VPSは想定の30倍の申し込みが殺到!
KDDIウェブコミュニケーションズのクラウド戦略


 株式会社KDDIウェブコミュニケーションズは、2011年11月に新しいサービスブランド「CloudCore」をスタートした。実際のサービスとしては、まず、月額945円から(12カ月契約初年度月額費用割引キャンペーン適用時)のVPSサービス「CloudCore VPS」を提供。12月には、中小企業向けにVPSや専用サーバーなどのインフラと、システム構築や運用までをサポートする「CloudCore Hybrid」を発表した。

 矢継ぎ早に発表されたCloudCoreブランドのサービスについて、株式会社KDDIウェブコミュニケーションズ SMB事業本部 ホスティング事業担当 副本部長 角俊和氏と、同社ホスティング事業部 開発チーム シニアディレクター 浦井直樹氏に聞いた。(以下、文中敬称略)

Cloud Core VPSに想定の30倍の申し込みが殺到

株式会社KDDIウェブコミュニケーションズ SMB事業本部 ホスティング事業担当 副本部長 角俊和氏

―― CloudCoreという名前で、VPSサービスのCloudCore VPSと、システム構築までサポートするCloudCore Hybridを始めたわけですが、ブランドとしてのコンセプトは

角:共通して「利用者が楽になる」ということを念頭に置いています。いま、世界的にクラウドがブームです。われわれも実際に使ってみて気付いたこととしては、海外のクラウドなどは、中小企業のエンジニアが、いままで慣れ親しんできた環境からスムーズに移行できるかというと難しい。

 たとえばオートスケールなど必要な管理を、APIを組み合わせて設計・検証し、一から構築する、といったことができるエンジニアとなると、ある程度限られます。CloudCoreではそれに対し、自分たちが使って楽になれる、自分たち目線で便利なサービスを、というのが共通のメッセージです。

 CloudCore VPSもCloudCore Hybridも、もともと相当するサービスがあったんですが、中身を一新してスタートしました。CloudCore VPSは、仮想化技術としてKVMを採用し、インフラをフルスクラッチで、2か月ちょっとで自社開発しました。今後、管理用のWeb APIなどの機能追加も予定しています。エンジニアが欲しいサービスをエンジニアが作った、というところです。

―― VPSはいま何社か参入していますが、その中でのCloudCore VPSは

角:VPSは10年以上前からありますが、正直、まともに使われてこなかったと思っています。ひとつには、ほとんどがコンテナ型の仮想化技術が使われていたんですが、他人の影響を受けやすく、トラブルが起きがちなんですね。

 それに対し、CloudCore VPSはKVMでサーバーを完全仮想化している点が、最も大きな相違点かなと思います。OSも豊富に選べるようにしますし、ディスクイメージのスナップショットをとる機能も用意しました。いま、KVMベースのVPSをサービスインしているのは、さくらインターネットさんと弊社ぐらいだと思います。

―― 「さくらのVPS」とは価格面も含め比較されると思いますが

角:よく言われます(笑)。同じ価格帯でスペックを比較すると、ベンチマークの数字ではいまのところ負けています。このあと追いついていこうと計画してますが。

 ただ、同じ価格帯で、4倍のメモリ容量を提供しているんですね。一昔前の専用サーバーなみのスペックです。そのため、実際にWebアプリケーションを動かすお客さんなどに、違う切り口のスペック展開で利用していただけるんじゃないかと思っていますし、そういう声もいただいています。

 実際に、予想をはるかに超えた、想定の30倍以上の申し込みという反響があって、3日でサーバーの在庫切れが起きてしまいました。嬉しい誤算で、方針を間違ってはいなかったと思っています。

サービスブランド発表と同時に、CloudCoreサイトを開設CloudCore VPSの管理コンソール


テンプレート化したサーバー構築を低価格で提供するCloudCore Hybrid

角:一方のCloudCore Hybridは、VPSなどのクラウド基盤だけではなく、専用サーバーやロードバランサー、スイッチなどの機器を組み合わせて、お客さんの環境に合わせたソリューションをわれわれが提案するというものです。要望があれば、システムを構築し、運用までするフルマネージドサービスも提供します。

―― SIと重なる部分もあると思いますが、位置づけとしては

角:SIですと、詳細に打ち合わせて、きめこまかい提案をしてくれます。そのかわり、お金がかかる。われわれのターゲットは中小企業で、それも従業員数が100人以下とか、2桁前半とかいった規模を想定しています。そういった方々がSIerさんに依頼するのは予算的に難しい。

