DSソフトは“映画の著作物”、海賊版をダウンロードしたら違法

ACCSが主張、文化庁著作権課も同様の見解

ACCSで法務担当マネージャーを務める中川文憲氏

 権利者に無断でアップロードされている音楽や映像を、著作権を侵害した配信であると知りながらダウンロードする行為が違法となった。いわゆる“ダウンロード違法化”を盛り込んだ改正著作権法が、2010年1月1日に施行されたためだ。

 ダウンロード違法化の対象となる著作物は「デジタル方式の録音又は録画」(改正著作権法第30条)。一般的には携帯電話向けの“違法着うた”や、ファイル共有ネットワークにアップロードされている映画やアニメ、音楽などがそれに当たるとされている。

 一方で、最近ではニンテンドーDS用ゲームソフトの海賊版配信も問題となっているが、“コンピュータープログラム”については、現状ではダウンロード違法化の対象として明示されていない。コンピュータソフトウェア著作権協会(ACCS)では以前より、コンピュータープログラムの著作物についても対象にすべきと訴えており、この点については文化審議会の法制問題小委員会において議論される予定となっている。

 しかし、ACCSで法務担当マネージャーを務める中川文憲氏は、現行の改正著作権法においても「ゲームソフトは、ダウンロード違法化の対象に含まれる」と主張する。ゲームソフトは“映画の著作物”に該当するため、ダウンロード違法化の対象とされている“映像”に含まれると解釈できるのだという。

ゲームソフトが映画とみなされた「パックマン事件」とは

 中川氏が指摘するように、ゲームソフトは過去の複数の裁判で、映画の著作物に当たると判断されている。例えば、喫茶店を経営する企業が「パックマン」を無断複製したゲーム機を喫茶店に設置していたとして、販売元のナムコが損害賠償を求めた「パックマン事件」(東京地方裁判所、1984年9月)などが有名だ。

 パックマン事件の判決では、「映画の著作物」の要件として、1)映画の効果に類似する視覚的または視聴覚的効果を生じさせる方法で表現されていること、2)物に固定されていること、3)著作物であること――を挙げ、パックマンの映像は映画の著作物に該当するとされた。

 こうしたことからACCSは、パックマンでさえ映画の著作物に該当するのだから、グラフィックが進化し、動画シーンも多く含まれている現在のゲームソフトであれば、当然、映画の著作物に該当すると説明。違法にアップロードされたゲームソフトのファイルを、違法と知りつつダウンロードする行為は違法であると主張しているわけだ。

「三國志III」は対象外? PC用ソフトも今後の検討課題

 ただし、すべてのゲームソフトが「映画の著作物」とは言い切れないという。例えば、「三國志III」の登場人物の能力値を変更するプログラムが、同一性保持権を侵害するかどうかが争われた「三國志III事件」では、映画の著作物性が否定されている。

 理由は、三國志IIIは静止画像が圧倒的に多く、動画が用いられているのはごく一部分だったためだ。アニメーションがなく、静止画像が大半を占める文学ソフトなども、映画の著作物には該当しない可能性が高いという。

 このほか、PC用のビジネスソフトなども映画の著作物には該当しない。ACCSでは引き続き、会員企業の著作物であるコンピュータープログラムを保護するためにも、ダウンロード違法化の対象にコンピュータープログラムを盛り込むことを要請していくとしている。

文化庁も「ゲームソフト=映画の著作物」との見解

 中川氏によれば、ゲームソフトがダウンロード違法化の対象に含まれるということについては、改正著作権法が施行される前に、文化庁著作権課の担当者から説明を受けていたという。

 文化庁著作権課の川瀬真氏は、「一般的にゲームには『プログラム』の側面がある一方で、『映画の著作物』としての側面もあるというのが通説」と前置きした上で、映画の著作物に該当するゲームソフトもダウンロード違法化の対象に含まれると説明する。

 しかし、前述したように、コンピュータープログラムの著作物が、ダウンロード違法化の対象となる著作物になるかどうかについては、現在も法制問題小委員会の検討事項とされている。

 ダウンロード違法化が検討された私的録音録画小委員会の報告書にも、ゲームソフトを含むコンピュータープログラムが、ダウンロード違法化の対象に含まれるという記述はなく、法制問題小委員会での検討結果を待つことになっている。

