山谷剛史のマンスリー・チャイナネット事件簿

2009年7月:建国60周年を前に、ネット管理強化を計画 ほか


 本連載では、中国のネット関連ニュース(+α)からいくつかピックアップして、中国在住の筆者が“中国に行ったことのない方にもわかりやすく”をモットーに、中国のインターネットにまつわる政府が絡む堅いニュースから三面ニュースまで、それに中国インターネットのトレンドなどをレポートしていきます。

建国60周年を前に、ネット管理強化を計画

7月にサービスが始まった百度ディスカバリーチャンネル。新サービスが多数立ち上がる一方で、10月の建国60周年を控えたコンテンツ規制も始まっている

 前回も冒頭でご紹介した、フィルタリングソフト「グリーン・ダム(「緑〓」、〓は土へんに覇)」。当初はすべてのPCへのインストールを必須としたものの、無期延期になっているかたちだ。実際、新華社の報道によれば中国最大の電脳街「中関村」でも、レノボやHP、DELLなどのメーカー代理店でもインストールしておらず、結局のところ誰もインストールしないという状況となっている。

 しかし、中国政府各省(各部)は、グリーン・ダムの頓挫で方針変更をする気はないようだ。中国ではこの2009年の10月に建国60周年を迎える。予定されている記念式典などに備えて治安強化策が図られているが、ネットについても、管理を強化することを発表した。当局発表によれば、8月から10月にかけ、ポルノサイトなど違法サイトの粛清を強化する。利用者が急増している、携帯電話向けのWAPサイトへの調査も強化するという。

 最近、なにかと話題のTwitterだが、Twitterのサイトが7月20日頃から中国国内からアクセスできなくなっている。人気のサービスは必ず類似サービスが提供されている中国のこと、飯否(fanfou)というTwitterと同様のサービスを提供するサイトがやはりある。ところが、この飯否までもがアクセス禁止になっているようだ。

 その他にも、7月後半には、Picasa Web Albumなどいろいろなサイトが7月ごろからアクセス禁止になっているとの中国のインターネット利用者による報告がブログ記事にあがっている。記念式典に向けてのサイト粛正と規制は、腰砕けのかっこうになったフィルタリング規制と違って本気のようなのだ。

中国のネット利用者が3億3800万人に

 6月末の時点でのインターネット利用者は3億3800万人になり、ブロードバンド利用者は、その94.3%にあたる3億183万人、携帯電話による利用者は1億5500万人となった。詳しくは本誌7月21日掲載の記事「中国のブロードバンド利用者が3億人を突破」を参照されたい。

SNS人気がより鮮明に

 Facebook似のSNS乱立を経て、「校内網」や「開心網」など、いくつかの人気SNSサイトが台頭してきている。最近では、ネット利用者が知り合いに利用を呼びかけているのもよく見かける。そうしたSNSサービスの人気上昇を裏づけるような関連のニュースがあったのでご紹介しよう。

 ひとつは7月2日に、人気のSNSサイト「開心網( http://www.kaixin001.com/ )」向けに、新華社がニュース動画の配信を開始するというニュース。もうひとつは7月15日、中国3大ポータルのひとつ「捜狐」が、SNSサイト「捜狐白社会( http://bai.sohu.com/ )」を開始したというニュースだ。

 サイト名の「捜狐白社会」だが、白社会の“白”は中国語でホワイトワーカーを意味する「白領」から取ったもの。つまり、社会人をターゲットにしたSNSだ。中国で最も人気のあるSNSサイト「校内網( http://www.kaixin001.com/ )」が大学生などの支持を集めているため、まだSNS利用者の少ない年齢層・職業層を狙ったわけだ。

 先行する「校内網」だが、こちらもFaceBookでいうところの「Facebook Pages」のように、校内網に企業が設置した専用ページにアクセスして、商品などのレビューができる機能を付けると発表した。

新華社がニュース動画の配信を開始した人気のSNSサイト「開心網」SNSサイト「校内網」。その名の通り、大学生に人気のSNSだ中国3大ポータルのひとつ「捜狐」が社会人向けに開始したSNSサイト「捜狐白社会」

「ネット依存症に脳電流治療」を行う医師に政府がNO!

