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商売人をもっと増やしたい ~ウェブシャーク社長 木村誠司氏(後編)
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● 電脳卸ドロップシッピング誕生前夜
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古着のネット販売をした経験から、「写真や商材を注文できて、商材は直送してもらうサイトがあったら便利じゃないかと思いついたんですよ。」
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古着のネット販売は、写真が大変なんです。すべて一点ものなので、1点ずつ写真を撮らなくてはならない。1点売れたらそれでおしまいです。売る方としては、写真を1枚撮る手間をかけたら、本当は10着くらい売りたいわけです。
そこで考えたんですが、ネットの中は写真だけの世界なんですよね。写真を誰かに借りて自分のサイトに貼り、注文があったらお客に直接送ってもらう。それをまとめるサイトがあれば便利じゃないかと思いついたわけです。写真だけで商売ができて、仕入れコストや在庫リスクもなくなります。まさに、今の「電脳卸ドロップシッピング」のアイディアが生まれたのはそのときです。
アイディアは、風呂から出て一気に書き上げました。PowerPointなんて知らないから、サイトデザインからプレゼン資料まで全部FrontPageです。
それをあきない・えーどの吉田雅紀氏に見せたところ、「ええんちゃう」と言われてやることにしたわけです。吉田氏は現在当社の社外取締役としてお力を借りているんですが、誰にでも「やってみろ」と言う人だと後で知りました(笑)。吉田氏は、その後あきない・えーどの全国版「ドリームゲート」を立ち上げています。
● ビジネスプランを元に起業
吉田氏に「ええんちゃう」と言われていまの「電脳卸」の元になったプランをビジネスプランコンテストに出したところ、3位に入賞しました。授賞式の舞台の上で、「こんなにいい案を3位にするなんて審査員はセンスが悪い」と言ったら、場内が引いていましたね(笑)。でも、結局1位と2位になったプランは現実にはダメだったんですよ。1位2位は夢はあったもののただのドリームで、こっちは現実的だったんです。結局、現実的な方が勝つんですよ(笑)。
入賞したので、オフィスブースをタダで借りられることになりました。サイトが要るのでサーバーを借りて立ち上げて、2001年8月にウェブシャークを設立しました。国からの助成金が通ったので、500万円は返さなくていい上に、ベンチャーキャピタルからも300万円入ってきて、自分の貯金もあったので、資本金は一気に1500万円にもなりました。これを持って香港に逃げてもいいくらいの大金です(笑)。
ところが、その1500万円がすごい勢いで減っていくんですよ。創業メンバーの給料は当初30万円だったのですが、人件費だけでも毎月すごい額が出ていってしまう。見る見る残高が減っていくので、冷や汗ものでした。赤字がこんなに続くと思わなかったので、ラスト100万円くらいになった時には、「責任を取って辞める」と社員たちに言ったくらいです。
辞めると言った時には赤字しか見えていなかったのですが、実は売上は右肩上がりで、いずれ100%黒字になると分かっていたので、社員たちは「何の冗談だろう」と思ったようです(笑)。
だけど、俺は貯めるのが好きなんで、赤字――口座の預金がどんどん減っていくという状況は許せないし耐えられないんですよ。商売人が利益を出せないなんて、存在意義がないじゃないですか。一瞬でもお金が減るのが嫌なんで、無茶な使い方ができないのが、うちが伸び悩んでいる理由かもしれないんですけどね(笑)。
● ブログは最強の求人媒体
サービスイン前に、入賞者は日記を書けと言われていたんです。それに僕だけはまってしまって。1999年頃からずっと真面目に、仕事の進行状況等をブログに書いていました。でも、ブログを見て入社した岸村などに言わせると、当時流行っていた「侍魂」などと同じ、お笑いカテゴリのサイトだと思っていたみたいです(笑)。
岸村は就職先を探す時に、「そう言えばこの人は社長らしいし、サービスも面白いので入りたい」と応募したそうです。最近の募集でも「ブログを見て」という人が申し込みベースで4~5人以上いますから、最高の求人媒体ですよね。求人サイトを使ったら、それだけで何十万もかかかりますから経費節約にもなる。