 ただし、定石はだいたいパターン化されるのではないかと予想しています。例えば、Webサーバーやメールサーバーを立てたり、インフラを冗長化したり、キャンペーンのときには設備を増強したり、などですね。そうしたベストプラクティスを、ある程度型にはめて提案するのがCloudCore Hybridの特徴です。また、CloudCore Hybridでは、オンラインの問い合わせ窓口をご用意し、テレビ電話やチャットで専任の担当者がお客さまからの問い合わせに対応しています。お客さまの会社へ要望のヒアリングに伺い、社内に持ち帰りまた提案内容を伝えに伺うというような、訪問型のやり取りは行いません。そのため、訪問を待つ、提案を待つというような無駄な時間を削減できます。さらに、もうひとつの利点として、弊社の担当者が訪問という形で動くことがないので、コストも削減できます。その削減したコスト分をサービスの料金に反映させているので、各プランの料金を低価格に設定できました。全体的にSIよりはだいぶライトで、お客さん自身がやるよりはしっかりと、という間を狙った形ですね。

―― うまく型にはまるものでしょうか

角:実際にはプラスアルファなどの提案をすることもありますが、想定パターンも多くの種類を用意していますし、想定パターンをベースにお客さまに合わせて提案できると思うので、ご満足いただけると思います。

―― どのような用途が多いのでしょうか

角:大きく分けるとWeb系と社内系と分けられると思いますが、どちらかというとWeb系がやや多いですね。あとから増やしたり減らしたりという点で。一方で、Active Directoryを使ったファイルサーバーなど社内系の案件も非常に多いですね。

―― 新規システムと、既存システムの移行とでは

角:どちらかというと、既存システムベースのほうですね。既存システムに不満があって移行すると。ただ、不満があっての移行なので新規に近い要素も多いですね。ゼロから新規にシステムを作るというのは、あまり多くはない。

 いま、内部統制への対応などで、社内に資産を置くのは望ましくないという声も上がっています。また、よくある例で、中小企業の社内システムですと、構築して何年かすると、ハードウェアのサポート期間が切れていたり、担当者が異動していたりと、放置状態になっていることも多い。自社サーバーを抱えている中小企業に共通の悩みですね。そのような古い資産をなんとかしたいがお金はかけられない、というときなどに、われわれがベストプラクティスを提供します。

―― 顧客企業側は、情報システム部門の方が担当されるのでしょうか

角:案件によっていろいろですね。われわれに依頼されるお客様ですと、専門の情報システム部門のない企業が多く、兼務されているんですね。サーバー管理者になってはいるがメインの仕事ではなく、営業ですとか総務といった別の業務をメインで担当されていてサーバー管理を兼務されている。ウェブの管理者なら、デザイナーの方が兼務されているケースもあります。共通しているのは、情報システムが専門分野というわけではない方ということですね。

―― そのあたりが、CloudCore VPSとCloudCore Hybridのターゲットの違いでしょうか

角:はい。どちらかというと、CloudCore VPSはエンジニアの方向け、CloudCore Hybridは前述したような中小企業のシステム担当者様向け、というイメージです。


基盤ソフトウェアを自社開発、ハードウェアも電力コストを考えて選択

同社ホスティング事業部 開発チーム シニアディレクター 浦井直樹氏

―― システムを2カ月で自社開発したというのは早いですね。

角:クラウド基盤やデプロイの仕組み、課金システムなどを、オープンソースの既存技術をもとに、自分たちで作りました。選択肢としてはCloudStackなどの統合パッケージもあるわけですが、それを選ばなかったというのがわれわれのこだわりです。ありものを買ったほうが安く上がったかもしれません。ただ、自社にノウハウを蓄積したいということと、顧客の要望にも柔軟かつ安価に対応できることから、自社開発を選びました。

浦井:KVM自体は他社ですでに実績があったので、開発の主眼としたのは、KVMを使ったシステム全体をどうコントロールするかの設計でした。そのため、開発にあたっては、社内のエンジニアに、どういったシステムが欲しいかを聞いて回りました。

 最近では、Web系で高トラフィックをさばいた経験のあるエンジニアも弊社に入ってきています。そうした人たちがどういうシステムが欲しいか要望を聞いて、それも視野に入れてサービス化しました。どこにキャッシュを置くのかや、どのぐらいでサーバーを分散するのかなど、データベースをどうレプリケーションするのかといった、サーバーの使い方ですね。

―― 開発メンバーの人数は

浦井:デザインやプロモーションの方々も含めると大人数になりますが、実際に開発で手を動かしたのは4~5人です。ネットワークまわり、OSとKVMまわり、Webアプリケーションの部分、それらをつなぎこむ部分と、部分ごとに担当者がつきました。

