5分でわかるブロックチェーン講座

Visaがステーブルコイン決済に対応、スタバやPayPalでも暗号資産決済が開始

話題のNFTに規制は存在しないのか

 暗号資産・ブロックチェーンに関連するたくさんのニュースの中から見逃せない話題をピックアップ。1週間分の最新情報に解説と合わせて、なぜ重要なのか筆者の考察をお届けします。

Visaがステーブルコイン決済に対応

 クレジットカード決済大手のVisaが、ステーブルコイン決済の導入を発表した。CoinbaseとCircleの発行するUSD Coin(USDC)に対応することで、大手決済企業として初めてステーブルコインを導入することになる。

 USD Coinは、米ドルを担保に発行されるステーブルコインだ。時価総額は、テザー社の発行するTether(USDT)に次いで第二位の規模となっており、DeFi市場でのシェアも多く獲得している。

 クレジットカード型の暗号資産決済サービスに関しては、BlockFiやマスターカードが提供予定であることを発表しており、Visaも既にプリペイドカードを発行している。いずれもステーブルコインではなくビットコインでの支払いに対応する予定だ。

 今回のVisaの仕組みとしては、Visaが利用者からUSD Coinを直接受け付け、それを暗号資産カストディ大手のAnchorageに預けるスキームを組むという。Anchorageは、1月に暗号資産関連事業として米国初の国法銀行となったことで話題を呼んだ企業だ。

 今週は、デジタルアセットプラットフォームBakktの消費者向けアプリを通して、米スターバックスで暗号資産による支払いが始まっている。また、PayPalも世界数百万のオンラインショップで暗号資産決済を開始したことが明らかとなった。いずれも、店舗側は暗号資産ではなく法定通貨で受け取ることができる点がこれまでの暗号資産決済サービスとの大きな違いだ。

 ただし、これだけでは暗号資産による支払いが普及することは考えにくいだろう。今週は、既存決済サービスがステーブルコインに対応することの重要性について考察する。

参照ソース


    Exclusive: Visa moves to allow payment settlements using cryptocurrency
    [ロイター]
    Anchorageが暗号資産関連事業として米国初の国法銀行に、暗号資産と既存金融の距離が近づく
    [INTERNET Watch]

NFTは証券法に抵触しないのか

 米証券取引委員会(SEC)の理事であるクリプトママことHester Peirce氏が、昨今話題のNFTに対する証券法違反の可能性について注意を促した。NFTの販売方法次第では、証券に該当する可能性があると言及している。

 NFTは、文字通り代替不可能(Non-Fungible)であるため、それ自体が証券に該当することはないという。ただし、NFTを細分化したりバスケット型としてまとめたりして販売した場合、証券法に抵触する可能性が極めて高いとした。

 日本の現行法では、先述のステーブルコインとNFTに関しては暗号資産ではないと解釈されている。厳密には、暗号資産として定義されているものにステーブルコインとNFTが該当しないとの定義だ。

 そのため、NFTだから規制を気にしなくて良いという解釈は誤っているといえるだろう。Peirce氏の言う通り、場合によってはNFTでも証券や暗号資産として定義される可能性がある。また、現時点で規制が未整備だからといって、将来罰せられる可能性がないわけではない点にも注意が必要だ。

 実際SECは今週、未登録証券の販売を行なったとして過去にICOを実施したLBRYというプロジェクトを起訴している。NFTの販売についても、過去に遡って同じことが起きる可能性は大いにありそうだ。

 NFTは、昨今アート作品として高値で売れる商品などといったイメージが浸透しているが、前提としてブロックチェーン上で発行されるトークンの一種であり、意図せず証券法に抵触してしまう可能性も考えられる。

 ブロックチェーンにとって証券法は最も身近な法律であるため、このあたりの知識は事業者だけでなくクリエイターにとってもある程度求められるようになるのではないだろうか。

参照ソース


    Senator Lummis & SEC Commissioner Peirce: Security token regulation in the US | Fireside chats
    [Security Token Summit]

今週の「なぜ」ステーブルコイン決済はなぜ重要か

  今週はVisaのステーブルコイン決済対応やNFTの証券性に関するトピックを取り上げた。ここからは、なぜ重要なのか、解説と筆者の考察を述べていく。

【まとめ】

取引所を介さずに暗号資産と法定通貨の移動が可能
Visaのステーブルコイン導入によりスケーラビリティの懸念が晴れる
Visaネットワークは理論上全ての暗号資産決済に対応できる

 それでは、さらなる解説と共に筆者の考察を説明していこう。

ステーブルコイン決済の意義

 以前の記事で、ステーブルコインはなぜ重要なのかについて考察し、ステーブルコインが世界統一通貨になるかという点に言及した。結論としては、その未来は想像できないものの、現実世界とデジタル世界をシームレスに繋ぐ役割がステーブルコインにはあると考えている。

 現時点でステーブルコインの用途には、DeFi市場における基軸通貨としての役割と資金の逃げ先としての役割が存在する。特にDeFi市場での取引はほとんどがステーブルコインで行われているため、現実世界とDeFiを含むデジタル世界とで資金の移動を行うにはステーブルコインが欠かせない。

 これまでの環境では、DeFi市場で得た利益を現実世界で消費する場合、一度イーサリアムに換金してから取引所で法定通貨に再度換金しなければならなかった。今回、Visaがステーブルコインに対応したことで、DeFiで得た利益をそのまま現実世界の店舗で消費することができる。

スケーラビリティ問題の影響を受けないVisaネットワーク

 このことからもわかる通り、昨今は取引所の持つ役割が著しく低下していることが伺える。これまでは、暗号資産と法定通貨を換金するには取引所を介さなければならなかったが、現状はVisaやマスターカード、PayPalのように利用者に不便させることなく、シームレスに資金の移動ができる環境が整いつつある。

 また、Visaのようなスキームを採用することで、処理性能の低いイーサリアムのスケーラビリティ問題に左右されることなく、Visaの決済ネットワークを使用することが可能だ。イーサリアムを決済に使用する場合、ボラティリティの高さがネックになるだけでなく、スケーラビリティ問題の影響も考慮しなければならない。

 Visaの決済システムは、1秒間に1500トランザクションを処理できるため、この決済ネットワークを暗号資産決済でも利用できることは非常に大きな意味を持つことになる。当然ながら、Visaのネットワークにはブロックチェーンのように独自トークンが存在しないため、理論上は全ての暗号資産に対応することが可能だ。

 ビットコインと共に誕生したブロックチェーンは、元々は決済システムとして開発されていたため、決済シーンで活用されることの重要性は高いといえる。ステーブルコインはそのための1つの手段であり、将来的にCBDCに対応することも間違いないだろう。

田上 智裕(株式会社techtec代表取締役)

リクルートで全社ブロックチェーンR&Dを担当後、株式会社techtecを創業。“学習するほどトークンがもらえる”オンライン学習サービス「PoL(ポル)」や企業のブロックチェーン導入をサポートする「PoL Enterprise」を提供している。海外カンファレンスでの登壇や行政でのオブザーバー活動も行う。Twitter:@tomohiro_tagami