 中国政府衛生部は、インターネット依存症となった若者らに対し、脳に微電流を流して治療する方法を禁止するとのお触れを出した。これはつまり、お触れ発布まで話題となっていた「全国戒網専家」を自称する医師「揚永信」氏への医療停止通告だ。

 揚氏のところには中国全土から、子供を連れた親が子供に治療を受けさせるために集まってきていた。揚氏は、親に連れられたネット依存症の若者たちを半ば強引に入院させ、痛みを伴う2~5ミリアンペアの電流を脳に流す嫌悪療法(インターネットを利用すると気分が悪くなるようにする)で治療していた。

 揚氏は今春からインターネット依存症治療センターに配属され、治療を施していくうちに、多くの病院の患者がネット上で報告、メディアも取材しはじめ話題となる一方で、その手法が多くのネット利用者から批判されていた。

脳電流治療について考察するポータルサイト新浪の記事特集脳電流治療の話題に、ポータルサイト網易(NetEase)では1300件以上の反響の書き込みがあった

人気ショッピングサイト「淘宝網」、悪質なIDを1万7000件削除

 中国ナンバー1の人気ショッピングサイト「淘宝網(TAOBAO、 http://www.taobao.com/ )」。ユーザーは現在も増え続けているが、その中には競合ライバル店の営業妨害のために作ったアカウントも少なくない。

 7月24日、淘宝網は「誠信自査行動」と称し、悪質だと認定するユーザーアカウント1万7000件を削除した(淘宝網のユーザーアカウント総数は6200万)。これら悪質と認定されたユーザーは、店舗に対して多数の注文をした上で注文をキャンセルしたり、意図的に店の評判を下げるなどの迷惑行為をしていた。ひどいケースでは、200件を超すアカウントが同時に同じ商品を注文してキャンセルするということもあった。

 淘宝網の販売者コミュニティーとなる掲示板では、ID大量削除という淘宝網の対処を評価する意見が多い。しかし、一方で淘宝網の悪意のあるなしの認定基準に疑問を呈する意見もあった。

 ネットに限らず、日本では競合相手がいれば、相手よりも優れたモノやサービスを提供することで相手に勝とうとすることが多いのに対して、中国人は相手の評判を下げることで、相対的に相手より上に立とうとする傾向が強い。このため、詐欺などとは性質の違う、競争相手の妨害行為も多く行われていることが今回のID大量削除の背景にある。

淘宝網で海賊版コンテンツを扱うショップが訴えられる

 淘宝網で、書籍「盗墓筆記4」の海賊版が売られていたため、出版社の「中国友誼出版公司」が販売店と、販売店が入居していたショッピングポータルサイト「淘宝網」に対して訴えを起こしていた。

 この裁判で北京市東城区人民法院は、淘宝網と販売店オーナーに対し、出版社に合計2000元(3万円弱)を支払うよう命じた。ちなみに書籍「盗墓筆記4」の定価は32元(約450円)、実売価格は20元(300円弱)前後。

 なお、中国で一般に流通している書籍の海賊版は、各ページをコピーして製品したものや、書籍を見ながら再入力して出力、製本したもの。従って、印刷品質が劣っていたり、誤植が散見されたりと、印刷品質は本物より劣っている。

 淘宝網内のショップでは、日本のコンテンツの海賊版も多数販売されているのが現状だ。今回の判例をもとに、日本のコンテンツホルダーも淘宝網と販売点(出品者)に厳しい法的対処を求めることもできるかもしれない。

淘宝網では日本のコンテンツの海賊版も多数販売淘宝網で売られている「盗墓筆記4」

皆既日食、あいにくの天気もスペシャルサイトは大繁盛

 日本でもツアーが組まれたり、日食観察グッズが販売されたり、オンラインでライブ配信されたりと、たびたび話題になった皆既日食。中国大陸でも見られるとあって、中国でも大きな話題となった。グーグル中国や、動画共有サイトの「優酷(YOUKU)」や、チャットソフトQQで知られる「騰訊網」など、多くのポータルサイトが特集を組んだ。

