5分でわかるブロックチェーン講座

金融×ブロックチェーンは新型コロナから回復、ビットコイン保有者の資金が市場へ流入

DeFiはアフターコロナの金融を変革するか

(Image: Shutterstock.com)

 暗号資産・ブロックチェーンに関連するたくさんのニュースの中から見逃せない話題をピックアップ。1週間分の最新情報にわかりやすく解説を加えてお届けします。

分散型金融(DeFi)市場へのロック額が10億ドルへ回復

 金融×ブロックチェーンを意味する分散型金融(DeFi:Decentralized Finance)、では、市場規模の計測指標として、市場にロック(デポジット)されている暗号資産の総額を用いる。多くのDeFiサービスが、暗号資産をロックすることで利用できるようになるためだ。2020年2月時点でこのロック額は10億ドルを突破していた。

 しかしながら新型コロナウイルスの拡大が本格化した3月中旬、株式市場の暴落と共に暗号資産市場も暴落。DeFi市場でも、数億ドル規模のマージンコールなどを背景にロック額が半減するまでの冷え込みをみせていた。

 次第に経済全体が回復するにつれ、徐々にロック額も上昇し再び10億ドルを超えている。上昇の背景としては、経済の回復がもちろん影響しているが、それ以上にDeFi市場への新たな資金流入が関係している。

 DeFiに分類されるほぼ全てのサービスは、イーサリアムを使って開発されたものだ。そのため、DeFi市場はイーサリアムのエコシステムに閉じたものとなっている。

 そんなDeFi市場に、昨今ビットコイン資金の流入が拡大しているのだ。背景には、イーサリアム上でビットコインを取り扱うことが可能なトークン、WBTCの成長がある。WBTCは、ビットコインを担保としてイーサリアム上に発行されるトークンだ。このWBTCの活用がDeFiエコシステム内で進んだことにより、ビットコイン保有者の資金が市場へ流入したのである。

参照ソース


    DeFi管理の仮想通貨総額、再び10億ドル規模に回復
    [CoinPost]
    Glassnode: Over 60% of Bitcoin has not moved in a year
    [Decrypt]

分散型取引所(DEX)の取引量が着実に増加

 金融×ブロックチェーンを分散型金融(DeFi)と呼ぶが、取引所×ブロックチェーンもまた分散型の呼称がある。分散型取引所(DEX:Decentralized EXchange)だ。

 暗号資産にせよ株式にせよ、取引所事業は金融領域であるためDEXはDeFiにおける要素の1つだといえる。DEXには、文字通り特定の管理者が存在しない。機能は全てスマートコントラクトによる自動実行が担っている。

 特徴としては、サーバダウンが発生しないゼロダウンタイムの実現や取引帳簿の透明性、誰でも任意の暗号資産を上場させることができる点などがあげられる。

 DEXの市場規模は、1年で5倍以上の成長率を記録している。2020年の上半期における取引量は既に3Bドルを突破した。収益は年間1200万ドルに及ぶという。

 しかしながら、管理者を有する既存の取引所市場と比較すると、これらの数字は微々たるものになってしまう。既存取引所の取引量は、1日で5.83Bドルだ。DEXが1年かけて積み上げる取引量は、わずか1日分にも満たない数字なのである。マスアダプションにはまだまだ程遠いだろう。

 そんなDEXの最大のメリットは、恣意性の存在しない透明性だ。インターネットさえあればいつでもどこからでもアクセスすることができる。本人確認も必要ないため、当然だが人種による影響は受けない。つまり、サービスを利用する上での主体者が、事業者から利用者になるのだ。これは、軽視されているがWeb3.0の時代において非常に重要な要素だといえる。

 利便性で劣るDEXだが、プライバシー重視や反差別運動の兆候をみても、近い将来にポジションを逆転する可能性は十分に考えられる。

参照ソース


    Surging volume and near-record earnings at decentralized exchanges
    [Decrypt]

今週の「なぜ」「DeFi」はなぜ重要なのか?

