5分でわかるブロックチェーン講座
MakerDAOが現実資産を担保にステーブルコインを発行へ、WeWorkとPayPal傘下のVenmoが暗号資産事業を開始
「ステーブルコインの担保資産にリアルアセットを追加すること」の重要性
2021年4月27日 06:19
WeWorkとPayPal傘下のVenmoが暗号資産事業を開始
WeWorkが、オフィススペースの支払いに暗号資産決済を導入することを海外で発表した。ビットコインやイーサリアムに加えてステーブルコインUSDCを受け付けるという。受け取った暗号資産はすぐには売却せず、暗号資産のまま投資対象としてバランスシートに載せる方針だ。
暗号資産決済を導入した背景としては、支払い方法の多様性と利便性の需要が高まっていることをあげている。先日ナスダックへの上場を果たしたCoinbaseが、既に利用料を暗号資産で支払う最初の会員となっていることも報告された。
ビットコインやイーサリアムによる決済需要はそこまで高くないものの、価格変動の少ないステーブルコインであれば決済に使用する人は確実に増加している。今後、様々なアプリケーションがブロックチェーン上で稼働するようになった場合、通常のキャッシュレス決済では対応できないため、ブロックチェーン対応の決済手段すなわちステーブルコインの需要は高まることが予想される。
WeWorkの発表と同日に、PayPal傘下のVenmoからも暗号資産売買サービスの開始が発表された。最低1ドルから購入することができるといい、Venmoで管理されている資金や連携先の銀行口座から直接暗号資産にアクセスすることができるようになる。
今回の取り組みは、ステーブルコインPaxosの発行・管理を行うPaxos Trust Companyとの提携により実現した。Venmoにおける流通額は年間11兆円にも及び、ユーザー数は米国だけで7,000万人を超えるという。
なおWeWorkの取り組みについても、事業パートナーはPaxos Trust Companyとなっている。
MakerDAOが現実資産を担保にステーブルコインを発行
ステーブルコインDAIの発行・管理を行うMakerDAOが、DAIの担保資産に現実世界の不動産を追加する提案を可決した。現実世界の資産がステーブルコインの担保となるのは初めてのことであり、実現すればリアルとバーチャルの融合がまた一歩進むことになる。
MakerDAOは自律分散型組織(DAO)の代表例であり、全ての意思決定がスマートコントラクトによって自動執行される。執行する内容は、ガバナンストークンMKRの保有者によって提案され、その都度投票が行われる仕組みだ。
ステーブルコインは基本的に法定通貨を担保に発行される。特定の管理主体が発行・管理を担うため集権性が高く、カウンターパーティリスクが存在していた。DAIは特定の管理主体が存在しない暗号資産担保型のステーブルコインであり、予め定義されたスマートコントラクトによって発行される。
今回、現実世界の資産をDAIの担保資産として取り込むために、Centrifugeとの提携を発表した。Centrifugeは、現実世界の資産をトークン化することに取り組むプロジェクトだ。
現実世界の資産をバーチャルの世界に取り込む仕組みは、非常に先進的かつ複雑になっているものの、Web3.0を実現するには欠かせない基盤システムとなるため、この後のパートで詳しく見ていきたい。
参照ソース
MakerDAO Will Soon Hold Real-World Assets as Collateral
[The Difiant]
今週の「なぜ」ステーブルコインの担保資産に現実世界の資産を追加するのはなぜ重要か
今週はWeWork・Venmoによる暗号資産事業やMakerDAOの新たな取り組みに関するトピックを取り上げた。ここからは、なぜ重要なのか、解説と筆者の考察を述べていく。
ステーブルコインはリアルとバーチャルを結びつける
NFTで現実世界の資産に一意性を持たせる
ブロックチェーンの課題はリアルへのしみ出し
それでは、さらなる解説と共に筆者の考察を説明していこう。
リアルとバーチャルを結びつけるステーブルコイン
DAIは暗号資産担保型のステーブルコインだが、当初より現実世界の資産を担保資産として加えることが提案されてきた。これは、バーチャルの基軸通貨であるステーブルコインをリアルと結びつけるためのものである。
Centrifugeとの取り組みも約2年前よりスタートされていた。論点となっていたのは、現実世界の資産をバーチャル空間に取り込むには、単にERC-20トークンを発行して論理的に現実世界と紐づく何らかの根拠があると主張するだけでは不十分だという点である。
何を当たり前のことをという感じだが、法定通貨担保型のステーブルコインとは違いDAIの場合は特定の管理主体が存在しないため、リアルとバーチャルを紐づけることは困難を極める。
NFTを使って現実世界の資産に一意性を持たせる
今回の仕組みでは、CentrifugeのTinlakeプロトコルが、アセットオリジネーターと呼ばれる現実世界の企業とMakerDAOとの橋渡しを行う。
Tinlakeは、現実世界の企業が預託した資産をNFTに変換させた上で管理し、NFT化された資産をERC-20トークンとして発行する。アセットオリジネーターは、資産を預託することで「TIN」というERC-20トークンを取得する一方、MakerDAOは「DROP」というERC-20トークンを担保に入れDAIを発行する流れだ。
これにより、TINとDROPが同等の価値を持つトークンとして発行されることになる。NFTを噛ませる理由は、現実世界の資産をバーチャル空間に持ってきたときに、そのままでは資産の一意性を証明することができないためだ。
アート作品などで使用されることで主に投資対象となってしまったNFTの本質的な使い方だと言えるだろう。
リアルにしみ出せるかどうかが今後の課題
Centrifugeは、不動産や請求書のトークン化などにも取り組んでいるプロジェクトで、今後は同様の仕組みを他の領域でも展開する方針だ。現状の暗号資産・ブロックチェーン業界の課題として、バーチャル空間に閉じている点があげられる。
バーチャル空間だけでも一定の市場規模はあるものの、我々の生活のペインを解消している様子はなかなか感じられないのが現実だ。インターネットが我々の生活を一変したように、ブロックチェーンの実現するWeb3.0もその可能性を秘めている。
今週は、米ワイオミング州でDAOを法人として認める法案が承認された。7月より施行される予定となっており、スマートコントラクトに法的効力が認められることになる。
これまでは、ブロックチェーンで管理されているからといって例えば当該データの所有権を法的に証明することはできなかった。しかし、今後は法的なプロセスを経たDAOによって開発されるブロックチェーンであれば、そこに法律が生まれるようになったのだ。
これはまさに、1600年頃に端を持つ東インド会社の設立以降400年以上にわたって続いてきた株式会社のアップデートであり、根付くかどうかはリアルとバーチャルの融合にあると考えている。