ブログに書いた話で覚えているのは、リッツカールトンに行った時の話とかですかね。その頃の俺は、頭がほぼアフロみたいだったんですよ(笑)。それに、迷彩パンツとTシャツという格好で、リッツカールトンで開かれたリッチなパーティに突入したら、みんなにびっくりされて。行ったら、みんなド正装で胸に薔薇とかさしているわけです。俺もびっくりしたんですけどね。
もう浮くどころの話じゃないですよ。脳内でずっと、「俺はデザイナーだから気にしない気にしない……」と自分に言い聞かせていましたね(笑)。会場には友達がいたんですが、「仲間と思われたくない」と他人のふり(笑)。そんな話を書いたりしていたんですよ。
事業は赤字が続いたので、30万円だった給料を減らして20万円に減らした時があったんです。日記でアルバイトをしようと思いついて、「事業を見ます。コンサルするから3万円ちょうだい」と日記に書いたんです。けっこういい感じの会社3社から依頼がきたんですが、中にはその後上場した会社とかもあって。読者も変で面白い人たちだったんですよね。
● メリットがないので上場は考えていない
8カ月目にやっと黒字になって、それからずっと黒字です。ベンチャーとしては黒字化が早いと言われるんですけど、資本金がどんどん減っていく状況はもともと手持ちの資金で現金商売をやってきた俺にはきつかったですね。
資本金は、今も7割が自分です。後から考えたら、ITバブルの崩壊がうちにはラッキーでした。ITバブル全盛期だったら、それだけの自己資本率を維持できていたかどうかわかりません。
いまはIPOはあまり考えていませんが、3年前くらいはそれが流れ的に必然かなと思って、上場を考えてたんですよ。でも、2年前くらいにやめました。今は、上場にはメリットがないのでする気はないです。そんなにお金は要らないですし。
一時は上場に備えていろいろ準備していて、その一環で、人をたくさん入れたら組織がいびつになったのが嫌だったんです。楽しく働きたいし、スタッフにも楽しく働いてほしいから、職場の空気を悪くしてまで上場する必要はないなと。また、ちょうど市況も悪くなっていましたしね。
● 商売人をどんどん増やしたい
ユーザーの方から、電脳卸は他社よりマージンがいいと言われるのですが、これは意識しています。商売人をばんばん増やそうというのが当社の目的ですから。「みんな商売やればいいじゃん」と思うんですよ。電脳卸を始めた頃は、まだアフィリエイトもない時代でした。
最近はアフィリエイトでお金を得るのが当たり前になってきたので、そういう意味ではある程度目的は達成された感じですね。
今後は、さらに儲けてもらうためにステージを変えようと思っています。もっと儲かる情報があったらどんどん教えてあげられるような、そういうサービスになればいいと考えています。アフィリエイトを経験後、起業して成功している人たちも多いです。
いいアイディアがあったら融資や出資をするような形でサポートしていくのもいいし、コラボするのもいい。これからは、支援する側も意識したいですね。
● 社内が良い雰囲気なことが大切
社内が嫌な雰囲気になるのは嫌なんですよ。どれだけ儲かっていても、社内の雰囲気が悪かったら最悪です。うちは社員同士かなり仲良しです。アルバイトやインターンを入れると社員は20人を超えています。逆に言ったら20人くらいしかいないわけで、パフォーマンスはとてもいいですね。
上場を目指した頃に、どどっと入った人には辞めてもらっています。今は採用も慎重で、アルバイトでも自分で面接します。社員は社にとってのDNAなので、異物混入は抑えたいのです。社長の仕事は組織を見ることです。儲かるためには組織がきちんとしなきゃダメだと思うんです。
うちにぴったりなのは、ノリがいい人だと思います。コミュニケーションスキルが最初で、次に仕事の能力。仕事がちょっとくらいできなくても補えますが、仕事だけできてコミュニケーションスキルない人はかえって効率が悪いんですよね。
従来は、俺が自分で仕切りすぎていたと思うんですよ。今は、ブランドマネージャーがすべてしきっています。ほんまに全力で任せているので(笑)、社員には俺が何も言わないのがかえってプレッシャーだったみたいです。
アイディアをいつまでも社長が出していてはダメなので、社内から出てくる仕組みを作らないといけないと思っています。細かいところまで指示していたら、わかるはずのことがわからなくなると思うんです。
だから俺は、命令じゃなくて要望として言うようにしています。要望を採用するかどうかはマネージャー次第。俺は意見として言うけれど選択したのはマネージャーだよと。そうしたら組織的に良くなっていきました。
● データが飛んで学んだこと