 ところが、当日は中国の多くの皆既日食帯となった地域でもあいにくの天気で、ライブカメラも真っ黒。にもかかわらず、中国の調査サイト「万瑞数据(WRATING)」によれば、日食当日、主要ポータルサイトの日食特設サイトのUVの合計は約1200万、PVの合計は3500万超を記録した。アクセス元は上位より、広東省、江蘇省、浙江省、北京市、上海市と、沿岸部の比較的豊かな地域に集中した。

皆既日食の特設ページとなったグーグル中国のトップページ

人気チャットソフトのアカウントが400万円以上で取引される

 ゾロ目など、覚えやすい携帯電話の番号は高値で取引されることは日本を含め中国以外でも普通にあることだが、中国では、人気のチャットソフト「QQ」のアカウントも、覚えやすいゾロ目の番号などを中心に、高い値段で取引される。

 7月には、アカウント番号「99999」が、過去最高額の30万元(420万円強)で売りに出され、すぐに買い手が見つかったというニュースが報じられた。

 ところが、こうした人気のアカウント取得は、過去のアカウント番号売買のニュースをたどっていくと、合法的な努力や運によって入手したものではなく、クラッキングして得たものであるという場合が実は非常に多い。

 2009年4月、アカウント番号「98888」が15万元(210万円強)で売り出されたが、販売者は同時に46ものQQのアカウントを売り出していた。最終的にはこれらの番号は窃盗により得た番号だとわかり、警察は販売者を逮捕している。

 この4月の事件があったために、今回のニュースでは販売者が逮捕されたというような事実はいまのところないのだが、報じる中国メディアの記事は入手方法に問題があるのではないかと勘ぐるむきもあり、素直に高値で売れた幸運を報じるという論調ではなかった。

グーグル中国、検索市場で健闘するも百度に追いつかず

 中国のリサーチ会社「易観国際(Analysys International)」が発表した「2009年第2四半期検索広告市場調査」によれば、検索サイトのシェアについて、百度が61.6%のシェアを、グーグル中国が29.1%のシェアを、ヤフー中国が5.6%のシェアを、残りの3%程度のシェアを他の中国産の検索サイト数サイトで占める結果となった。前期比で、若干百度がグーグル中国を引き離す結果となった。

 互聯網数据中心(DCCI)は、今年上半期の各検索サイトの検索回数を分析。その結果は百度が81.9%、グーグル中国が6.7%と、百度がグーグル中国に大差をつけた。以下、チャットソフトQQによる騰訊捜捜という検索サイトが5.4%、ポータルサイト捜狐による捜狗という検索サイトが2.3%となった。Yahoo中国は入っていない。

 グーグル中国、百度とも、積極的に新サービスや新コンテンツを増やしている。7月においても、百度はディスカバリーチャンネルと提携。百度サイト内にディスカバリーチャンネルサイト( http://discovery.baidu.com/ )を創設し、グーグル中国は皆既日食のライブ映像をはじめとした、皆既日食の情報をトップページに掲載した。

2009年上半期中国検索サイト検索数別シェア2009年第2四半期中国検索サイト市場シェア

金融危機下、B2B市場、B2C市場ともに前期比増を記録

 金融危機下にも関わらず、オンラインショッピング市場は拡大した。リサーチ会社の易観国際(Analysys International)によると、2009年第2四半期のオンラインでのC2C(個人対個人取引)の規模は前期比20%増、前年同期比106%増の528億8900万元(7400億円強)、オンラインでのB2C(企業対個人取引)の規模は前期比30%増、前年同期比155%増の45億4400万元(約640億円)、オンラインでのB2B(企業対企業取引)は前期比3.5%増、前年同期比18.5%増の14億7000万元(約210億円)となった。

2008第1四半期から2009年第2四半期までのB2C市場規模(単位:億元)

関連情報

2009/8/11 11:00


山谷 剛史
海外専門のITライター。カバー範囲は中国・北欧・インド・東南アジア。さらなるエリア拡大を目指して日々精進中。現在中国滞在中。