 最初にそうした部分ごとのインターフェイスの仕様を決めたのが、スムーズに2カ月で開発できた要因だと思っています。スキルの高いメンバーというのも大きかったですね。弊社がいままで培ってきたインフラ系のノウハウと、最近取り入れたウェブ系のノウハウと、両方が揃ってきたタイミングで、バランスよくシステムを作れたと思います。

―― 戦略的ともいえる思い切った価格付けに踏み切った経緯を教えてください。

角:市場競争力のある価格ということで、価格から先に考えました。ただ、その価格をどうやって実現するのか、原価をどう圧縮するかで、だいぶ試行錯誤しました。

 ホスティング事業者は、データセンター代、特に電気代との戦いなんですよ。そこで、このマザーボードは電気を食うとか、このメモリ1枚で何ワット使うとか、そういったことを繰り返し検討して、このハードウェア構成でいこうと決めました。

 ただ、受注生産の特殊な構成になったため、サーバーの在庫切れになったときにすぐに追加できず、ユーザーの皆様にはお待ちいただくことになり、ご迷惑をおかけしました。

浦井:運用も楽になるように、サーバーを追加するときに、ラックに入れてネットワークにつなぐだけで環境構築できる仕組みを作りました。とはいえ、サーバー自体が調達できないと、手も足も出ないものですから。サーバー機の調達については、タイの洪水の影響も多少あったようです。


サーバーのイメージをそのまま持ってきて動かせるサービスを目指したい

―― 今後の機能追加などの予定は

角:最優先で、利用できるOSをどんどん増やします。最初に、いちばん要望が多いUbuntuのほか、Debian、FreeBSD、NetBSDに対応します。

 NetBSDは、なかば社内エンジニアの趣味ですが、エンジニア視点でニヤリとしてもらえるもの、エンジニアの嬉しいものを作っていきたいなと。実はCloudCoreの裏目標に、「弊社のエンジニアが使ってくれるサービスにする」というのがあるんです(笑)

 また、ストレージの提供を考えています。Amazon S3のようなオブジェクトストレージではなく、増設ディスクのように使える領域を、必要な分だけ追加できるタイプのものです。

―― Amazon EC2などのような従量課金サービスは

角:最初はやる方向で検討していたのですが、「クラウド破産」という言葉もあるように、使いすぎることを心配するネガティブな反応が顧客企業側で強く、やる必要があるのか疑問に思っています。

 それよりは、自社にある物理インフラをそのまま仮想サーバーに持ってこられるようなサービスを将来的に目指したいなと。物理サーバーのイメージファイルを作ってアップロードし、ネットワーク設定を書きかえればすぐ動くような。自社サービスの中だけではなく、他社のクラウドから弊社へ移行するとか、弊社から他社へ移行するといったケースにも対応できると、お客様から見て事業者の選択の幅が広がります。お客様もシステムを作り直すのは難しいですし、契約後も気軽に乗り換えていただくこともできる。冗長構成をとるのにも使えます。

 やるべきことはいろいろありますが、身の丈目線で考えていきます。まずは、お客様がいま自宅やオフィス内に設置しているサーバーをCloudCore VPSに、というのが2012年の目標ですね。自宅やオフィス内のサーバーは、スペックが低くて、電気代がかさみ、自分で保守する必要があるというものになっています。自宅でテレビの録画サーバーを動かすなど、テレビと同じ家の中に置く必要があるようなサーバーを除けば、CloudCore VPSのほうが圧倒的にメリットがあります。

―― CloudCore VPSとCloudCore Hybrid以外については

角:いま、CloudCoreでは、開発者支援制度を実施しています。開発者コミュニティにCloudCore VPSを無償提供し、勉強会などのために弊社のセミナールームも無料で貸し出しています。実際始めてみると、これが予想以上に反響がありました。われわれとしては、コミュニティの方々のニーズを聞くことで、エッジの立った技術者、最先端のエンジニアに選んでいただけるサービスにしていきたいなと考えています。

 そういう意味では、大学からも引き合いが来ているんです。計算クラスターとして、とか、研究者に1つずつインスタンスを与える、といったお話をいただいています。いまの料金体系と合わない部分もあるのですが、今後、おもしろい形に発展させられるといいなと思っています。

 また、CloudCoreのプラットフォームは社内のクラウド基盤でもあります。この基盤上に、内部的にホスティングなどの自社サービスを乗せて効率化していく予定です。自社で導入し得られたノウハウで、よりお客様の役に立つサービスにしていきたいですね。



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(高橋 正和)

2012/1/25 06:00