 この点について川瀬氏は、「過去の判例でもゲームの映像が映画の著作物に該当することは確立されているため、私的録音録画小委員会では特に触れなかった」と話す一方で、「わかりにくいと指摘されればその通りで、私的録音録画小委員会でも説明すべきだった」としている。

WinnyやShareで、DSソフトの全タイトルが入手可能な状況

 「ゲームソフトがダウンロード違法化の対象である」とACCSが訴えるのは、ファイル共有ソフトを介した違法流通に歯止めをかけたいためだ。中川氏は、海賊版DSソフトの流通状況について、「WinnyやShareでは、国内で販売されているDSソフトの全タイトルが入手可能な状況」と被害の深刻さを訴える。

 ACCSが2009年8月23日に実施した調査によれば、ShareネットワークにアップロードされていたDSソフトのファイル数は4万6541ファイル。1つのファイルに複数ソフトが詰め合わされていたものを考慮すると、合計90万314ファイルに上るという。

 また、Shareネットワークにアップロードされていたファイル数をもとに、ニンテンドーDSソフトの平均小売単価を4300円として試算したところ、被害相当額は38億7135万200円に上ったとしている。

ファイル共有ソフトでは、ダウンロードユーザーでも身元の特定は可能

 改正著作権法では、違法ダウンロードを行ったユーザーへの罰則はないため、刑事処罰されることはない。ただし、違法ということは、理論的には民事裁判で損害賠償を請求される可能性があるということだ。

 中川氏によれば、ゲームソフトを違法ダウンロードしたユーザーに対する損害賠償については、「現在どれだけの違法ユーザーがいるかわからない状況ではコメントできない。権利者次第というところもある」という。

 では、仮に訴訟を起こす場合、違法ダウンロードしたユーザーの身元を特定できるのだろうか。中川氏は、「WinnyやShareのようなファイル共有ソフトであれば、ISPへの情報開示請求を通じて特定できる」と語る。

 「プロバイダ責任制限法の情報開示請求は、違法ダウンロードユーザーの情報開示請求はできません。しかし、WinnyやShareは『ダウンロードすればアップロードした』と言えるため、開示請求ができると考えています。」

 これまでACCSは、一部のファイル共有ソフトについて「ダウンロードされたファイルをそのままアップロードする機能を持つことから、他人の著作物をダウンロードした利用者は、即座にアップロード行為者になる」と指摘してきた。

 また、ファイルの断片を自動的に中継する機能があるため、「そのネットワークに参加するだけでも、違法な送信行為に『加担』することにもなる」として、ファイル共有ソフトの利用をやめるよう呼び掛けている。

ゲーム機用タイトルであれば、合法・違法の区別は明確

 日本レコード協会は、ダウンロード違法化の導入を強く求めてきた一方で、レコード会社が許諾した音楽配信サイトに識別マークを掲載することで、利用者が違法サイトだと知らずにダウンロードしてしまうことを防ぐ「エルマーク制度」を導入したり、改正著作権法の内容を周知する啓発活動なども行っている。

 一方、ACCSでは「ゲームソフトがダウンロード違法化の対象である」ということについては「あらゆる場面で発言はしている」ということだが、「まだ一般の方々に届いていないという声が強いようであれば、ユーザーのみなさんを守るという観点からも、より積極的に啓発活動を行っていきたい」という。

 ただし、エルマークのような制度は考えていない。ACCSの会員企業で被害が大きいのは、ニンテンドーDSやプレイステーション、Xboxといったゲーム機用のソフトだが、これらのソフトの正規ダウンロード配信は、そのプラットフォームを通じて、またはプラットフォームメーカーのWebサイトを通じて行うかたちとなっており、「それ以外からのダウンロードはすべて違法」であるためだ。

 「今回の法改正は、著作権者の権利を拡大するものではなく、著作権者が我慢させられていた部分を減らすということです。利用者に対しては、違法コンテンツが大量に流通することで正規ビジネスが厳しくなっていることを考えていただいた上で、自分たちの行動に責任を持ってコンテンツを楽しんでいただきたいですね。」(中川氏)


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(増田 覚)

2010/1/27 20:28