5分でわかるブロックチェーン講座

NFTのピークは過ぎ去ったのか?少数のアプリケーションに依存するNFT市場、その分析データを公開

Web 3.0は「プロトコルがマネタイズする時代」

 暗号資産・ブロックチェーンに関連するたくさんのニュースの中から見逃せない話題をピックアップ。1週間分の最新情報に解説と合わせて、なぜ重要なのか筆者の考察をお届けします。

NFTのピークは既に過ぎ去っている

 話題のNFTだが、米暗号資産メディア大手The Blockにより「ピークは既に過ぎ去った」というデータが公開され話題を呼んだ。

 データによるとピークとなったのは2月21日で、当時は1週間あたりの取引量が1億9640万ドルを超えていたという。しかしながら、3月末には3432万ドルにまで縮小し、その後も下降の一途を辿っている。

1週間あたりの取引量(参照:The Block Crypto Data

 データからは、NFT市場の上げ下げが特定のアプリケーションに依存していることが読み取れる。上図からもわかる通り、取引量の大部分をNBA Top Shot(赤色)とCryptoPunks(青色)が占めているのだ。

 実際、ピーク時1億9,640万ドルあった取引量のうち、64%にあたる1億2,530万ドルがNBA Top Shotによるものだったという。NBA Top Shotの取引量が3月末にピーク時の12%にあたる1523万ドルにまで減少すると、NFT市場全体の取引量も3432万ドルにまで落ち込んだ。

 取引量以外に1週間あたりのユーザー数でも、NFT市場全体の90%以上をNBA Top Shotが占めていたことが明らかとなっている。つまり、NFT市場=NBA Top Shot市場と言っても過言ではない状況なのだ。

 NFTはこれまでのブロックチェーン事例の中で比較的わかりやすいものであり、アート領域で活用されることから売買価格のインパクトも大きく話題になりやすい要素が揃っていた。

 そのため日本からも参入企業が相次いだが、想定よりもうまくいっていないところがほとんどだろう。細部のデータを見ることの重要性を改めて認識できる良い例だ。

 先週の記事でも紹介したが、米国では証券取引委員会(SEC)がNFTに関する規制に言及し始めていた。また、意外と知られていないこととして、NFTだからといって決してデジタルコンテンツの所有権が委譲されるわけではないことも理解すべき点だ。

 当たり前だが、手元にあるデジタルコンテンツをプラットフォームを通して販売したからといって、手元からそのデータが消えるわけではない。そして販売時に著作権について触れなければ、販売したコンテンツを引き続き使用することができてしまうのである。

参照ソース


    Did we already see the peak of the NFT boom?
    [The Block]

プロトコルがマネタイズする時代へ

 Web3.0時代の新たな会社組織の形である自律分散型組織(DAO)のTreasuryについて、興味深いデータが公開されていた。

 Web3.0では、ガバナンストークンが発行されトークンの保有者によるDAOによってプロジェクトの意思決定が行われる。DeFiプロトコルのMakerDAOなどがその典型例だ。

 MakerDAOでは、ガバナンストークンMKRを数年前より発行しており、その保有者によってロードマップが決められ実際に意思決定が行われてきた。立ち上げ当初は、MKRの保有者が少なく旗振り役としてMaker Foundationがプロジェクトを主導してきたが、Foundationは年内の解散を予定している。

 DAOといえど、持続的なプロトコルを実現していくためにマネタイズは欠かせない。Web3.0では、プロトコルがマネタイズを出来る仕組みが整いつつあるのだ。

 現在もHTTPやFTPなど、我々の生活に不可欠となったプロトコルが多数存在するものの、個人がそこに対して投資したり直接使用料を支払うといったことにはなっていない。

 Web3.0では、プロトコルがトークンを発行することでそこに対して投資することができるようになった。また管理者を排除したDAOによって運営されるため、使用時には個人が直接料金を支払うことになるのだ。

 実際のところ、DeFiレンディングのCompoundやAave、分散型取引所(DEX)のUniswap、先述のMakerDAOといったプロトコルは、DAOによる運営ながらも以下のように莫大なTreasury(プロトコル資金)を稼ぎ出している。