 今週はDeFiに関するトピックを取り上げた。ここからは、「なぜ重要なのか」解説と筆者の考察を述べていく。

【ポイント】

ブロックチェーンは本来、金融産業のための仕組み
DeFiのキーワードは「透明性」と「自動化」
金融機関は金融機能になる

 それでは、さらなる解説と共に筆者の考察を説明していこう。

 DeFiは、筆者が最も注目しているブロックチェーンを基盤とした次世代産業の1つだ。ブロックチェーンは元々、暗号資産を含む金融領域のために発明されたテクノロジーである。そのため、通貨に限らず金融全体に活用できるのはごく自然なことだといえるだろう。

 なぜDeFiがここまでの期待を集め、市場規模から伺える着実な実績をつけているかというと、それはやはり「透明性」と「自動化」にある。この2つのキーワードは、既存金融には存在しない要素なのだ。

 まず1つ目の透明性だが、DEXに対をなす既存取引所のように、基本的に全ての金融取引はブラックボックス化されている。銀行口座を開設しようにも、不透明な審査によって弾かれるケースは、我々にとっては違和感のない事態になってしまっているのではないだろうか。大企業出身の筆者は、起業直後にこの不透明で理不尽な経験を嫌というほど味わっている。

 2つ目の自動化は、よりイメージしやすいだろう。現在の金融システムは仲介者を前提に成り立っているため、人間の操作無くして動かすことはできない。そのため、当然だが不測のヒューマンエラーが発生する。この潜在的なヒューマンエラーに備え、金融システムは可能な限りの、本来不要な対策を施している。

 例えば、サーバの過剰増強やデータベースの複数バックアップ、複数に分類された権限付与や組織体制などがあげられるだろう。これらの対策には莫大な費用と無駄な時間がかけられている。それでも、日々サーバはダウンし個人情報は漏洩する。

 これらは、スマートコントラクトで解消できる可能性が極めて高い。昨今のFinTech文脈では、金融機関を金融「機能」として分割する兆候が活発化している。DeFiはFinTechによって分割された金融機能に、自動化を加えた仕組みだと捉えるとわかりやすいのではないだろうか。

 実際、既に金融機関を金融機能として分割し、さらに自動化したサービスが数多に存在している。MakerDAOが通貨Daiを発行し、DEXであるKyber Networkで取引を行う。Kyber Networkで得たキャピタルゲインは、レンディングサービスCompoundで貸し出すことができる。そしてそれらを束ねるのが、前回紹介したユーザーとの接点であるウォレットサービスだ。

 既存金融であれば、異なるサービスをここまでシームレスに繋ぐことは不可能である。銀行APIの利用許可を取り、特定のユーザーにのみ提供できるよう権限を設定、しかしながら土日は利用することができない...そして、これらのハードルを越えるために多くのステークホルダーによる意思決定を統一する必要がある。

 新型コロナウイルスの影響による各産業のDX推進や昨今のグローバル化の様子を鑑みても、DeFiの勢いが衰える未来は想像できない。ブロックチェーンによって金融が変革される未来は、既定路線だといって間違いないだろう。新型コロナウイルスからの経済回復が期待される中、市場規模が過去最高水準に近づいたことで、その未来は想定以上に早く訪れるのかもしれない。

編集部より: 当連載は、第9回(3月末掲載)まで仮想通貨 Watchにて掲載していたものです。第9回以前はこちらからご覧ください

田上 智裕(株式会社techtec代表取締役)

リクルートで全社ブロックチェーンR&Dを担当後、株式会社techtecを創業。“学習するほどトークンがもらえる”オンライン学習サービス「PoL(ポル)」や企業のブロックチェーン導入をサポートする「PoL Enterprise」を提供している。海外カンファレンスでの登壇や行政でのオブザーバー活動も行う。Twitter:@tomohiro_tagami