5分でわかるブロックチェーン講座

新型コロナウイルスのワクチンを分散台帳技術で管理、英Hospital Groupがファイザー社のワクチンで実現

SBIと三井住友がデジタル証券取引所を開設

 暗号資産・ブロックチェーンに関連するたくさんのニュースの中から見逃せない話題をピックアップ。1週間分の最新情報に解説と合わせて、なぜ重要なのか筆者の考察をお届けします。

(Image: Shutterstock.com)

新型コロナウイルスのワクチンを分散台帳技術で管理

 新型コロナウイルスのワクチン摂取が話題になり始めている昨今、ワクチンの保管データをブロックチェーンを含む分散台帳技術で管理する取り組みが進められている。

 英Hospital Groupでは、ファイザー社の開発したワクチンに関するデータを管理するために、Hedera Hashgraphと呼ばれるブロックチェーンの類似技術を使用することを決定した。

 Hedera Hashgraphは、Hashgraphという分散台帳技術をHedera社がカスタマイズした独自システムだ。ビットコインやイーサリアムと違い処理性能に優れ、秒間数十万のトランザクションを捌くことができるという。

 今回の取り組みは、新型コロナウイルスのワクチン保管環境のデータをHedera Hashgraphに記録するというものだ。具体的には、ワクチンを保管するための冷蔵庫にセンサーを設置し、定期的に温度などの環境データを送信および記録するという。

 ブロックチェーンなどの分散台帳には、当然ながらデジタルデータしか記録することができない。これに伴い現実世界の情報をデジタル化しなければならないが、ここで故意ではないにせよ誤って情報が書き換えられてしまうケースが少なくない。

 ヒューマンエラーなどによるこの問題を、ブロックチェーン業界ではオラクル問題と呼んでいる。今回の取り組みで秀逸な点は、ワクチンの保管データを分散台帳に記録するまでに一切の人手を介さない点だ。今週は、この重要性について後半パートで考察したい。

参照ソース


    How Hedera is Ensuring the Safety of Pfizer’s COVID Vaccine
    [Decrypt]

SBIと三井住友がセキュリティトークン取引所を開設

 2020年10月に国内初となるSTO(Security Token Offering)事業を開始したSBIホールディングスが、三井住友フィナンシャルグループと共にデジタル証券を取り扱うための私設取引所を開設すると発表した。

 大阪での2022年春を開業予定としている「大阪デジタルエクスチェンジ」は、SBIが6割、三井住友が4割を出資して設立されるという。現状、国内の証券取引市場は東証による事実上の独占状態になっている。

 ここのシェアを取りにいくことは至難の業だが、今回SBIは既存のシェアではなく新たな市場を狙う構えだ。それがセキュリティトークン(デジタル証券)である。

 SBIホールディングスは、先述の通り2020年10月に国内初のSTO事業を開始しており、子会社のSBI e-Sportsで実際にSTOを行なっている。その他にも、セキュリティトークンの発行・管理・移転・権利更新を行うプラットフォーム「ibet」を運営するBOOSTRYへ10%を出資済みだ。

 今回の発表では、2023年にセキュリティトークンの取り扱いを開始する方針であることも明らかにしており、新たな市場の開拓を目指す姿勢が伺える。セキュリティトークンは、既存の有価証券よりも小口で発行することができるため、少額投資が可能になる点が特徴だ。

 現状、株式取引などでは最低購入単価が決まっているため投資できる層が限られている。セキュリティトークン市場を開拓することで、若年層や少額投資に需要のある層を一気に取り込めるようになるだろう。

 2020年5月に金融商品取引法が改正され、日本でも正式にセキュリティトークンを取り扱えるようになったが、法整備の段階から市場を牽引してきたのがSBIホールディングスだ。代表の北尾氏は、金融庁の認定団体である日本STO協会でも会長を務めており、引き続き市場をリードするための盤石な体制が整えられている。

参照ソース


    SBIグループとSMBCグループによるデジタル証券取引システムを運営する合弁会社の設立に関する基本合意のお知らせ
    [SBIホールディングス]
    SMBCグループとSBIグループによるデジタル証券取引システムを運営する合弁会社の設立に関する基本合意のお知らせ
    [三井住友フィナンシャルグループ]

今週の「なぜ」ワクチンをブロックチェーンで管理することの重要性

 今週は新型コロナウイルスのワクチン保管データをブロックチェーンで管理する取り組みやSBIと三井住友によるデジタル証券取引所に関するトピックを取り上げた。ここからは、なぜ重要なのか、解説と筆者の考察を述べていく。

【まとめ】

医師を信用するかブロックチェーンを信用するか
ブロックチェーンは性悪説を前提とした仕組み
コロナワクチンがブロックチェーンのマスアダプションを加速させる

 それでは、さらなる解説と共に筆者の考察を説明していこう。

医師を信用するかブロックチェーンを信用するか

 国内で緊急事態宣言の延長が予想される今日、新型コロナウイルスの脅威からワクチンにかかる期待は大きい。一方で、ワクチンに対する不安を抱く声が出ているのも事実だ。

 ワクチンに不安を感じる理由の一つに、保管環境を実現することの難しさがあげられるだろう。例として、ファイザー社のワクチンは半年以上保存させるのにマイナス60℃~80℃の環境が必要だといわれている。

 さらに、我々が実際に摂取する際には2℃~8℃の状態で冷蔵保存されている必要があり、かつこの状態で5日以内に使用しなければならない。そして何よりも、自分が摂取しようとしているそのワクチンが、本当に適切な保管環境で管理されたものなのかを証明する方法が、現状は目の前の医師を信用する以外に存在しないのだ。

性悪説で効果を発揮するブロックチェーン

 今回取り上げたイギリスのHospital Groupでは、入手するワクチンが適切な環境で管理されていたかどうかを証明するためにHedera Hashgraphを活用する。

 個人的には、Hashgraphではなくイーサリアムのようなオープンソースのパブリックチェーンを使用しなければ意味がない(データに透明性を持たせられない)と考えるため、ここではパブリックチェーンを使用すると仮定して考察したい。

 ワクチンのような人命に関わるものの場合、性善説でプロセスを進めるべきではない。人間はミスをする生き物であるため、特にデータの証明などはシステムをかませる必要があるだろう。

 Hospital Groupは、ワクチンが冷蔵庫に入れられて以降、保管する環境に一切の人手を介さずにデータをブロックチェーンに記録する。こうすることで、先述のオラクル問題を解消することができるのだ。

ワクチンとブロックチェーンのマスアダプション

 一度記録されたデータは改ざんすることができない点も、ワクチンデータの管理にブロックチェーンを使用する際の大きな動機になっている。

 正直なところ現時点では想像もつかないが、理想的な運用としては、ワクチンを摂取する際に患者がブロックチェーンに記録されたデータを見せるよう医師に要求するといった世界観を追求したい。

 ブロックチェーンに正しいデータが記録されていることで第三者がみても安心できる、といった社会がブロックチェーンの目指すWeb3.0であり、今回のワクチン管理がそのための第一歩になることを期待している。

田上 智裕(株式会社techtec代表取締役)

リクルートで全社ブロックチェーンR&Dを担当後、株式会社techtecを創業。“学習するほどトークンがもらえる”オンライン学習サービス「PoL(ポル)」や企業のブロックチェーン導入をサポートする「PoL Enterprise」を提供している。海外カンファレンスでの登壇や行政でのオブザーバー活動も行う。Twitter:@tomohiro_tagami