・Uniswap:$5,105,844,326
・Compound:$1,728,572,062
・Aave:$1,086,473,838
・MakerDAO:$22,864,401

 今週は、プロトコルがマネタイズをするということはどういうことなのかについて解説したい。

参照ソース

今週の「なぜ」ステーブルコイン決済はなぜ重要か

 今週はNFTのピークは既に過ぎ去ったというデータやDAOのTreasuryに関するトピックを取り上げた。ここからは、なぜ重要なのか、解説と筆者の考察を述べていく。

【まとめ】

Web3.0ではプロトコルに対して直接使用料を支払う
Web3.0でGAFAM問題は解消される
Web3.0では個人が直接プロトコルとやり取りできるようになる

 それでは、さらなる解説と共に筆者の考察を説明していこう。

プロトコルに対して直接使用料を支払う

 広く勘違いされているが、「プロトコルの策定=慈善事業ではない」ということを指摘しておきたい。インターネットの主要プロトコルであるHTTPやFTPも、我々が意識していないだけで、仲介者を通して使用料は発生している。

 本来であれば、プロトコルに対して直接料金を支払うのが本質的だが、当然ながらそんなことはハードルが高すぎるため、例えばサーバ事業者などが支払う業界団体への協賛金などを介し、(実質的に)ユーザーのサービス利用料に上乗せする形で支払っている。

 Web3.0のプロトコル(イーサリアムなど)では、トークン(ETHなど)という形でプロトコルが価値を可視化することに成功したため、我々はそのトークンを通して仲介者を挟むことなくプロトコルへ投資したり利用料を直接支払うことができるようになった。

 これがかの有名な「Fat Protocol」理論であり、アプリケーションよりもプロトコルに資産が集まる、つまりマネタイズできるようになったのである。

Web3.0でGAFAM問題は解消される

 プロトコルがマネタイズできるようになることで、昨今のGAFAM問題のようなことは発生しなくなる。特定の管理者が存在するサービスに依存しなくても良くなるため、であればDAOによって運営されるサービスを利用しようと考えるようになるためだ。

 実際のところ分散型取引所のUniswapは、CoinbaseとBinanceを除く全ての集権型取引所よりも高い出来高を誇る。

 もちろん、管理者が存在しないと成立しないサービスがあったり、リテラシーの低い人々は従来型のサービスを使い続けることが予想されるが、本質的に重要なプロトコルレイヤーのサービスが大きな影響力を持つようになることに間違いはない。

 既にイーサリアムの影響力はWeb3.0サービスの全てに対して絶大なものとなっている。DeFiの場合はMakerDAOやUnispwap、Compound、Aaveといったプロトコルだ。

プロトコルとの直接的な対話が可能に

 それでは、プロトコルに集まったTreasuryはどのように使用されるのだろうか。例として、MakerDAOにはTreasuryが一定額になったタイミングでガバナンストークンMKRを買い取る仕組みが実装されている。

 MKRの保有者は、MKRを持っていることでMakerDAOのガバナンスに参加することができるが、MKRの価格が上がってきたらそれをMakerDAOに対して売却することでキャピタルゲインを得ることが可能だ。

 他には、現時点では実装されていないものの、TreasuryをMKRの保有者に対して配当として分配することも提案されている。こういった仕組みからもわかる通り、Web3.0では個人とプロトコルとの直接的なやり取りが発生するのだ。

 Web2.0では、例えばGoogle ChromeがデフォルトでHTTP通信に対して警告を出すようになってからHTTPSが爆発的に普及した。これは、Googleの影響力が大きすぎることの典型例であり、我々もそこに依存していることを意味している。

田上 智裕(株式会社techtec代表取締役)

リクルートで全社ブロックチェーンR&Dを担当後、株式会社techtecを創業。“学習するほどトークンがもらえる”オンライン学習サービス「PoL(ポル)」や企業のブロックチェーン導入をサポートする「PoL Enterprise」を提供している。海外カンファレンスでの登壇や行政でのオブザーバー活動も行う。Twitter:@tomohiro_tagami