5分でわかるブロックチェーン講座

Chromeの拡張機能にコインベースのウォレットが登場、MetaMaskの一強を崩せるか

PolkadotはEVM互換に

 暗号資産・ブロックチェーンに関連するたくさんのニュースの中から見逃せない話題をピックアップ。1週間分の最新情報に解説と合わせて、なぜ重要なのか筆者の考察をお届けします。

Coinbase WalletがChrome拡張機能に対応

 米最大手暗号資産取引所Coinbaseの提供するウォレットサービスCoinbase Walletが、Chrome拡張機能に対応した。DeFiやNFTなどの分散型アプリケーションに接続できるようになる。

 DeFiやNFTなどをはじめとする分散型アプリケーション(DApps)は、ネイティブアプリではなく基本的に全てWebサービスとなっている。これは、ブロックチェーンの非中央集権的な思想が影響しており、AppleやGoogleといったプラットフォーマーには依存しない姿勢が背景にあってのものだ。

 そのため、インターフェースとなるウォレットもネイティブアプリではなくWebサービスの形態を取るものが多い(集権型取引所が提供するものを除く)。これまで、Web版のウォレットとしてはMetaMaskがほとんど一強の状態になっていた。

 今回、Coinbase WalletがMetaMaskに追随する形でChrome拡張機能としてWeb版をリリースしている。分散型アプリケーションでは、資産を動かす度にトランザクションが発生しウォレットでの署名が必要になるため、拡張機能として提供することでタブを切り替えたりすることなく署名を施すことが可能だ。

分散型取引所(DEX)Uniswapの画面。「Connect to wallet」をクリックするとChrome拡張版に対応しているウォレットのウィンドウが自動的に立ち上がる(左:MetaMask、右:Coinbase Wallet)

参照ソース


    Coinbase Wallet introduces new browser extension
    [Coinbase]

PolkadotがEVM互換に

 ブロックチェーンのインターオペラビリティ問題に取り組むPolkadot創業者のGavin Wood氏が、PolkadotをEVM(Ethereum Virtual Machine)に対応させる予定であることを明らかにした。

 現状のブロックチェーンは相互互換性がないため直接的に接続することができない。そのため、例えばイーサリアムブロックチェーン上でビットコイン(BTC)をそのまま取り扱うことができないのだ。これをインターオペラビリティ問題といい、Polkadotはこの問題を解消すべく取り組んでいる。

 Polkadotの目指す世界としては、全てのブロックチェーンがPolkadotにさえ対応していれば全て相互接続されるというものであり、開発者の負担を減らすことにも繋がる。Polkadotに接続されるブロックチェーンをパラチェーンといい、パラチェーンの枠には上限が設けられていることから近々オークションが行われる予定だ。

 そんなブロックチェーンのハブとなるPolkadotもイーサリアムだけは特別視しており、EVMには早い段階で対応しておく必要があるとの方針を示している。Wood氏はイーサリアムの共同創設者でもあり、現状のブロックチェーンエコシステムは自身が作り上げたイーサリアムを中心に形成されていることを理解しているようだ。

 今週は、Wood氏も主張するEVM互換の重要性について考察していきたい。

参照ソース


    Polkadot’s Gavin Wood: WebAssembly Is the Future of Smart Contracts, but ‘Legacy’ EVM Is Right Now
    [CoinDesk]

今週の「なぜ」EVMとの互換性はなぜ重要か

 今週はCoinbase WalletのChrome拡張版とPolkadotのEVM対応に関するトピックを取り上げた。ここからは、なぜ重要なのか、解説と筆者の考察を述べていく。

【まとめ】

分散型アプリケーションの多くはイーサリアム上で稼働している
EVMに互換性を持たせることでイーサリアム上のアプリケーションを誘導しやすくなる
マルチチェーンかシングルチェーンか

 それでは、さらなる解説と共に筆者の考察を説明していこう。

ほとんど全てのブロックチェーンがEVMに対応

 未だ解消されないイーサリアムのスケーラビリティ問題により、昨今はイーサリアム以外のブロックチェーンによる台頭が目立つようになってきた。具体例としては、Binance Smart ChainやAvalanche、Solana、Celoといったブロックチェーンが挙げられる。

 これら全てのブロックチェーンに共通するのは、EVMに対応している(EVM互換)という点だ。スケーラビリティ問題の影響からガス代が高騰したことで、イーサリアム上のアプリケーションを使用しづらくなったことが関係している。

 イーサリアム以外のブロックチェーンは、イーサリアム上のアプリケーションを自分たちのブロックチェーンに誘導したいため、チェーン側でEVMに対応することにより開発者の負担を軽減する狙いを持つ。実際、いくつかのアプリケーションがイーサリアム以外のブロックチェーンを使ってすでにサービスを提供している。

EVM互換の重要性

 EVM互換となることで、例えばSolidityというイーサリアムスマートコントラクト専用のプログラミング言語をそのまま使用できたり、今週紹介したイーサリアム系のウォレットを使用できたりする。

 MetaMaskやCoinbase Walletは、基本的にイーサリアム上のトークンを中心に対応している。イーサリアムにはERC-20というユーティリティトークン発行のための共通規格があるため、イーサリアムにさえ対応しておけば数百種のトークンを取り扱えることになるのだ。

 イーサリアム以外のブロックチェーンがEVMに対応することで、ERC-20トークンをそのまま誘致することができる。これは、新興ブロックチェーンにとっては非常に大きな意味を持つだろう。

マルチチェーンかシングルチェーンか

 イーサリアム以外のブロックチェーンが次々と出てきているのは、先述の通りスケーラビリティ問題が原因だ。しかしながら、イーサリアムも「イーサリアム2.0」によって、まさにこの問題の解消に向けて取り組んでいる。

 アプリケーション側の開発者にとっては、現状は確かにイーサリアムのスケーラビリティ問題は大きなネックとなっているが、ブロックチェーンが複数乱立することになるのもそれはそれでネックになると言えるだろう。なぜなら、いくらEVMに対応しているとはいえ個別開発が発生することは避けられず、iOSとAndroidのように複数のOSに対応しなければならない状況となるからだ。

 将来的にどうなるか定かではないが、イーサリアムとそれ以外のブロックチェーンが共存するマルチチェーンの世界か、イーサリアムだけもしくは多くても1、2つのブロックチェーンが生き残るシングルチェーンの世界か。Polkadotは前者に賭けているプロジェクトだが、果たして今後どうなるかは注目に値するトピックだと言えるだろう。

田上 智裕(株式会社techtec代表取締役)

リクルートで全社ブロックチェーンR&Dを担当後、株式会社techtecを創業。“学習するほどトークンがもらえる”オンライン学習サービス「PoL(ポル)」や企業のブロックチェーン導入をサポートする「PoL Enterprise」を提供している。海外カンファレンスでの登壇や行政でのオブザーバー活動も行う。Twitter:@tomohiro_tagami