5分でわかるブロックチェーン講座

Anchorageが暗号資産関連事業として米国初の国法銀行に、暗号資産と既存金融の距離が近づく

BakktがSPACでCoinbaseより先に上場承認

 暗号資産・ブロックチェーンに関連するたくさんのニュースの中から見逃せない話題をピックアップ。1週間分の最新情報に解説と合わせて、なぜ重要なのか筆者の考察をお届けします。

BakktがSPACにより上場

 デジタルアセットプラットフォームを運営する米Bakktが、特別買収目的会社(SPAC)によるニューヨーク証券取引所への上場を発表した。VPC Impact Acquisition Holdingsとの合併を通して、約21億ドルの評価額で上場するという。

 Bakktは、インターコンチネンタル取引所が2018年に子会社として設立し、主にビットコイン先物取引やオプション取引、デジタルアセット管理事業を展開している。昨今人気を集めるSPACによる上場ということもあり、米大手取引所Coinbaseよりも先の上場承認となり大きく話題となった。

 Bakktは今回の上場申請に伴い、今後の事業展開を行う上での市場展望や競合他社の分析、暗号資産カストディ事業の現状などに関する考察資料を公開している。

 資料によると、暗号資産を含むデジタルアセットの市場規模は2020年時点で1.6兆ドルあるとし、2025年には5.1兆ドルに及ぶという。正式な合併は2021年4月〜6月が目処となっており、今後は消費者向けのアプリをローンチする予定もある。

 このアプリは、暗号資産やその他のデジタルアセットを統合した決済サービスとなる予定であり、2020年中にスターバックスのアプリ内にも試験導入されていた。

参照ソース


    Bakkt, the Digital Asset Marketplace Launched by Intercontinental Exchange in 2018, to Become a Publicly Traded Company via Merger with VPC Impact Acquisition Holdings
    [Bakktプレスリリース]

Anchorageが暗号資産関連事業として米国初の国法銀行に

 暗号資産カストディ大手の米Anchorage(アンカレッジ)が、暗号資産企業として初めて米国の国法銀行ライセンスを取得した。通貨監督庁(OCC)が発表している。

 2020年に入ってから、暗号資産と既存金融の距離が急速に近づいている。9月には大手取引所のKrakenが、ワイオミング州の法律のもと暗号資産銀行の業務を開始するためのライセンスを取得していた。

 今回OCCは、Anchorageへ条件付きの連邦信託銀行としてのライセンスを付与している。これにより、米国全土で暗号資産を取り扱い可能な銀行としての業務を開始することが可能となった。

 このライセンスは、JPモルガン・チェースやバンク・オブ・アメリカも保有するものであり、そのインパクトの大きさがわかるだろう。Anchorageは、2017年に元Squareの従業員であった二名により創業され、Visaやa16zなどから総額4000万ドルの資金調達を実施している。

 今後は、連邦政府公認の信託銀行として、既存金融の代わりに暗号資産やその他の金融資産を取り扱い可能となる。将来的に銀行口座で暗号資産を管理することができるようになるかもしれない。

参照ソース

今週の「なぜ」国法銀行のライセンスはなぜ重要か

 今週はBakktのIPOとAnchorageの国法銀行ライセンスの取得に関するトピックを取り上げた。ここからは、なぜ重要なのか、解説と筆者の考察を述べていく。

【まとめ】

Krakenは一部で、Anchorageは全土で
将来的には銀行口座で暗号資産を管理する時代が来るかもしれない
キーワードはBanking as a Service

 それでは、さらなる解説と共に筆者の考察を説明していこう。

KrakenとAnchorageが取得したライセンスの違い

 今週は、AnchorageがOCCより国法銀行としてのライセンスを取得したニュースが業界を賑わせた。先述したKrakenの取得しているワイオミング州の法律下でのライセンスと比較しながら、この重要性について考察したい。

 まずKrakenの例は、米国で初の「暗号資産銀行」としてのライセンス取得となっていた。これは、暗号資産と既存金融の距離を飛躍的に近づける取り組みとして注目を集めたものの、ワイオミング州の法律下でのみ有効なものである。

 つまり、その他49州ではこのライセンスは意味を持たないのだ。これに対してAnchorageは、米国全土を取り締まるOCCからのライセンス取得であるため、効力の規模が単純計算で50倍も違うことになる。この差は非常に大きいといえるだろう。

銀行口座で暗号資産を管理する時代へ

 今回OCCよりライセンスを取得したことで、Anchorageはこれまで金融機関が担っていた役割を自社で行うことができるようになる。例えば、暗号資産を運用する投資会社が顧客の資産管理のためにAnchorageに資金を入金し、そのままAnchorageで管理することが可能だ。

 利用者にとっても、暗号資産とその他の資産とを別々で管理していた状態から、Anchorageに一本化することができ運用効率を向上させることが期待できる。将来的には銀行口座で暗号資産を管理することができるようになる可能性があるといえるだろう。

 これまで暗号資産を管理するには専用のウォレットが必要であり、他人に知られてはいけない秘密鍵を厳重に管理するなどの煩雑な対応が強いられていた。仮に銀行口座で暗号資産を管理することができるようになる場合、暗号資産市場をマジョリティ層まで引き上げるポテンシャルを秘めている。

金融機関は金融機能として細分化

 昨今、BaaSというワードを頻繁に目にするようになった。ブロックチェーン業界ではこれをBlockchain as a Serviceの略称として使用しているが、ここではBanking as a Serviceとして使用したい。これは、現在の金融機関が担っている役割が金融機能として細分化されることを意味する。

 今後は、これまで銀行しか行えなかった事業を今回のAnchorageのように機能化して展開できるようになっていく。これは金融事業の民主化を意味し、その延長に分散型金融(DeFi)も存在するのではないだろうか。

 やはりDeFiがマスアダプションを達成するには、既存金融との融合が欠かせないと感じている。Anchorageのような暗号資産との距離が限りなくゼロに近い存在がハブとなることで、既存金融の資金や利用者がDeFi市場に流入することが期待できるだろう。

田上 智裕(株式会社techtec代表取締役)

リクルートで全社ブロックチェーンR&Dを担当後、株式会社techtecを創業。“学習するほどトークンがもらえる”オンライン学習サービス「PoL(ポル)」や企業のブロックチェーン導入をサポートする「PoL Enterprise」を提供している。海外カンファレンスでの登壇や行政でのオブザーバー活動も行う。Twitter:@tomohiro_tagami