今までで一番怖かった体験は、5千万円分の報酬情報や支払い情報データがすべて吹っ飛んだことです。黒字化した翌年くらいの時でした。電源の切り方を失敗し、バックアップもうまくいかなくて、不運が重なって復旧できなかったのです。社長として社員を励ましたんですが、正直つぶれるかもと思っていたので、後で社員に聞いたら見たことがないくらい真っ青な顔をしていたみたいです。
本当に大ピンチだったのですが、きちんと問題に対処できたのが救いでした。お客様には事情をすべて説明し、あらゆる情報は公開して、混乱しないように努めたのです。ちょうどブランドマーケティングの本を読んでいて、「情報公開するのが大事」と書いてあったのでその通りにしたのですが、大正解でしたね。
注文はメールで取ってありました。1つ1つ手作業で何千もの注文を拾っていくのは大変でしたが、かなりの部分を復旧することができました。最終的には、どうしてもダメだった10数件以外は全部復旧できたのです。どうしてもダメだった分には別件で保証しました。会員全員にお詫びとして500円を送ったりもしました。
途中ツールを作って復旧し、サービス再開は3日後になりました。その間ずっと復旧のための徹夜作業が続いていたので、寝る時間があったかどうかも覚えていないくらいです。
サービス再開した後も、飛んだデータを1つずつメールから拾い出すような作業は続けて、どんなに手間がかかっても拾い出せるデータは全部拾い出しました。誠意をもって、できる限りの対処をさせていただいたことで、ご理解を得られたのだと思います。
励ましのメールもたくさんいただきました。それまでオフィス内でサーバーを管理していたんですが、この件をきっかけにデータセンターに移すなどの設備投資をしました。遅まきながらですが、サーバーは神様だと気づいたのです。
ちなみに、非公式社長ブログはこの時炎上して一度閉鎖しています。今のブログは二代目なんです。サーバーのデータが飛んだ時、サーバーは立ち上がったもののデータはまだという時に見たら、注文がたくさん来ていたんですよ。つい、もう一度データが飛んだらまた注文が伸びるのかな? とブログに書いてしまって。それで、ユーザーに叱られて炎上です。それから3~4年は日記やブログは控えていたんですけれど、現在はまた復活しています。
● できるだけ長く商売していたい
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「会社を成長させるのが楽しいです。そう思う理由は今の組織がいいから。よくない組織が大きくなるのは悪ですが、こういう奴らがいっぱいになるんだったらすごく良いんじゃない? と思うんですよ。」
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将来は、個人的には商売人として名を上げたいです。会社も、食い扶持を稼いでいるだけじゃつまらないと思うんです。もっときちんと右肩上がりにしたいし、早いことネットにこだわらず世界相手に商売をしたいんですよね。電脳卸の発展系のサービスも考えています。今後、冗談みたいなこともやりたいですね。たとえば証券会社がやりたいんですよ。今後事業を始めるなら、どっちにしろネットは使うでしょう。だから、ネットのサービスに限ってはいないんです。
できないことはできる人に任せて、やってもらえばいいと思っています。ただし、それだけの勉強は必要です。任せっきりにしたばかりに高くついたり失敗したことがあるので、任せるにもある程度勉強しなければいけない。なまじ儲かると、解決をお金に頼るようになるものですが、知恵は使わないといけないんですよね。
目標は世界征服です!(笑) できるだけ長く商売していたい。やりたいことはけっこうやっちゃってるんですが、会社を成長させるのが楽しいです。そう思う理由は今の組織がいいから。よくない組織が大きくなるのは悪ですが、こういう奴らがいっぱいになるんだったらすごく良いんじゃない? と思うんですよ。(おわり)
(→ 前編をみる)
関連情報
■URL
電脳卸
http://www.d-064.com/
株式会社 ウェブシャーク
http://www.webshark.co.jp/
非公式ウェブシャーク社長日記
http://blog.webshark.co.jp/informal/
2008/08/26 11:09
取材・執筆:高橋暁子 小学校教員、Web編集者を経てフリーライターに。mixi、SNSに詳しく、「660万人のためのミクシィ活用本」(三笠書房)などの著作が多数ある。 PCとケータイを含めたWebサービス、ネットコミュニケーション、ネットと教育、ネットと経営・ビジネスなどの、“人”が関わるネット全般に興味を持っている。 |
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