5分でわかるブロックチェーン講座
米Microsoft、ビットコインによる身分証明サービスを開始、まずはベータ版
個人のデータは個人で管理する時代へ?
2020年6月16日 10:50
米Microsoftが「ビットコインを使った身分証明」のベータ版を公開
米Microsoftが、ビットコインのブロックチェーンを使った身分証明ネットワーク「ION(Identity Overlay Network)」のベータ版を公開した。2019年5月に公開したプレビュー版の改善を重ね、今回正式に商用を開始している。
IONは、ユーザーが自身に紐づくデジタル情報を暗号化された状態で管理できるシステムだ。ブロックチェーンを用いることで、管理者なしにユーザーのデジタル情報を管理できる。つまり、FacebookやTwitterが提供しているようなログイン機能を使わずとも、様々なサービスにアクセスできるようになるのだ。当然、開発元であるマイクロソフトからも独立している。
活用シーンとしては、昨今のCOVID-19における医療現場や感染経路の追跡アプリなどがあげられる。例えば、感染者の身元を特定することなく感染経路を明確にすることもできるだろう。
ブロックチェーンを活用したデジタル情報の管理システムは、一般的にDID(Decentralized IDentity)と呼ばれる。マイクロソフトをはじめ複数の企業や団体が、以前よりDIDの構築に取り組んでいる。今回のIONも、分散型認証財団(DIF:Decentralized Identity Foundation)とマイクロソフトが提携することで実現した。
日本でも2019年に、経済産業省と株式会社リクルート、株式会社techtecの三者による調査事業の中で、DIDを活用した学位・履修履歴、研究データの不正および改ざん防止の取り組みが行われている。
参照ソース
ION – Booting up the network
[Microsoft Tech Community]
マイクロソフトがビットコインベースの分散型ID管理ツール「ION/イオン」のベータ版をメインネットで公開
[あたらしい経済]
マイクロソフトが分散型IDツール「ION」のベータ版を公開
[CryptoTimes]
Microsoft releases a beta version of its decentralized identity tool on the Bitcoin blockchain
[TheBlock]
デジタルガレージがアトミックスワップの商用化に成功
デジタルガレージの子会社で、金融領域におけるブロックチェーン活用を担うクリプトガレージが、暗号資産の大口OTC市場に特化した決済サービス「SETTLENET(セトルネット)」の商用化を開始した。
SETTLENETは、カナダに拠点を置く老舗ブロックチェーン企業Blockstreamの提供するLiquid Network上で、取引所を仲介させることなく異なる暗号資産の交換を可能にする「アトミックスワップ」を実現するものだ。
暗号資産のOTC市場はまだまだ未成熟であり、取引成立後でも暗号資産と法定通貨を交換するまでに契約逃れなどの決済リスクが存在している。そのため、現状はある程度信頼できる第三者を仲介させることで取引を行っているが、カウンターパーティーリスクの可能性をゼロにはできない。
クリプトガレージは、2019年1月より日本政府の規制サンドボックス制度の元で実証実験を行ってきた。今回、Liquid Network上でのアトミックスワップ、すなわち第三者を仲介させることなく当事者間での資産の同時交換を実現したと発表している。
まずはLiquid Network上で発行されるビットコイン担保「L-BTC」と日本円担保の「JPYS」の取引をサポートする。今後は、ステーブルコインのテザーやカナダドルを担保に発行されるL-CADなどにも対応予定だ。
参照ソース
デジタルガレージ子会社、仮想通貨の大口OTC市場に特化した商用サービス開始
[CoinPost]
デジタルガレージ子会社が「暗号資産OTC市場」に特化した決済プラットフォームを開始【クリプトガレージ】
[CoinDesk Japan]
Blockstream launches Bitcoin OTC trading platform in Japan
[Decrypt]
今週の「なぜ」ブロックチェーンはなぜ「使い分け」が重要なのか?
今週はマイクロソフトによるDIDへの取り組みと、デジタルガレージのアトミックスワップに関するトピックを取り上げた。ここからは、「なぜ重要なのか」解説と筆者の考察を述べていく。
【ポイント】
ブロックチェーンには種類があり、用途によった使い分け方が重要
大分類はパブリック型とコンソーシアム型
パブリック型の本命はビットコインとイーサリアム
それでは、さらなる解説と共に筆者の考察を説明していこう。
バズワードのように語られるブロックチェーンだが、一口にブロックチェーンといってもいくつかの種類が存在する。大きく分けてパブリック型とコンソーシアム型だ。パブリック型の代表例はビットコインやイーサリアムなどであり、特定の管理者が存在しないブロックチェーンを意味する。一方のコンソーシアム型は、一部の管理者を設定することでブロックチェーンに汎用性を持たせたものといえる。
マイクロソフトのDIDは、ビットコインのブロックチェーン(以下「ビットコイン」)そのものを使ったパブリック型である一方、デジタルガレージが使用するLiquid Networkは、ビットコインをカスタマイズしたコンソーシアム型に分類できる。
マイクロソフトの取り組みでは、DIDの管理者すなわち個人のユーザーは無数に存在するといえる。さらに、個人の情報を管理者から個人に帰属させること自体が目的でもある。従って、この場合はパブリック型のブロックチェーンが適しているのだ。
デジタルガレージにおける取り組みの場合、売り手と買い手を1対1で繋ぐOTC取引になるため、当事者はごく少数に限られる。従って、この場合はコンソーシアム型のブロックチェーンが適しているだろう。無数の当事者を前提とするパブリック型よりは、汎用性を高めたコンソーシアム型の方が何かと使い勝手が良いのだ。
今回のマイクロソフトおよびデジタルガレージの取り組みでは、いずれもビットコインを採用している点が共通項としてあげられる。ビットコインそのもの(パブリック型)を使うかカスタマイズしたもの(コンソーシアム型)を使うか、という違いだ。
なおパブリック型のブロックチェーンでも、場面ごとの使い分けが重要になる。本命は、ビットコインとイーサリアムだ。ビットコインは、最初のブロックチェーンとして誕生し決済シーンを適正領域としている。そのため、Liquid Networkのような暗号資産の取引システムを構築する際に活躍する。
一方のイーサリアムはビットコインの仕組みを応用して発明され、決済シーンに限らず様々な用途に使われている。そのため今回のマイクロソフトの取り組みは、イーサリアムを使って構築することもできただろう。実際、Origin ProtocolというDIDに取り組む別のプロジェクトでは、イーサリアムを採用している。
ブロックチェーン活用を検討する際には、「ブロックチェーンを使って何をしたいのか」「どんな場面で使われるサービスを作るのか」といった観点が重要になる。
編集部より: 当連載は、第9回(3月末掲載)まで仮想通貨 Watchにて掲載していたものです。第9回以前はこちらからご覧ください