターネット時代において早急に対応すべき課題として、検索サービスや通信時のキャッシュ、リバースエンジニアリングなどに対しても個別の権利制限規定を設けるべきという提言を5月に行っている。

 一方で、こうした個別の列挙方式による権利制限規定では、新たなコンテンツ利用形態のネット関連ビジネスなどが登場しても、既存の権利制限規定に該当しなければ形式的には違法となってしまう。こうしたことから、専門調査会では、新たな技術やサービスの出現に柔軟に対応できる法制度とするため、権利者の利益を不当に害しない公正な利用であれば許諾なしに著作物を利用できるようにする、フェアユース規定を設けることについて検討を行ってきた。

 報告書案では検討の結果として、個別の制限規定に加えて、権利者の利益を不当に侵害しない範囲で公正な利用を包括的に許容しうる権利制限の一般規定(日本版フェアユース規定)を導入することが適当であると結論付けている。ただし、専門調査会で実施したヒアリングでは、フェアユース規定の導入による違法な利用行為の蔓延や、司法の判断によってしか解決できなくなると権利者にさらなる負担を強いるのではないかといった意見があったとして、導入にあたってはこうした点を踏まえつつ実際の規定を検討する必要があるとしている。

 また、個別の権利制限規定については、有識者による審議や国会の手続きを経て確立した著作物利用のルールであり、利用者側の予見可能性や適正・迅速な裁判の確立という観点からは、法改正までの時間はかかるものの、個別具体的な規定の方が望ましいと考えられると指摘。このため、フェアユース規定が導入された後も、必要に応じて権利制限の個別規定を追加していくことが必要だとしている。


コンテンツの流通促進方策、ネット上の違法コンテンツ対策についても言及

 報告書案ではこのほか、コンテンツの流通促進方策と、ネット上に流通する違法コンテンツへの対策の強化についても検討の結果をまとめている。コンテンツの流通促進方策については、権利者団体などによる権利の集中管理の促進や、事業者に対してネット上の利用に対応した契約ルールを定めることを促すなど、契約による処理を一層促進するための取り組みを早急に進めることが必要だとしている。その上で、こうした契約促進の取り組みの進展状況を踏まえて、法的対応の検討を進める必要があるとしている。

 ネット上に流通する違法コンテンツへの対策の強化については、コピー制御やアクセス制御などを回避する機器などに対して、不正競争防止法による規制を見直すことなどを挙げている。著作権侵害に対するISPの責任については、業界の自主的な取り組みをさらに発展させるとともに、制度上の見直しについても検討を行うことが必要としている。

 また、事業者が提供するサービスの利用者が著作権を侵害しているケースで、事業者も侵害行為の主体にあたるとして差止請求を認める裁判例が見受けられるとして、こうしたいわゆる「間接侵害」への対応についても検討を行っている。報告書案では、侵害行為を抑制するとともに、利便性向上によるコンテンツの新たな需要を喚起するようなサービスなどを安心して提供できるようにすることが必要だと指摘。また、裁判例では必ずしも一致した認識に基づいているとは考えられないとして、著作権法における間接侵害の明確化に関する検討を早急に進め、行為主体の考え方をはじめ差止請求の範囲を明確化することなどが必要だとしている。


関連情報

URL
  デジタル・ネット時代における知財制度専門調査会
  http://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/tyousakai/digital/index.html

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( 三柳英樹 )
2008/10/29 16:41

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